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最悪の一日。


今日は朝から最悪な一日だった。

朝から寝坊はするし、こんな日に限って寝ぐせは酷いし、化粧をしようとして先日奮発して買ったばかりのお高めのアイシャドウのパレットを落として割っちゃうし。
おまけに昨晩セットしておいたはずの炊飯器の中身は、あろうことかスイッチを入れ忘れていた。水に浸ったままの固い米を眺める気持ちの、なんと虚しいことか。
そしてトドメには会社でクライアントからの担当替え要求。

「ああ…もう鬱だ…死ぬしかない…」

立花めぐみは、心の底から出たような深い深いため息を吐き出して机の上に突っ伏した。
現在時刻は12時4分。ちょうど先ほど、お昼の休憩時間に入ったばかりである。12時を告げるチャイムが鳴ると、周りの社員たちは「待っていました」とばかりに席を立ち、足早にランチへと出かけて行った。とはいえ、当人のめぐみはというとせっかくのランチタイムにふさわしくないほどに死にそうな顔をしている。

広告会社でOLとして勤務しているめぐみは、成績はそこそこではあるが入社してから5年目の中堅に部類される。とはいえ、まだ御年29歳。二十代のピチピチの若手社員なのだ!……今アラサーじゃんとか思った人、正直に手をあげなさい。ひっぱたいてやろう。

「ねぇ。何をそんなにしょげてるのよ、めぐみ。」

するとそんなめぐみの目の前のデスクから、カラッとした明るい声が飛んできた。

「…わたしはもう駄目人間です。クライアントからも部長からもこっぴどく怒られたし、せっかく貰えた仕事なのに、別の人にまわされるなんて…うう、あんまりだ…」

そうなのだ。
めぐみは先週、ようやく、ようやく自分に大きな仕事を任されたばかりだったのだ。
入社してそれなりの年数が経ったが、自分がリーダーとなる大きな仕事は初めてのことで、それはそれは、相当嬉しかった。意気揚々と仕事に取りかかっていたし、クライアントともそれなりにいい雰囲気で仕事が進んでいた。…はずだったのだ。昨日までは。

それが朝方になって出社してみて一変。
クライアントから担当を変えて欲しい、と言われてしまったのである

「しかも、その引き継いだのがめぐみのが新人研修の時に指導してあげた期待の新人ちゃんだしね。ちょっと、いや、かな~~りカッコ悪いよね~。」

彼女の言葉の通り、先方の指定した後任というのが、めぐみが指導を担当していた新人社員の女の子だった。どうにも先日飲み会の席で意気投合していたらしい二人は、それ以来も懇意にしていたようだ。仕事に私情を持ちこんだのか何なのか分からないが、だが実際その新人の子は仕事が出来る優秀な子だった。だから彼女に担当を変えて欲しい、というのも、私情関係なく、単に自分の仕事を任せたいと思える人柄だったからなのかもしれないが。それでもやっぱり、ちょっと、いや、かなり傷つく。

「ちょいと香織さん、慰めるどころか、傷口に塩を塗らないでくれるかね。」

香織、と呼ばれた女性はパソコンからひょっこりと顔を出してケタケタと笑った。栗色の緩くまかれたウェーブの髪をした彼女は、非常に可愛らしい。小顔だし、目は大きいし、唇なんかいつもツヤツヤしていて、おまけにスタイルも抜群。同性の自分から見ても可愛いなと思う。社内のマドンナ的存在だ。そんな香織とめぐみは小学校からの付き合いで、なんだかんだ、20年以上の付き合いになる。
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