考えることは同じ


曇りのない、晴れ晴れとした空。
時刻はちょうど昼の12時を指すところ。

キリエはレディ達とショッピング中で自宅にいない。
そのため家に残っていたネロが昼飯を作らなければならないのだが、面倒くさい。

なにせネロを含めた“三人”が家にいたので。
しかもわりと食にうるさい二人が。

自分よりも大きな大人……もとい、半悪魔が。

というわけで現在、ネロは自家用車を運転している。
ちなみに後部座席には彼の叔父にあたるダンテと、その兄でもありネロの父親でもあるバージルが、なぜかVの姿で乗車している。彼はやや不機嫌そうに足を組んで窓の外を眺めていた。

向かう先は通い慣れたハンバーガーショップ。

(しかしなぁ……)

そろそろ三人良い歳になってきたのだから、油ものから縁遠くなることを考えなければならないとキリエに言われていたのだが……。何か作ろうにも材料がないのと、この三人の口に合う料理をネロが作れるかどうか、考えることもない。面倒くさくてNOだ。

最初はダンテが「ピザでいいだろ?」と電話注文を取ろうとしていたが、それをバージルが「またか」と不機嫌そうに言うといつもの口喧嘩が始まりそうになった。また三人の持ち合わせもそこまでなかったので、とりあえず安価でそれなりに美味いバーガーショップでドライブスルーすることになってしまった。

ちなみに初めてではない。

「で、どれにするんだよVちゃん」

後部座席に座っているダンテがスマホを取り出し、例のハンバーガーショップのサイトを開き、隣に座っているバージルことVにスマホ画面を半分見せる。そしてサイトに表示されたメニューを指先でスクロールして見せてやるが

「どれでもいい」

Vはどれも興味なさそうにそっぽを向く。
何を食べても一緒だ、と添えて。

ダンテがヤレヤレと首をかしげる。

「あのなぁ、そうやってこの間食べなかっただろ?」

「あれはお前のセンスがなかったからだ」

「あ?魔王級トリプル激辛ハンバーガーのどこが悪いんだよ」

前回行ったバーガーショップの期間限定メニュー『魔王級トリプル激辛バーガー』はその名の通り、三段になったデカいバーガーの上に真っ赤な激辛ソースをこれでもかとブッ掛けたもので、ネーミング的にも兄であるバージルをいじるにはちょうど良いからとダンテが面白半分に選んだが、案の定バージルはそれを一口も食べなかった。

そのバーガーはネロとダンテが死ぬ思いで処理したが、そもそもバージルは戦い以外に興味が持てないようで、食事の話になるとネロやダンテに決定権を押し付ける。そのくせ気に入らないものだと食べないのだ。

「子供か」

思わず口に出すネロ。

「お?子供に“子供”って言われてるぞ、お父さん」

「黙れ」

「ていうか、」

ネロはチラッと、車内のルームミラーに映っているバージルことVを見る。

「なんでアンタ、出かける時いつもVの姿なんだ」

「……」

むっ、とバツが悪そうに顔をしかめるV。
それを見たダンテが「ははーん」と何かを察する。

「元の姿だと恥ずかしいんだろ~?」

「違う」

「だったらたまには元の姿でネロと買い物を――」

「うるさい」

Vがダンテの肩を杖で小突く。

「この姿の方が都合がいいからだ」

Vはそう言うと、不機嫌そうに足を組みなおし、また窓の外を眺め始める。

「恥ずかしいんだな」

「ッ」

ボソッと言うダンテに、鬱陶しそうに舌打ちをするV。
それをミラー越して見ていたネロ。

(恥ずかしい、か)

何が恥ずかしいのか聞いてみようかと思ったが、口に出すのはやめておこう。
きっと嫌がるだろう。

窓の外を見ているVが――父親であるバージルがどんな表情をしているのか、運転をしているネロから確認することはできない。

「ま、いいけどよ」

再び運転に集中する。
その間もダンテはスマホでメニューを見ながら何を食べるか考え、Vは通り過ぎていく景色を眺め続けていた。会話のない静かな空間ではあったが、たまに車内のルームミラー越しにVを見ると、彼もまたこちらを見ていたことに気づく。だが、目が合うことがあっても何も言わない。

そんなこんなで、カーナビから『もうすぐ目的地に到着します』とアナウンスが鳴る。
店の看板が見え、直前の信号が赤になり車を一時停止する。

「で、結局頼むんだよ」

チラッと、後部座席に振り向くネロ。
そうだなぁと顎を触りながらまだ決めかねている様子のダンテと、Vはムッとした表情をネロに向ける。

「バーベキューチキンバーガーとか?」

「バーベキューチキンバーガーでいい」

ほぼ同時。

「おっ」と嬉しそうに声を上げたダンテと、明らかに不愉快そうに顔を歪めたVは「やっぱり別のやつに…」とダンテのスマホを取り上げ、目についた適当なメニューを所望するが「実はそれ、ちょっと考えてたんだよな」とダンテが言うとVは忌々しそうに「別のにする」と言い、今度はバーガーはやめてサイドメニューにしようとしたがこれもまたダンテが「セットメニューでそれ付けようとしてたんだよなぁ~!」と挑発し、Vの目つきが明らかに殺意に満ち溢れていたのを感じ「じゃ、じゃあ俺が決めてやるから!」とネロが決める流れになった。

「で、坊やは何頼むんだ?」

「そ、そうだな…」

兄弄りが楽しくてニッコニコなダンテが尋ねる。
Vは聞いてないフリをしているのか窓の外に顔を向けている。

「激辛ハンバーガーとか?」

「おい」

それはもうやめろ、と言わんばかりに怒った表情を向けるV。
ダンテは「nice!」とツッコミを入れる。

「いや冗談だよ。でも、アンタ本当に何が食べたいんだ?」

「だから……なんでも」

「いやそれだと困るんだって」

「だから…」

何かを躊躇っているのか、ムッと下唇を噛んで言葉が続かないV。
もしかして本当に食べたいものがないのだろうか。

無理に選ばせて嫌な思いをさせるのは良いことではないので、嫌なら嫌とはっきり言って欲しいのだが。

この父親、本当に嫌なのかどうか、正直リアクションが分かりづらい。

「食べたいものがないのなら、別の店に行くのも…」

「お前が…」

「え?」

突然、自分自身のことを言われて目を丸くする。

俺が?

俺がなんだ?

「……」

Vはスッと短く息を吸うと、何かを観念したような、張っていた肩がスンと落ち、両手の平を見せる。

「お前が食べたいものを、食べたい」

お、俺が食べたいもの?

「それ本当に良いのか?」と聞き返すが、Vは「何度も言わせるな。それでいい」と答える。それを一部始終見ていたダンテが「息子のことを知りたいんだよ。察してやれネロ」とウンウンと頷いて、わざと涙ぐむポーズをとるが、チッと舌打ちをしたVが杖で肩を小突く。

「ぶっ」

思わず吹き出すネロ。
二人のやりとりに笑ってしまったのと、慣れない親子関係に、自分よりも戸惑っている様子の父親の姿が正直面白くて、くすぐったくて、とにかく、楽しい。

「本当に良いんだな。じゃあ……」

なんのメニューを注文するか、実はもう決まっていた。

「バーベキューチキンバーガーだ」

「は」

またVの嫌そうな声がしたが変更は許さない。
ダンテが「いやぁ家族だねぇ」とニヤニヤして、それをVはまた杖で小突いている。

ここだけの話だが、実は、親父が決めたものを食べようと思っていた。

理由はもちろん、口には出さなかった。

Fin



























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追記
2024.8.13
ネロの最後の台詞「バーベキューチキンバーガー」が「バーベキュー“キチン”バーガー」になってたのを見つけて修正させていただきました。

約2年間気づかず掲載していたの恥ずかしいです…w
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