最悪の一日。
…正直、自分の足がこんなに上がるとはマジで思わなかった!私って実は凄いじゃないか。心の中で自画自賛してみる。
体のこわばりがとれたと同時に、少しばかり緊張感も抜けてしまったように感じるが、あまりうかうかしていられない。
「香織!!!」
男が動けないでいる隙に香織の元へ走り寄り、口元の布を吐き出させる。
「立てる?」
香織は苦しそうに咳き込んでいたが、すぐに頷いて立ち上がった。
ここからは走り勝負だ。表の通りに出てしまえば、この男も迂闊に手出しは出来まい。めぐみは香織の手を引いて一目散に元来た路地へ全力で駆けだした。
「クソ、このクソババア!!!!待ちやがれ!!!!」
盛大な舌打ちと暴言を吐いた男もまた、凄まじい勢いで追いかけてくる。
…というか、待って。あの人めっちゃ走るの早くない!?男はグングン二人との距離を縮める。しかも路地裏のゴミ箱だのなんだの、障害物を華麗に避けているではないか。
クソッ、なんであんなクズ男に限って身体能力高いんだよ!!神様は何を思ってあの男にそんな余計な能力をあげちゃったんだ!!!などと、思ったところで仕方がない。
「フガッ!!!???」
…来るときにぶちまけてしまった生ごみの中に、バナナの皮が入っていたらしい。
無様。なんたる、無様!!!!
あろうことか、そのバナナの皮で、まるでコント宜しく滑って転んでしまったのだから、これは頂けない!!!盛大に転んだめぐみにつられるようにして、後ろを走っていた香織も続けざまに転んでしまう。
…ああもう大惨事。目も当てられない。
「ようやく追いついたぜ、クソババアども…!よくも俺をコケにしてくれたなぁ」
男はもう追い付いていたようだ。声がして、顔を上げる。般若のような恐ろしい顔をした男がこちらを見下ろしている。めぐみも香織も、蛇に睨まれたカエルのように身動き一つ取れない。