最悪の一日。
「んー…それにしても、なんかグッと惹かれる人いなかったな~。ちょっと残念。」
今回の婚活の参加者のことを指しているのだろう。香織は深々と溜息を吐きだした。
…いや、というか香織には彼氏がいるでしょうが!めぐみは苦笑交じりに香織の横腹をツンツンつついた。
「あ~。その発言、祐真くんに言ってやろ~。」
「ご自由にどうぞ?」
「ほほう。随分と強気ですな?香織殿。」
「ま、ねー。だって最近は祐真からの連絡もないし、放置されてるし。これくらいはいいんじゃないの?」
白い歯を見せて悪戯っぽく笑った香織は仕返しと言わんばかりにめぐみの横腹をくすぐった。ううう、ヤメロー!!脇腹は弱いんだわたしは!!!!もう30も近いアラサーの女子二人が年甲斐もなく、学生のようにじゃれあう。気持ちはまだまだ若いぞ!
「…って言ってもね、なんだかんだ言いつつアタシ祐真のこと好きだし。向こうがアタシを嫌いにならない限りは、今のとこ別れるつもりはないもん。それでも別れたいって言われたら…その時は、引き留めるつもりはないけど、」
ふと香織が真顔になって呟いた。
ソッと香織の横顔を盗み見る。いつもと変わらない毅然とした態度で言っているが、その顔は少なからず寂しそうだった。長い睫毛はわずかに伏せられていて、口元に少しだけ浮かぶ笑みも、心なしか力がないように思えた。
…恋愛は難しい。しかも、お互いに年を重ねてしまっているからなおさら。
香織に何か言葉をかけようとしたが、調度いい言葉が見つからない。こういう時、恋愛経験が豊富だったのなら、何かしら気のきいた台詞を言えるのにな。あいにく、自分はそういう経験には乏しいのだ。それでも必死に、何か言おうと口をパクパクさせていると、不意に香織がめぐみのほうを見て噴き出した。
「ちょっと、何そんな餌待ってる鯉みたいな顔してんのよ~~!まじウケるわ。」
「ひょっと、ひゃにふふほよ!(※ちょっと、何するのよ)」
めぐみの両頬をつねって笑う香織の表情は、またいつもの明るさを取り戻していた。うん、でもまぁ、何か言えなくても、香織がこうやって笑ってくれるならそれでもいいや。そもそも、私よりも経験豊富な香織に私から言うアドバイスなんて、ないもんね!!!
「てかさー。めぐみもそろそろ彼氏作れば?」
「いや、そんな家庭菜園すれば?みたいなノリで言わないでくれるかな。」
「だってアンタ、今までもろくに彼氏とか作らなかったじゃん?同じアラサーの身としても、幼馴染としても、親友としても、とにかく心配なのよ。」
心配してくれるのは嬉しいが、そういうのはいらないのだ。
確かに香織の言うように、今まで付き合った人と言えば、学生時代の一人だけだ。まぁ、一カ月も続かず別れてしまったので、今となってはアレが付き合っていたのかどうかも怪しいような感じがするが。
ふと思い出して、胸の奥がツンと痛んだ気がするが、気にしない。