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最悪の一日。


「ふーんだ、もういいよーだ。」

「アハハ、ごめってば。拗ねないでよ~。ほら、プリンあげるから。」

ひょいと差し出された一口サイズのお弁当用プリンを、めぐみはまだむくれ面をしながらも受け取った。いじけながらも口は甘いものを欲している。乙女のお腹はいつだって甘いお菓子を求めているのだ。乙女心とお菓子は表裏一体なのだ!!

「そうだ、そういえばさ、めぐみ、今晩空いてる?」

ああっ、くそう!フィルム開けるのに失敗した。
ところどころがちぎれて、プリンが出てくるのを邪魔している。
ああ、もうなんなのだ…ツイてない日は、こんな小さいプリン一つ食べることでさえこんなにも手惑わせるというのか…神よ、ガッデム!!!!!

「んえ?何ぃ?空いてるけど?」

もうこうなればヤケだ。
めぐみは周りに男性社員がいないのをいいことに、根性で容器からプリント絞り出し、口の中に入れてやった。女も30が近くなってくると色々な所で恥じらいが欠如してきたりするのだ。いや、わたしがそうなだけなのかもしれないが。

めぐみが返事をすると、香織が一枚のチラシを向こうから手渡してきた。
花をまき散らしたようなイラストのハデなチラシで、【婚活で今(こん)勝つ(かつ)!!!!】なんていう、アホくさいキャッチコピーがでかでかと書いてあった。
…正直、なんだか頭の悪そうなチラシだ。

「なんじゃこりゃ。ギャグ?」

「違う。ちゃんとした婚活パーティだよ。なんか知り合いが主催しててさぁ。」

「え、香織ってば婚活なんてするの?彼氏いるじゃん祐真君。」
「人数合わせよ人数合わせ。女性参加者少ないらしくて、来てほしいって頼まれて。」

年々晩婚化が進んでいる現代社会では、こういった婚活パーティは日本全国で毎日のように開催されているらしい。香織はめんどくさそうにキラキラのピンクパールのネイルを施した自分の両手を眺めながら答えた。

「えぇ…でも祐真くん、良い顔しないんじゃないの?」

「大丈夫よ。参加するなんて知らないし。」

「言わなくて大丈夫なの?後々バレたりしたら…」

修羅場に出くわすのはごめんだぞ、香織さんよ。
実を言うと、めぐみは何度も香織の修羅場に立ち会ったことがある。香織はこの容姿なので昔からよくモテていたが、それゆえに異性交遊も激しかった。昨日まで部活の先輩と付き合っていたはずなのに、今日は同級生と付き合っていたり。あろうことか、友人の彼氏と付き合っていたり。香織にしてみれば告白されたから付き合った、程度のことなのかもしれないが、やはりそれなりに反感は買いまくっていたようで、幼馴染であるめぐみも、その相当な修羅場に巻き込まれて同席したことがあったのだ。

「平気だって。それに、アタシたち最近マンネリ気味だし。別れるかもしれないし。」

「ええ!?そんな簡単に…」

「だってろくにセックスもしてないしさぁ。」

ここが会社だと言うことを忘れているんじゃないかと、突然のド直球な言葉にこちらのほうが面喰ってしまうではないか。

「ここんとこ、一緒にいる時間もないから、そろそろ別れ時かなぁって思ってんだよね。」

「ええ、勿体ない。」

「別に、他の人探せばいいじゃん?すぐ見つかるでしょ。」

「Oh…」

ケロッとそんなことを言ってしまうので、逆に何も言えなくなってしまった。
なんの悪気もなく、ましてやおごりもなく言ってしまうのだから香織は凄い。
自分のことを冷静に分かっているからこそ、そんな台詞を人前で言えるのだろう。そういう、物怖じしたり自分の考えを包み隠さず発言出来るのは、素直に凄いなと思っている。
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