友達

「もうアンタにはコリゴリだ…」
「ネロ、話を」
「うるせぇ!」

どうしようもない怒りがネロの体を沸騰させる。
何を言ったところで父は彼が求める答えを出してはくれない。
それを悟ったネロは怒りと悲しみを抱えて家を飛び出した。

「あんな奴…!あんな、奴……!!」

怒りが足を加速させる。歯軋りが止まらない。
通り過ぎていく道中、怒りで沸点が爆発したネロは空のゴミ箱を見つけると思い切り蹴りを入れて苛立ちをぶつけた。時には悪魔の右腕で殴り飛ばした。それらが吹き飛んで、違反駐車していた車にぶつかるとウインカーが鳴り、車の持ち主が慌てて建物から出てきてネロに罵声を浴びせようともしたが、その寸前、ネロの怒りの形相に恐れをなしたのか「どうぞ遠慮なくボコしてください…!」と言い出す始末。

「クソが…」

そんなちんけな人間と、くだらないことをしている自分の幼稚さに吐き気を感じ、まだ収まらない苛々を抱えて行きつけのバーガーショップに行くネロ。

「いつものくれ!」

店内に入るなり荒々しい口調で店員に注文し、それらを受け取ると早歩きでネロはとある場所へと向かう。

そこに行けば、あいつに会えるかもしれない。
この苛立を抑えて欲しい。聞いて欲しい。

そう願って。



実は最近ネロは、友達が出来た。
いや、友達…というのはネロが勝手に思い込んでいるだけで、相手はそう思っていないのかもしれないが、バージルとダンテにも教えていない存在がいた。

そいつは露出の高い黒い服を身に包んで、全身にこれまた黒いタトゥーを刻んでいる。傍から見れば“キマった”人間にしか見えない、近寄りがたい印象ではあるが、ネロはなぜかそう思わなかった。しかしあまりにも目立つその姿にネロは思わず声を掛けてしまい、気が合い、すっかり打ち解けていた。

そしてそいつは不思議なことに、ネロが困った時に、必ず公園のベンチに座っている。単なる偶然だとは思うが、ネロが“必要だ”と思った時にヤツはいる。

だからネロは、今公園に行けばヤツに、会えるかもしれないと思った。

会って話がしたい。
そんな、気分だ。

「やっぱりいたな、V」
「ネロ…か」

公園にたどり着いて、真っ先にいつものベンチを見れば、やはりそこに黒い服を身に纏った、ネロと同じくらいの年齢だろう青年が座って本を開いていた。

「また読んでたのか、それ」
「ああ」
「飽きないもんだな」
「まあな」

ネロはVと呼んだ男の隣に座るなり、手に持っていたハンバーガーの紙袋をVに差し出した。

「ありがとう、ネロ」
「ん」

Vがその袋を受け取り、中を開けばハンバーガーが二つ、ドリンクが二つ入っていた。それはVにとって気に入っていた店のもので、二人が打ち解けたばかりの頃、夕飯を奢ってやると言ったネロにVが食べたいと言って探した店だった。

以来ネロは、Vに会いたいと思った時、そのハンバーガーショップのバーガーを買って公園に行くのだ。

そしてそれらを一つずつ二人は受け取ると、当たり前のように食べ始める。

「お前も食べ飽きないな…」
「なんだよ。いらねってか」
「そうは言ってない」
「あっそ」

やや不機嫌そうにガツガツと食べるネロに対し、Vはゆっくり食べる。なるべく口を汚さないよう慎重に食べていたつもりだったが、口の周りにバーガーのソースが付くと指先で拭い、それを口で舐め取った。

「相変わらず上手く食えねーんだな」
「まあな」

ふ、と微笑んでみせるV。女性にも見えなくもない端正で繊細なその容姿に、時折ネロはある人物と重なってしまうことがある。今も一瞬、その人物の顔がちらついたが振り払う。今思い出すとパンチが出そうだからだ。

だがVの不器用な食べ方を見て、思わずネロも顔が綻ぶ。先ほどまでの怒りはいつの間に、どこへ行ったやら。

ふー…と溜息をつけば、Vが怪訝そうに見つめる。

「何かあったのか、ネロ」
「ああ」

ネロは待ってましたと言わんばかりにウンウンと強く頷いた。

「クソ親父がさ」
「またヤツか」
「ホント!アイツなんだろな!」

こうやってVに父のことを聞いてもらうのは初めてではない。
長年離れていた親子が同じ屋根の下で住むのは簡単ことではなく、時にネロにとって理解しがたいことが発生し、父親バージルと衝突することは少なくなかった。そしてそれをダンテに言ったところで何も解決しないどころか悪化することもある。

だからネロは、何も知らないVに、愚痴りに来た。
愚痴るなんて男らしくもないが。
平和的に解決するにはこれしか見当たらなかった。

「上手くいかねぇよ」
「そうだな…」

バーガーを食べ終えて、紙をクシャクシャに丸めて勢いよく公園のゴミ箱に投げ入れてやろうとしたがやめて、ネロはチッと舌打ちをするとドリンクに刺したストローを力強く噛んだ。

「わりぃな。毎回さ」
「べつに。ハンバーガーが食べれるからな」
「へっ。なんなら、もっと食わせてやろうか?」
「いいな。なら、もっと喧嘩してくればいい」

冗談じゃねぇよ、とネロは苦笑いをする。
あんなデカいクソガキ、毎回喧嘩してたら心が持たない。そのうち殴りすぎて腕が捥げてしまいそうだ。あれと会うたびに喧嘩(殺し合い)をしていたダンテが信じられない。

「ったくよ」

ストローから口を離して、深くベンチに座り直す。
ハァ…っと肺の底に溜まった鬱憤と共に、吐息を漏らす。

「今帰っても、また喧嘩するって」
「そうか…」

Vもネロと同じように深くベンチに座り直す。
チラりと隣に座る彼の顔を見て、Vは何と声を掛けたら良いのか分からないようで、ネロとVは一緒に黙り込んだ。

夕焼けに染まった空を見上げ、二人は静かな時を過ごす。
後ろで公園の噴水が水音を鳴らし、暑すぎない寒すぎない、心地の良い風が木々を揺らして葉が静かに落ちた。

「……」

先ほどまで苛ついていた感情が、徐々に静まりつつあるのをネロは感じていた。
風で頭が冷えたのか、バクバクと早く波打つ心臓もすっかり治まっている。

瞼を閉じて、深呼吸をする。
何くだらないことで苛ついていたのだろう。
もう、怒ってない。何も感じてない。

「あーくだらね」

背を伸ばして体をほぐすネロ。

「ありがとうな、V」
「何もしてないが」
「いや、」

ベンチから立ち上がって、ネロはVに向き直る。

「アンタがいてくれて、良かったよ」
「…?」

Vは不思議そうに首を傾げた。

「落ち着いたってこと、さ」
「なら、良かった」

ふっ、と笑うVにネロもつられて笑う。

「また来ても良いか」
「ああ。食えるなら」

お前は食いしん坊か、とツッコミを入れるネロ。
だが確かに、Vは体が細いわりによく食べる。食が細そうに見えるが、単純に金が無いから食べれないだけなのだろうか。なら今度、別のバーガーショップか肉料理が食べれる店にでも連れて行ってやるかと思うネロ。

「じゃ、遅くなるとおっさんがうるさいからさ。帰るぜ」
「ああ。またな」

そう言ってVは、家に帰るネロの背中を見送った。




彼が帰ったらなんて謝ろう。
とりあえず、勝手に食べてしまったプリンを買いに行かねばと、心の中で落ち込んでいるもう一人の自分にVは言い聞かせた。









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勢いで文を打ちました。

個人的には4ネロとVが話してるのを想像して書きました。
一応5ネロとして見ても違和感はないかと思いますが…

※このネロはVがバージルであることを知りません。
※Vはバージルとネロが喧嘩するたびに、バージルがネロを気になってVでネロを探す・見張ってましたが、ネロがVを気になって話しかける→意気投合してしまって同年の友達だと思ってます。

個人的には、この話のネロは4ネロくんとして見てくれると嬉しいです。
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