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誰にも言いませんから!


大国フォルディアントの城下町。
町の中央を流れる水路が、太陽の日差しを受けてキラキラと輝きを放っている。適度に吹きわたる風が水路近くに咲いた可憐な花々を揺らし、春の訪れを感じさせる穏やかな日だ。

「わぁ…良い風…。」

その一角の赤い屋根の小さな家の戸を開け放ち、少女が呟いた。少し色素が抜けたような亜麻色の髪を三つ網を風に揺らしながら空を見上げ、大きく伸びをする。

心地の良い風と太陽の光だ。ここのところ憂鬱気味だった気持ちも、心なしか晴れて行くような気がする。

「ふふ、今日はなんだかいいことがありそうな気がする。」

緑色のまん丸な瞳をわずかばかり細めて太陽に向かってそんな独り言をつぶやいていると、ふと目の前に立つ家の扉が開き、中から中年の女性が姿を見せた。

手に箒とちりとりを持っているから、きっと朝の日課のお掃除をするところなのだろう。女性は玄関前に突っ立っていたこちらに気がつくと、パッと明るい笑顔で白い歯を見せて笑った。

「おや、ノエルちゃんじゃないかい!おはようさん。今日はいい天気ね~。」

「おはようございます!ほんと、いい天気で嬉しいです。お掃除ですか?」

「そうよ~。最近ずっと天気が悪かったじゃない?曇り空ばっかりで洗濯物も乾かないわ掃除も出来ないわで…やっとこさ、たまってた家事も出来るってもんね。大助かりよ!」

ノエルは女性の言葉に小さく笑って頷いた。

彼女は向かいの家のクラエス・ベンジャーさん。肝っ玉母さんといった感じのクラエスさんは、白いエプロンを腰に巻きつけて準備万端といったところだ。

確かに彼女の言うように、ここのところあまり天候は芳しくなく、雨か良くても曇り空ばかりだった。そのせいで元からネガティブの気があるノエルも、いつにもまして気が滅入っていたのだから。

そういえば昨日の夜は綺麗な月が見えていた。

ベッドに横になって窓の外をぼんやり眺めていた時に、夜空にぽっかりと浮かぶ月が見えたのだ。「月の綺麗に見える夜は、翌日、天気が良くなるのよ」と、昔祖母に教えて貰った気がする。

「ところでグラデナさんの具合はどう?」

箒を片手に持ちながら、クラエスは頬に手を当てて眉尻を下げた。グラデナはノエルの祖母で、幼い頃から彼女を育ててくれた人でもある。そして彼女は薬売りとして、ちょっとした有名人でもあるのだ。

ここで少し説明をしておくと、「薬売り」というのは、文字通り薬を売って歩く仕事のことでもあるが無論それだけではない。既存の薬を売って歩くのではなく、自身で薬草などを調合した薬を処方し治療を行う…要するに薬剤師兼医者のような役割を担っているのだ。

そのため「薬売り」として名乗るためには難しい試験に合格し、王国に認められなくてはならない。とどのつまり、豊富な知識と判断力が必要となる大変厳しく、名誉ある職業なのである。

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