最悪の一日。
めぐみはもう一度スマホに目を落とし、香織にLIMEを入れた。
【香織、今どこにいるの?】
しかし、既読がつかない。普段の香織だったら、すぐに既読を付けてくれる。もしかして、何か事件にでも巻き込まれてしまったんじゃないだろうか。
めぐみはスマホをギュッと握りしめたままもう一度あたりを見回した。…夜の街は人が多い。町中がネオンに包まれて、なんだか目がチカチカする。
「香織、」
名前を呟いたところで、急にスマホが震えた。
驚いて見てみると、香織からの着信だ。慌てて通話ボタンを押す。
「香織!?」
「あ、めぐみ?ごめんごめん、ちょっと近くの自販機にタバコ買いに来てて。」
「そ…っ!そんなのコンビニで買えばいいでしょ!?なんでわざわざ自販機に行くのさ!!!」
「ごめんって。だってそのコンビニに欲しい銘柄ないからさ。一本先の通りだからすぐだし、まぁいいかなと思って…てか、え、ちょっと待って。なんでそんなにキレてんの?めぐみってば。」
うるさい!まったくもう!!!胸騒ぎがしたから、何か変な事件にでも巻き込まれてしまったんじゃないかと思っていたのだ!!!!無事でいたから良かったけど!!!あーもう心臓に悪い!!!
「なんでもない!てゆーか、早く戻ってきてよね、せっかく一緒に食べようと思ってピザまん買ったのにっ。」
「うそ、マジ?やったラッキ~!すぐ戻るから待ってて♪」
語尾にハートでっもくっついてるんじゃないかってぐらい嬉しそうな声。
こっちの気も知らないで香織め!安心したら、逆に腹がたってきたじゃないか!!!
「もう!早く来ないと二つとも食べちゃうからね!!!」
「はいはい、すぐ戻るから待っててって…、は、え?何よアンタ…ちょっ、なん」
電話の向こうで音がした。そして、そこで通話が切れた。
「香織?」
ツーツー、という無機質な機械音だけが、耳に残る。
寒いはずなのに、背中を嫌な汗が伝った。
―…頭で考えるよりも先に、体は動いていた。
スマホを握りしめて走る。香織はタバコを買いに近くの自販機に、と行っていた。この辺りでタバコの自販機があるのはもう一本向こう側の通りだ。歩いてそこまでの距離ではないが、そちらの通りはメインの通りとは違い、人通りはそこまで多くはない。
「香織!!!!」
通りに近づくなり、めぐみは大声で香織の名前を呼んだ。しかしそこに香織の姿はない。ただ、香織愛用のタバコが、まだ封が切られていない状態で自販機の前に落ちていた。めぐみはそれを拾い上げ、胸の前で握りしめる。こんなところにタバコが落ちているということは、やっぱり香織の身に何かがあったのだ。
電話越しで最後に少しだけ男の声が聞こえた気がした。
何か、それもつい最近、どこかで聞いたことがあるような声。