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春の日

穏やかな陽射しと柔らかな風が吹く青空の下、初めて繋いだ手は温かかった。



「ねえ!薫兄かおるにぃ、待ってよ!」
「遅ぇ~ぞ、勇登はやと

直ぐに追いついた人の隣に並ぶと、薫兄が俺を見て小さくぷぅと頬を膨らませた。

「ん?どうしたの?」
「……お前…また背ぇ伸びただろ?」
「ああ、うん。その所為か朝起きたら時々関節とか痛いんだよね~」
「………」
「薫兄?」

プイッと顔を背けた人を覗き込むと小さく唇が尖っている。

「…………たのに…」
「え?」
「……俺より小さい方が……可愛かったのに…」

拗ねたような口振りに思わず吹き出す。そんな俺を見てもう一度、今度は大きく頬が膨らんだ。

「な、何だよっ!?」
「あのさ~、俺もう高校生だよ?可愛いなんて年じゃないよ~」
「だからって!…そ、それに俺の方が二つも年上なのに見下ろされるなんて……納得いかない!」
「そんな事言ったって俺の所為じゃないよ?」
「それでも!納得いかないんだよ!」

そう言うと、薫兄はズンズンと早足で歩き出した。

「あっ、待ってよ~」

声を掛けると更に歩く速度を速める人の背中を慌てて追いかける。

「薫兄~」
「知らねえよ、勇登なんか」
「今日からやっとまた一緒に行けるんだからさ」

その言葉に薫兄の足がピタリと止まる。再び追いついた人の手をそっと握る。

「俺が迷子にならないように、こうやって学校まで手を繋いでくれる約束でしょ?」
「………そんなの………小学生の時の話だろ…」
「俺が中学に上がってもしてくれたじゃん」
「……一年間だけだったろ…」
「次の年には薫兄が高校に上がったからね~。漸くまた同じ学校に通えるようになったね」
「………」
「薫兄、また一年間だけでもいいから…手を繋ぎたい」
「………」
「ダメかな?」
「……勇登がイイなら……別にイイけど」

少し俯いた横顔が薄赤く染まるのに、嬉しくて笑みが零れる。
指先に少しだけ力を込めてきゅっと握ると、同じくらいの力で握り返してくれる指先は柔らかくて温かかった。

「薫兄、大好きだよ」
「ああ、俺も勇登が好きだよ」

笑うと笑い返してくれる笑顔は、春のどんな花よりも綺麗だ。

「行こうか」
「うん」

手を繋いだまま、青空の下を歩いた。

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Clap