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cafeルピナス


おそるおそるパーカーを羽織る。
…わあ、ぬくい。気持ちいい。

先ほどまで彼が着ていた服なのだから当然といえば当然なのだが、このほんわかした体温が今は凄く心地がいい。冷え切った体がおひさまに包まれたような感覚になる。しかもこれまた、とてもいい匂いがするのだ。柔軟剤かな?どこのやつだろう。凄く好きな香りだ。

ふと、そこで我に返った。
…男性のパーカーをスンスンしている自分、まじ気持ち悪くない!?変態として警察に連行されるのはまっぴらごめんである。

「あの、立てますか?」

「あ…はい!全然大丈b…うぐっ。」

青年の言葉に立ち上がろうとするが、足は全然大丈夫ではないようだ。めぐみは小さく呻ったきり立ち上がれない。

「……よし。」

足首を押さえたまま蹲っているめぐみの頭上で、青年の声がした。彼はうん、と頷くとめぐみの前に屈んで首を少しこちらに向けて微笑んだ。

「どうぞ、乗って下さい。」

「……?」

うん?彼は何を言っているんだ??
もう一度、彼の言った言葉を頭の中で反復してみる。
乗って、下さい…?乗って?乗れ?ん?どこに?いや、背中に?

いや…。
いやいやいや!
あまりに突然の申し出に、めぐみは目を白黒させて全力で否定しにかかった。

「無理です乗れません!!!!」

「でもその状態じゃ歩けないですよね?自宅は近いですか?」

「うっ…と、遠いし歩きはちょっとキツイです…」

「となると、やっぱりこれが一番じゃないかなと思うんですけど」

「で、でも!」

「じゃあ救急車呼んだほうがいいですか?」

「それはご勘弁下さい。」

捻挫ごときで救急車に運ばれるなんてあまりにも恥ずかしい。
めぐみが否定すると青年がにっこりとした笑顔で背中をこちらに向ける。
これでまた乗るのを拒否してしまうと本当に救急車を呼んでしまいそうだ。仕方がない。ここは彼に御厚意に甘えることとしよう…。ただし、背中をお借りする前に伝えておかねばならないことがある。

「すみません、あの、重いですわたし。凄く。」

「大丈夫です」

「うっ、ほ、本当に!わたし本当に重いですからね!!!潰れても知らないですよ!!!」

「はは、大丈夫ですって。」

ええい!!!
こうなりゃヤケじゃ!!!
めぐみは覚悟を決めて青年の背中に失敬することにした。

「し、失礼します…」

「はい。」

ソッと背中に触れる。
……あ。あったかい。

(いや、当然なんだけどね!人だし!体温あるし!)

そのままゆっくり背中に乗ると、彼は軽々と立ちあがった。この青年、見た目は細身だが意外と力持ちだ。男の人は凄いなぁ。ときめくとかそれ以前に、まずは感心してしまった。

今日はハーフパンツで来ていたので助かった。もしスカートで来ていたら大変なことになっていただろう。こればっかりは昨日スカートにアイロンをかけ忘れた自分に拍手を送りたいと思う。

そこまで考えて、めぐみはハタと思いだす。

「あ、あの…すみません、これってどこに向かってるんですかね…?」

そうだ。そうなのだ。促されておんぶされたはいいものの、どこに向かっているのか分からない。めぐみが尋ねると青年はケロッとした表情でこんなことを答えたのだ。

「とりあえずはこの近くの俺の店です。」

その瞬間、めぐみの頭の中を良くないお店のイメージがどうっと流れて行く。
キャバクラとかスナックとか!?そういう類のお店!?っていうか、俺の店って何!?この人若く見えるけど実は経営者なの!?ちょっと待って、もしキャバとかだったら私…身売りされる!?
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