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最悪の一日。


「私はそういうのはいいの。香織の結婚を見届けてからでいいんです、わたしは。」

「ハハハ、めっちゃ責任重大だわ。いつになるかも分かんないのにね~。まぁ、いいや。アタシもまためぼしそうな婚パあったら声かけるね。道重さんにも頼まれちゃったし。」

そういえば、今回の婚活パーティの主催者である道重という男が、帰り際に声をかけてきたのだった。香織と顔見知りであるらしい彼は、リーゼントにサングラスというなんとも妙な出で立ちをした男だった。恰好だけ見るとまるで極道だな。そう思ったのはここだけの話だが、まぁおそらく見かけた人は皆そういう感想を持ったに違いないけども。

だが話してみるととても気のいい人で、初対面のめぐみにも腰低く挨拶をしてくれた。もっとオラオラ系なのかと思ったが、見た目に反してとても優しい人だった。しかも寒いだろうからと、小さなホッカイロを二人にプレゼントしてくれた。

うん。とてもいい人、道重さん!好印象だ。今度から「みっちゃん」と呼ぶことにしよう。

「あ」

「どしたの?」

もぞもぞとポケットの中のホッカイロをいじくりまわしていた最中に、ふと声をあげた。少し前を歩いていた香織はその声に気付いて立ち止まり、首をかしげて振り返った。

「いや、ちょっとそこのコンビニ寄っていい?今朝ボールペンなくしちゃってさ。」

そうなのだ。実は今朝から続く不運ハプニングの中にはそんな小さな事件もちょこちょこあったのだ。まぁボールペンくらい、わざわざ今買わなくてもいいのかもしれないが、後回しにしておくと結局忘れるというのが、今までの経験上自分でもよく分かっている。

「そういえばそんなことボヤいてたっけね~。いいよん。アタシ外で待ってるね。」

「はーい、ちょっと待ってて。」

よし、ボールペンを買うついでに、あったかい肉まんでも買おうかな。今日寒いし、香織も外で待ってるし。さっきは気の利いたこと言ってあげられなかったし、お詫びもかねて何か買ってこーっと!

「ありがとうございましたー。またお越し下さいませー。」

結局、悩んだ挙句、ピザまんになった。
…違うのだ!肉まんにしようかと思ったら、出来たてのピザまんが運ばれてきたものだから、やっぱりこっちが食べたくなってしまったのだ。人間、「出来たて」とか「期間限定」とか、そういうものに反応するように出来ているらしい。

目的のボールペンも買えたし、ホクホク気分で外に出た。途端に冷えた風が体を撫でていったが、それよりもビニール袋の中のピザまんがあたたかくて美味しそうだから、へっちゃらだ!

「ごめん、お待たせ…って、あれ?」

めぐみが外に出ると、そこに香織の姿がなかった。

きょろきょろとあたりを見回してみるが、やはり香織らしき人影は見当たらない。香織に限って何も言わずにいなくなる、というのはあり得ない。何か急用でも入ったのだろうか。鞄の中からスマホを取り出してLIMEを開く。しかし何のメッセージも入っていなかった。

「……どこ行っちゃったんだろ…」

木枯らしが素足を撫でて行く。
それと同時に、心臓がドクドクと嫌に脈打つのが分かった。


……嫌な予感がする。

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