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年上彼氏と年下の彼

その後新しく営業をすることになった大学でも順調に仕事がこなしていった。あれから1年が経つ。その間に私には彼氏が出来た。もちろん年上の彼氏だ。取引先の教授の助手の男性である。別に好きとかそういう感情はなかったけど、でも告白されたからOkした。

「コーヒー、淹れようか。」

「うん、お願い。」

私が小さく頷くと、彼はベッドから降りてキッチンのほうへ歩いて行った。窓から少しばかり差し込み朝日に眼を細めて起き上がる。今は何時だろう。ぼやけた視界の中で時計を見やると、その針はちょうど9時きっかりを指していた。起き上がろうとして少し眉間にしわをよせる。うーん、昨晩の後遺症のせいか、少し体がだるいし腰が重い。

「…ごめんな、千波。痛かった?」

「ううん、平気。ただ私もやっぱもう若くはないなー…体力ないもん。」

「はは、君が若くないんなら、君より年上の俺はどうなるんだ?」

私は彼と笑いあうとタバコの匂いの残るシーツを纏って、キッチンのほうへ向かった。コーヒーの香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。白い湯気が立ち上るカップをそっと両手で抱きしめて、ふーふーと息を吹きかける。彼が用意してくれたコーヒーに口を付ける。
…あーもう、相変わらずブラックコーヒーだ。苦い。これだけ一緒にいるんだから、そろそろ味くらい覚えてくれてもよさそうな気もするんだけど、なんて文句は心の中だけでとどめておくことにしよう。

「そういえば君が持ってきた教材、教授がひどく気に入ってたよ。」

「ほんと?良かったー。」

「君が持ってくる教材はいつも眼を引かれるものばかりだって言ってるし、教授のお気に入りだよ。」

「へぇー…嬉しいな、教授のお気に入りだって言って貰えるなんて幸せー。」

私がそう言うと彼は少し困ったような、怒ったような顔をして私の腕を掴んで引き寄せる。私の体はすっぽりと彼の腕の中におさまってしまった。

「どうしたの?」

「…あんまり教授と仲良くなるなよ。」

「やきもち?」

「………かもね。」

吸い寄せられるように口づけられて、反射的に眼を閉じる。
さっき起きたばっかりなのに。私ももう若くないなーって、体力ないなって話したばっかりなのになぁ。…唇に灯る熱に脳内が浸食されていく。コーヒーの匂いが漂う部屋の中、私はシーツの波におぼれる。

―…じゃ、実習開けて帰ってきたら、また千波さんの好きなコーヒー入れますね。
―…約束ね。

口づけに没頭しながらも、頭の隅で約束した言葉が聞こえてきた気がした。


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