最悪の一日。
「やばいもう帰りたい…」
会場に到着するなりめぐみは眉間にしわを寄せて、足取り重く香織の後ろに隠れた。
それもそのはず。めぐみはこの手のパーティが大の苦手なのだ。
「やばいまじでお腹痛くなってきたし帰っていい?今日朝からツイてないし、もしかしたら会場が爆発するかもしれないし…」
「は?何言ってんのめぐみってば。んなわけないでしょ。ほ・ら!!!行くよ~~~」
香織はくるりとこちらを振り返ると、めぐみの両肩を掴んでそのまま強引にめぐみの背中を押しながら歩きだす。顔は笑っているが、手に込められた力は強い。ここで逃がしてたまるものか、という感情が手に込められた力から嫌でも伝わってくる。必死の抵抗もむなしく、そのままずるずると会場の中へ引き込まれてしまった。
会場は想像していたよりもずっと立派なホテルだった。
正直、センスのないキャッチコピーを見た瞬間に「あ、これヤバげのやつ(失礼)」と思っていたのだが、そんなことはなかったようだ。
「あ、じゃあアタシ受付してくんね。めぐみはここで待ってて。」
「うん。よろしくー。」
「言っておくけど、逃げないでよね?」
「……うん。」
「ちょっと、今の間は何かな、めぐみ。」
「ハハハ、じょ、冗談ですよ香織さま。逃げないから受付お願いしますー。」
ちっ。相変わらず香織は勘が異様に鋭い。隙あらば逃げようと思ってたんだけどな。無理だった。内心舌打ちをしながら近くのソファに腰掛け、ボーっと外を眺める。もう暗闇に包まれた町並みは、ネオンの明かりでキラキラと宝石をちりばめたように輝いている。
今朝から続いた最悪な出来事続きには、正直かなりショックを受けている。
嫌なことが続くと、それはどんどん悪化していくようで、実際仕事のこともそうだ。
あれだけ頑張ろうと息巻いていた案件も全部パーになったのだ。そりゃ傷ついて当然だろう。
…正直に言おう。泣きたい。めっちゃ泣きたい!!!!もう今すぐにでも泣きわめき散らしてしまいたくなる!!!!!…でもそんな大人げないことをして何になる。優秀な人、立ち回りの上手い人が仕事を得る。社会に出てしまえばそんなこと、暗黙の了解だ。入社してからの年数とか、そういう問題じゃないのだ。それが分かっているから辛い。
こういう、長いものには巻かれろというか、そういう当然の社会のルールを理解して、自分の立場とか理解しちゃってるから、もう私は子供ではないのだなと実感する。それだけ年数も経ったし、経験も積んでいるのだ。……あぁ、わたしってば、ちゃんと大人になったじゃないか!凄いぞ!!そんな慰めで己を鼓舞し、めぐみはテンション下がり気味の己を奮い立たせた。