年上彼氏と年下の彼
大学を卒業後、当時付き合っていた教授とは会う機会はなくなり、次第に疎遠になり破局。その後は就職先が同じオフィスの先輩と付き合うことになったけれど、長続きはせず3カ月で別れた。私だってもう立派な社会人だ。これからは仕事に生きることにしよう。そう決めた矢先、コウキと出会ったのだった。
私はちょっとした教材を扱う会社に勤務していることもあり、コウキの通う大学へ営業に行ったのである。まぁキャンパス内は広いし、元から方向音痴の気がった私は初っ端から完全なる迷子になってしまったのである。どうしたものかと校内に設置してある案内版を見ながら立ちつくしていた私に、背後から声がかかった。
「こんにちは。どうか、したんですか?」
そこで声をかけてきたのが、コウキだったわけである。
光に少し透けて見える茶色の髪と、優しそうな瞳。身長は意外と高い。178センチくらいあるかもしれない。その割に体格は細身で、なんだかぱっと見モデルさんかなにかのように見えなくもない。ただ、彼から漂う良い人オーラというか、一切のチャラさを感じさせない穏やか感じが、なんだかとても好印象だった。
「あ…えっとあの、私営業でこちらの大学にお邪魔させて頂きました、○×商社の小山千波と申しますけど…ええと、実は市原教授に御用件がありまして…け、研究室の場所がちょっと、その、イマイチ分からなくて…」
自分よりも若い学生の、しかも男の子に道を聞くのがこんなに恥ずかしいことだとは思わなかった。自分でもびっくりするくらい口ごもってしまった気がする。とりあえず首から来客用のカードは下げているものの、不審者に思われてしまってはマズイと思い挨拶を済ませて頭を下げておいた。
コウキは最初こそきょとんとした顔をしていたものの、すぐに笑顔を浮かべた。そのあまりに屈託ない笑顔に少なからずときめいた、とかは内緒の話だ。
「あ、例の新規導入するかどうかの教材の件ですかね?俺、市原研究室の生徒なので、もしよかったら研究室まで案内しますよ。」
「え…あ、じゃあお言葉に甘えて…」
「こちらです。」
コウキは大学で教育学科。
将来は先生になりたいんだそうだ。研究室へ向かう間、他愛のない話をしていると、彼は少し照れ気味に笑いながらそんなことを言っていた。確かに言われてみればいまどき珍しいほどに純粋な好青年だし、先生という職業は向いていそうな気がする。茶髪の髪を揺らしながら隣を歩く青年を盗み見ながら、心の中で感心の溜息を漏らしていた。
…とまぁ、私が初対面のコウキに抱いた感情はそれくらいのものだった。(と思う。)
爽やかだし笑顔も可愛い。かっこいいなとは思ったけど、恋愛感情なんてもちろん、これっぽっちも湧かなかった。何より年下だし。そう、年下だし!!
そんなこんなで結局私が営業していた教材を大学側は気に入ってくれて、それから何度か営業にお邪魔させてもらった。そのたびに研究室のコウキとも顔を合わせるようになったわけだ。