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年上彼氏と年下の彼

「…千波さん?」

ふと背後から聞こえてこいた声に、立ち止まる。
どこかで聞いた声。懐かしい声が聞こえた気がした。これが、勘違いじゃないのなら。
ゆっくりと振り返ると、そこにはあの優しい笑顔をした彼…コウキが立っていた。

「コウキ、君?」

「やっぱり千波さんだ。お久しぶりです。鼻、真っ赤ですよ。」

一年ぶりに会うのに、まるでつい昨日会ったみたいな口ぶりで。少しいたずらっぽく笑って鼻の先を指さして笑う彼の姿に、私は何も言えなかった。こんな日に、彼に会うなんて、そんな偶然ないだろうと思っていたのに。一年間も会ってないし、きっと忘れてるだろうと思っていたのに。視界が歪む。ああもう、なんで。なんで私は。

「コウキ君。」

「はい?」

「ちょっと…少し握手しよう。」

「え?なん、」

なんで、と言いかけたコウキの言葉は止まった。私の顔を見るなり眼を丸くして、そしふっと優しく微笑んで、その手を握り返してくれた。暖かなやわらかい体温。凄く心地が良くて。優しい声とその笑顔が見れるだけで、こんなにも心が落ち着くっていうのはつまり。一年前のあの頃から、きっとそういうことだったに違いない。

「―…千波さん、泣かないで下さい。」

「コウキ君、私ね、私、今年で26なの。君よりも結構年上なの。」

「はい。知ってます。」

「私って昔から年上の男の人が好きでね。それもちょっと軽そうな感じの。そういう男と遊んでばっかりで、とっかえひっかえやったり、割と、凄くかなり嫌な女なの。」

「はい。」

「だから年下のコウキ君はないなって思って。こんな誠実そうな人、絶対にないなって。」

「……。」

「でも、じゃあこの気持ちは何なのかなって、今、久しぶりに会って泣きたくなったこの気持ちって一体何なのかなぁって、思っちゃうわけだよコウキ君。」

「でも俺はずっと好きでしたよ。初めて会った時からずっと。」

「……なんでそういうことサラッと言えるの。」

「だって俺、若いですから。」

「嫌味。」

「一年前何も言わずにいなくなっちゃって、それ以来ずっと待ちぼうけだったんですから、それくらい大目に見てくださいよ。実習明けたら言おうと思ってたのに、告白する時間もなかった。」

そう言って笑うコウキの顔も、少しだけ泣きそうな顔をしてる気がした。ぎゅ、と腕にこもる力が強くなる。ああ、これってやっぱりもう、あれですか。認めたくなかったけど、やっぱりあれなんだろうなあ。恋してるってことだったんだろうなぁ。

「もう一生言えないんだろうなって思ってました。でもまた会えた。だからもし、また千波さんに会えたら、今度こそ伝えなくちゃって思ったんです。俺の気持ち。貴方のことが、好きです。」

彼との初めて口付は、しょっぱい涙の味がした。


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