年上彼氏と年下の彼
ポツリと降ってきた雨粒は次第に激しくなり、路面はあっという間に濡れてしまった。ゲリラ豪雨かという位激しい降り方に、軒先にいた二人の足元にも容赦なく雨水が跳ね返ってくる。
「とりあえずここにいると濡れますから店内に退避しましょう。」
「う…だね。もう!なんなのこの降り方。」
コウキに促されて憎らしげに空を睨んでから、店内に逃げ込んだ。
「なんか凄い降りっぷりですね…」
スーパーの屋根を叩く雨音が一段と激しくなる。しばらくはやむ気配を見せないようだ。ここ最近はこんな感じの雨が多い。まるで台風か何かが来たみたいに激しく降るのだ。だからいつ降ってきてもいいように、いつもは鞄の中に折りたたみの傘を入れて持ち歩いているのだが…なんということだ。鞄の中をあさりながら千波は内心舌打ちした。
いつもは鞄の中にしまってあるはずの折りたたみの傘を、なぜか今日に限って忘れてきてしまっていることが判明したのだ。そういえば今朝はパンプスを買いに行こうとバタバタして、仕事用の鞄の中から折りたたみの傘を移してくるのを忘れてしまっていた。
ああもう、なんという失態!
過去に戻れるなら出かける前の自分に傘を入れろと一喝してやりたい気分だ。何も言わずむくれた顔のまま黙ってしまった私を見て、コウキは閃いたのか笑顔を浮かべた。
「あの、もしよかったら途中まで一緒に入っていきませんか?」
「え?いいよ。佐々木君が濡れちゃうし。」
「大丈夫ですよ。それにほら、あっちの空はもう日が指してますよ。」
コウキが指さした方角を見てみれば、確かに空の合間からまばゆい光が差し込んでいるのが見て取れた。
「どうせお互い行く場所は駅なんですし、ここからそんなに離れてないですから。小山さんさえよかったらどうぞ。」
「…ほんとにいいの?」
「はい。」
「……じゃあ、お邪魔します。」
「はは、どうぞどうぞー。いらっしゃいませ。」
コウキは冗談っぽく言うと悪戯っぽい笑みを浮かべた。こういう笑顔はまるで少年みたいに純粋だ。相合傘なんてこの年にもなって恥ずかしいような気もしたけれど、ちらりと見上げた彼の顔はやっぱり笑顔だったから。
…可愛いなぁ、まったく。屈託のない笑顔に、ついついつられて私も笑ってしまった。
「あ、小山さん。見て下さい、あれ。」
「ん、何?」
「ほら、あっち!虹が出てますよ。」
「えっ?嘘!!どこどこ!?」
「ほら、ビルの向こう側に…」
「あー!ほんとだー!!凄い綺麗…!」
見れば綺麗な虹がビルの向こうにかかっていた。七色の橋は薄く輝いてゆらゆらと揺らめいているようにも見える。都会に出てきてからこんなに綺麗な虹は、なんだか久しぶりに見たかもしれない。私が一人で虹を見ながら感動していると、隣でコウキが噴き出して笑っていた。
「…ちょっと。何で笑うのよ、佐々木君。」
「や、なんかすごく嬉しそうだなと思いまして。」
「う…い、いいでしょ別に!虹見たのなんて久々だったから嬉しかったの。だって綺麗でしょ?」
私が唇を尖らせてそう言うと、コウキは少し眼を細めて柔らかな笑みを浮かべた。その笑顔をがあまりにも優しかったものだから。あまりにも不意打ちの笑顔に心拍数が上がってしまった。赤くなる顔を隠すようにして、私は足元だけを見るようにして歩くしかなかった。