Sorrow
◆勝負◆
私の命の目的、あるいは答えが見つかったところで、世界は――Lと彼の最初の事件はまだ終わることができない。
「僕がちゃんとお風呂に入ったら、ワタリが知っていることを全部話してください」
Lがそんな交換条件を言い放った一時間後、私たちは再びスタディに座っていた。
私は自分が知ったことを全て余すところなくLに話した。
メモリアルハウスの設立された理由やその背後にあった研究組織、モーメント・メモリアルの資金と第十三研究室の繋がり、そして――ハロウィン・ホスピタル事件の話と、ブラッディ・ブレット事件のことも、全てだ。
Lは終始静かに私の話を聞いて、最後に一言だけ「分かりました」と言った。それ以上の言葉はなく、彼はしばらく窓の外を眺めていた。窓ガラスに当たる雨粒を見ていたのか、それとも事件について思考していたのか、あるいは自身の境遇を受け入れる過程だったのか、私には分からなかった。
「それでも」と、長い沈黙を経て彼は言った。
「この事件は次の爆破――12月25日のウィンチェスター大聖堂で終わることに変わりはありません。これは今までの爆破とは話が違います。場合によっては七年前のハロウィン・ホスピタル事件を繰り返すことになるでしょう」
「日時が分かっているなら今すぐにでも警察と連携した方がいいのではないか?」
「そうですね、ですが今はまだヒバリまでに留めておくべきでしょう」
「何故だ?」
「警察組織は《気づかないフリ》などできないからです。犯人を確実に止めるには、自分の作戦が滞りなく遂行されると思わせておくことが不可欠です。ここまで四人の人間が犠牲になってようやくたどり着けた答えが12月25日です。ここまで来て方向転換されては被害が増える可能性があります。最悪の場合、行動の予測ができなくなります」
「――その通りだ」
声のする方を見れば、そこにはラークがいた。ロジャーが通したのだろう。彼は片手にケーキの箱のようなものを持って、いつも通りの気の抜けた服装で、しかし真剣な空気を纏っていた。
「少年、よく聞いてほしい」
彼はLの傍らにしゃがみこんだ。
「警察はこの爆破事件で犯人がよこすメッセージを何一つ受け取っていない。ギリシャ文字も、日時のフィボナッチ数列も、全部だ」
Lは彼の言葉を受けて、しかしこれといって驚く素振りはなかった。
「問題ありません」
と、前を見据えて言った。
「ヒバリ、貴方が信じてくれればそれで十分です」
そして、不敵にゆらりと笑う。
「それに、ワタリという協力者もいますし」
いや、前を見据えているのではなく、その視線はまっすぐにラークを見ていた。彼もまた呼応するように口角を吊り上げた。
「これは犯人と少年の勝負だ。そうだろ?」
「……ええ、そうです」
「はは、きっと犯人は謎を解いたのが君みたいな子供だと知ったら驚くだろうな」
まるで真相を全て見抜いているように、それは完結した会話だった。
どういうことだ?という質問を差し挟む余地など無かった。
一体二人は何を言っているのか――そこにいた私は――当時の私には分からなかった。
だが、そう遠くない未来に、私は否が応でも知ることになる。
Lにとっての事件捜査が時によってはその枠を超え、犯人との勝負となることを。
それが彼の始まりであり――そして終わりであることも。
「はは、そんな怖い顔しないでください、ワイミーさん。深い意味はありませんよ。僕はただこの少年がひどく負けず嫌いだから勝負に例えただけの話です。ちゃんと僕も協力しますから、本当に一人にはさせませんって!」
ラークはけろりと笑顔に戻ると、「なー」と言ってLの肩をばんと叩いた。
「で、僕たちは当日どうすればいい?作戦を立てよう」
こうして作戦を立てることになったのだが、これと言って大層な作戦らしいものはなかった。簡単に言ってしまえばジャミング装置を作動させ、犯人の位置を特定、それぞれの位置が判明した時点でその身柄を確保するというものだった。
ラークは最も危険な役割、すなわち爆弾が設置されると思われる聖堂内に控える。
私は起爆装置として考えられる電波の作動範囲とジャミング装置の作動範囲を計算し、そのギリギリのライン上でスナイパーライフルを持って待機することになった。あくまで万が一に備えてである。特技を生かして損はない。
当日までの課題は装置の最終調整と、ウィンチェスター大聖堂付近の無線機器の位置把握だった。ジャミング装置の性能ではそれぞれの装置の種類までは特定できないためである。
ちなみに警察官が携帯する無線機が引っかかる可能性もあるので、それらの配置は当日ラークに伝えてもらうこととなった。