短編

珍しくネロがお酒を飲んで、うつらうつらと目線を泳がせていた。

「ネロ、もう寝たらどうだ?」

見兼ねたバージルがそう言う。彼の手にもまた一缶の酒があった。最近流行りの度数の高い安酒だが、バージルは大して効いてないのかいつも通りの様子。テーブルの上には空になった缶が三本。もちろんそれらはバージルがすべて飲み終わったものだ。

対してネロはまだ一缶。それも中身が半分くらい差し掛かったところで頭が回ってくるのを感じてテーブルで突っ伏している。

「いや、もうちょっといるよ…」

バージルの問いにそう答えてみたが、実はだいぶ酔いが回っていた。

(まずいな…)

正直瞼が重い。
なんとなく、たまには父の晩酌に付き合おうと思って流行の酒を用意したのに。空きっ腹のまま酒を入れたのがまずかったのか。それか、父の飲みっぷりを真似してぐいぐい飲んだのが良くなかったのか。いやどちらも原因の一つに思える。

うつらうつら、と顔を上げるとバージルと目が合う。
気づけばその手には別の酒缶が握られていた。

親父は飲むのが早ぇな…、と言おうとした時だった。

「ネロ…もう、寝ろ(ネロ)」
「は」

まさかの親父ギャグ。
突然の言葉に、目を丸くするネロ。

「なぁ、あんた…」

もしかして、酔ってる?
案外酒が効いてたりするのか、それとも単なる気まぐれか?あんたにそんなお茶目なところがあるだなんて意外だ。そう言おうとした瞬間だった。

バージルが唐突に、ネロに抱きついた。

「えっ?!」

さらに突然の出来事にネロは硬直。

「お、おい!なにやって…」

暴れるがびくともしない。その力は尋常ではなく、人間にしてはかなり強い。これが悪魔の力というわけか。

いやそんなことを思っている場合ではない。
ふと、抱きついてきたバージルからかなりの酒が臭ってきた。もしかしたらネロが思っていたより本数を飲んでいたのかもしれない。

「だ、大丈夫か……って!」

体を起こそうと思ったのも束の間、バージルはそのままネロを押し倒した。

「うわっ!」

丁度良くベッドの上に仰向けに倒れ込むネロ。その上に覆い被さるようにバージルが乗る。

「な、なんだよ…」

何をされるのか全く予想できず、思わず震える。よく見ると顔をほんのり赤らめたバージルが肩で呼吸をして息が荒い。だいぶ酔っているのが見て分かる。一体何本飲んだんだ…と頭の片隅で考えていると、バージルの手が伸びてきた。

「わっ」

咄嗟に目を瞑ったネロだったが、やってきた衝撃は予想外のものだった。



頭を、撫でられている。



「……へ?」

状況が分からず唖然としていると、そのままバージルは優しくネロの髪をすくように撫で始めた。

「お、おい……」

さすがに恥ずかしくなったネロが抗議しようとするが、その前にバージルが口を開いた。

「よくやった」
「は…?」

一瞬意味が分からなかった。

「お前はよく頑張っている」

続けてそんなことを言い出したものだから、いよいよ混乱する。

「なんの話だよ」

困惑気味に尋ねるネロ。だがバージルは何も答えずにただ頭を撫で続けた。

そして、

「これからも、頑張れ…」

それだけ言うと今度はネロを抱きしめたまま動かなくなった。

「……」
「……」
「……」

沈黙が流れる。

「なぁ……」

耐えきれなくなって声を掛けるネロ。
しかし、バージルは答えない。

「親父……?」

抱きしめたまま動かないバージルの背中をとんとん、と手で軽く叩いてみるが返事がない。

しかし、徐々にネロの耳元で微かに寝息にも似た音がしてきた。


(あれ……寝てる…?)


本当にこの親父は、一体何本酒を飲んだのやら。
酔ってないフリをして酔ってるし、突然頭を撫でてくるし、寝るし、行動が読めない。

そんな父に半ば呆れつつ、けれど悪い思いはしてなかったネロ。

(打ち解けてもらえたってことかな)

初めて一緒に住み始めた時は、ベッドで眠ることすらできず、床に座って閻魔刀を肌身離さず眠っていたバージル。それと比べると随分進歩したものだ。

「仕方ねぇな…」

すっかり酔いが醒めていたネロは眠ったバージルをお姫様抱っこするような形で抱き上げた。その体の重さが意外にも軽いことに驚きつつ、いつも眉間に皺を寄せた仏頂面が穏やかに眠っているのを見てそんな表情ができるのだと安堵と、端整な顔はほんのりと赤らんでどこか色っぽく見え、思わず、唇を重ねた。

「おれ…酔ってるのかな」

ネロは、静かにつぶやいた。






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※ 実は道中AIを混ぜつつ執筆してみました。
  ネロバジも尊い…。
  この後どうなったのか、想像にお任せします(*'ω'*)
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