最悪の一日。
「すみません、予約していた早川です。」
「早川様ですね、当社社長の道重より承っております。本日はご参加頂きありがとうございます。」
「今日は道重さんは?」
「申し訳ありません、少し遅れて到着するとのことです。後ほど早川様のところへも個人的にご挨拶にお伺いさせて頂きたいと、申しておりました。」
「分かりました。ありがとうございます。」
香織は慣れた感じで受付を済ませると、ネームカードのようなものとバインダーを持って戻ってきた。
「終わった?」
「うん。あ、これ。自分の名前書いてあるから、胸に付けろってさ。」
「はいよー。」
「それからこれ、自己紹介の記入カードね。」
香織はバインダーの一つを手渡すと、めぐみの隣に腰を下ろした。バインダーに挟まれたカードには年齢やら職業やら、やたらと書き込む項目が沢山ある。これに記入せよというのか。なんともまぁ面倒くさい。表情が顔に出ていたのだろう。香織は苦笑しながらめぐみの頬をつねった。
「めんどくさいけど書いてよね。」
「分かってるよ。でもこれ、なんか履歴書っぽくない?」
「だね。ウケる。」
二人でブツクサ言いながら一通りの記入を済ませたところで、開始時刻になったようだ。ふと目をあげるとそれなりに人が集まっていたようで、女性は勿論、男性のほうも大学生くらいの若い子から初老の方まで、幅広い年齢層の人が見受けられた。
「ね、ね。あの子、かっこよくない?」
ツンツンと肩を叩かれて、香織が指さした方向にいたのは若い男の子で、スマホをいじりながら前髪をいじっている。確かに見た目はいいかもしれない。でも漂う雰囲気がいかにもいかにも、チャラそうで、めぐみの苦手なタイプだ。
「あぁ…うん、香織はああいう子好きだよねぇ。」
「だってかっこいいじゃん。」
「やっぱ見た目かい。」
「まぁね~。でも祐真ほどじゃないかな。」
「ひえ、突然のノロケ!!!」
「冗談よ冗談~~。」
香織はケラケラと笑うとソファから立ち上がった。それに続くようにして、めぐみも立ち上がる。…後々、この場にいたことを後悔することになるのは、また少し後のこと。