年上彼氏と年下の彼
「そ、そういえば佐々木君は何かサークルとかしてないの?」
わたしが大学生の頃は結構サークル活動を積極的に行っていた。掛け持ちなんてのもざらにあることで、わたしは現に当時2つのサークルを掛け持ちしていた。千波がそう問うと、コウキはにこりと笑顔を浮かべた。
「あ、はい。バンドやってます。」
「えっ!?バンド!?」
あまりにも意外すぎる答えに、思いがけず大声を出してしまった。コウキのイメージからするに、もっと静かなイメージのサークルに入っているのかと思っていたのだ。それがまさかのバンドとは。穏やかそうに見えて実は結構活発なのか。千波が驚きであんぐり口を開けていると、コウキは苦笑した。
「そんなに驚かなくても。」
「ごめんね。なんかちょっと意外で…」
「はは、よく言われます。でも俺の場合、昔ドラムやってたことあるってちょっとだけ話したらメンバー足りないからって勧誘されただけなんです。」
「ドラム出来るんだ。凄い!!!」
てんで楽器系統が出来ない千波にとって、あの叩く物の沢山ついている複雑そうなドラムを演奏出来るというのはかなり凄いと思った。なにせ千波は音楽の評価が常に2だった。挙句、先生には憐れみを込めた目で「音楽はその、センスの問題だからあんまり気にしないで」などとフォローされる始末。従ってカラオケもあまり得意ではないのだ。
「いや、そんなことないですよ。」
「またまた~。謙遜しなくてもいいって!なんかいいなぁ…青春っぽい。」
「そうですか?」
「うん。わたしが大学の時なんてね…」
言いかけて口をつぐんだ。いけない。何を言ってしまうところだったんだ自分は!
わたしは大学の頃は結構派手に遊んでいた。…いや、最近は落ち着いてはきたけれど、今だって確実にその延長線上にいるのだ。当時大学生だった千波は同じ研究室の担当教授と、いわゆる「不倫」をしていたのである。他にもサークル活動でコンパをした際、まぁ、ノリで、適当に付きあって…とかいうのも何度もある。
だからわたしのこれは青春とは違う話だ。乱れている。乱れまくっている!!目の前の好青年にそんな話は決してするものではない。してはいけない。急に黙りこくった千波を不審に思ったのか、コウキが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「…あの小山さん?大丈夫ですか?」
「へっ!?だ、だだだ大丈夫!いや、わたしが大学の時はもっとなんか、青春とはまた違う感じだったからさ。」
「へぇ、なんだか気になりますねその言い方。一体どんな大学生活だったんですか?」
話を逸らすはずが、なぜかここで食いついてきた!コウキは興味津津と言った様子で、眼鏡の奥の瞳をきらきら輝かせているではないか。千波はひきつった笑みを浮かべると、話題を変えるようにあさっての方向を向いた。
「あ、あー…えっと、それにしてもバンドしてるなんてびっくりしちゃった。」
「そんなにですか?」
「うん、モテそうだね~、佐々木君。彼女いるでしょ。」
「え?いないですよ。」
あっさりとした淡白な、あまりにもストレートな返事に拍子抜けしてしまった。コウキは特に気にしている様子もなく、あっけらかんとした顔をしている。逆に驚いたのはこっちだ。てっきりこんな好青年、彼女の一人や二人いるものかと思っていた。