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誰にも言いませんから!


―…その日は満月だった。

漆黒の夜空にぽっかりと浮かぶ月は、静かに町並みを照らしている。日中はせわしなく人々が行き交う商店街も、この時間はもうすっかり人気がない。

街中を流れる水路に浮かぶ小舟が、時折、水面とぶつかりチャプン、と音を立てる。ゆっくりと波紋が広がり、水面に映し出される月影をにじませる…そんな静かな夜だった。

しかしそんな静けさを払うように、1人の青年が人気のない路地を駆け抜けて行く。額にはわずかに汗がにじみ、サファイヤのように美しい瞳はキュッと鋭く細められていた。

「……まずいな、」

青年が呟くとほぼ同時、月明かりが陰り、目の前に人影が踊り出た。黒いフードをかぶっている目の前の人影がユラリと揺れ、無言のまま体制を立て直す。

陰っていた月明かりが雲間からこぼれ、同時に目の前の人影の顔面に付けられている仮面に反射した。見ようによっては笑っているようにも、怒っているようにも、悲しんでいるようにも、無表情のようにも見える。そんな仮面だった。わずかに差し込む月明かりがその仮面にはっきりとした陰影を作り出し、この世のものでない何か恐ろしいものに感じさせる。

仮面の男は漆黒のごとく黒い羽織を風に揺らしてたたずんでいる。例えるならばそう―…まるで死神、のような。

「誰の差し金だ。」

「……」

青年が問いかけるも、仮面の男は答えない。
ただ黙って、静かに青年を見つめている。

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