Chapter 1
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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Afterwards -Chapter 1-
◇犯行予告
「ところで、Lを出し抜くって言ってもどうするつもりなの?」
私は前置きなく聞いてみることにした。
問いかける標的はメロにした。
「……」
「……はいチョコ!」
コンビニで買った限定らしき板チョコを袋ごとかさりと目の前に置くと、彼はむすりと肘をついたまま口を開いた。
「……俺とニアは今、Lと同じ事件を追ってる」
「Lと同じ事件?」
私が前のめりに聞き返すと、メロは小さくため息をついた。
「……一応、捜査協力っつー名目だが、俺たちが先に犯人を暴き、証拠をあげるつもりだ。」
メロは視線をモニターに張り付けたまま口の端を釣り上げた。事件を前にして、不敵そうに笑う。
楽しいのか、挑発なのか、それとも自信や余裕の表れなのか、とにかく計り知れない、底の知れない感情。その仕草はLと同じだ。彼も事件や困難を前にして笑う。でも、謎めいた笑みを浮かべるLとは違って、メロはより凶暴そうな笑顔だった。八重歯が牙のようにちらりと覗いた。
その様子に、私はなんだか嬉しくなってしまう。根拠のない自信だったけれど、「きっとできる」と思った。傍から見れば、私もにやりと笑っていたに違いない。
「二人とも夜寝ないし、なんだか真剣だなって思ってたけれど、一晩中事件の捜査してたんだね!」
「あぁ。」
メロはちらりとこちらを見ると、訝し気に首を傾けた。
「……ん、なんかお前、さっきと雰囲気違うよな?」
「あぁ、うん。」私は少し照れつつも頷いた。
「夕陽と話して、私も二人に協力したい気持ちが沸いてきちゃったというか……えへへ」
私は素直に伝えた。するとメロはちょっと驚いたように目を見開き、それからもう一度不敵そうな笑みを浮かべた。
「当然だ。被害者面されておろおろ足をひっぱるよりはずっといい」
「まぁ、誘拐に限って言えば被害者なんだけれど」
「諦めろ。お前はいまストックホルム症候群に罹っている」
「…………」
……まぁ深くは聞き返さないでおこう。定義とか実例とか果たして不謹慎ではないのかとか、真面目に考えちゃだめだ。いや、間違いなく不謹慎ではあるのだけれど。
「メロって意外と適当言うよね……」
「適当じゃない。ジョークだ。」
話の内容とは裏腹に、メロは「かかっ」と尊大に笑ってチョコレートを勢いよくパキリと噛み砕く。存外、機嫌がよさそうだった。
「……それで、それはどういう事件なの?」
私は近くのスツールに座った。
協力している立場、共犯関係__その事件がどういうものなのかを聞くくらいは当然の権利だ。無理にでも聞き出すくらいの気概でメロに聞いたけれど、この様子だと快く教えてくれそうだ。
「一言でいえば……悪趣味な事件です。」
「ニア」
気づけば真後ろにニアが立っていた。寝起きのように目をこすっているが、彼もまた一晩中起きていた。ニアは私の隣の椅子に座り、片足だけ持ち上げた。
「悪趣味な事件?」
それは例えば、とても残虐な殺人事件だったりとか、誘拐だったりとか、そういうことだろうか?
「いえ、まだ犯行自体は起きていません」
「起きてない?」
「………メロ」
ニアは髪をくるくると指に巻き付けながら、足元をじっと見つめていた。何かを蔑むような冷たい視線だった。
「あぁ?」
「……事件のこと説明しても構いませんか?」
「なんで俺に聞くんだよ」
「そうですか。では。」
何の確認だろう。私は取り残されたように首を傾げた。
ニアは大きな瞳を持ち上げてこちらを見た。
「空さん、東応大学に、キラを自称する者から爆破予告があったそうです」
「__と、東応大学に__」
それを聞いた瞬間に、あぁなるほど、と繋がってしまう。
____「空は外の世界を見るべきです。過去のことを思い出す助けになるかもしれません。」
私があの大学を受験したのは、Lや、月君という存在に憧れてのことだった。Lも外の世界を見るのは良いことだと言ってくれた。
__でもLは、大学に復学した理由を明かさなかった。「お久しぶりです」なんて飄々と月君に話しかける姿の背後には、別の事件の捜査があったということだ。
「そっか……どうりでLは、もう月君というキラを追う必要もないのに、大学に復学するって言ったんだ……」
「はい。自ら動くのはLらしいやり方です。」
ニアは知っていたように首肯する。Lは、冗談を装いつつもなんだかんだ月君に会いたくて、あくまで気まぐれや息抜きでそうしたのだと思っていた。
「私、何も知らなかった……」
「それが普通です。Lは常に6つもの事件を並行して捜査していると言います。キラ事件中もそうだったと聞いています。ですが空さんも夕陽さんも、それを共有していたわけではないでしょう。」
「………それもそうだけれど……」
なんだろう、この煮え切らない気持ちは。改めてというか、今更というか、既に遅いのか、Lという存在が急に遠くなったように思えた。
「とは言え、今回は特定の個人をマークするのとは話が違いますし、あくまで行動範囲を広げるのが目的でしょう。」
東応大学に潜入するからと言ってそれに絞っているわけでもない…ということなのだろう。それについてはそれまでだ。私も、学生の立場を利用して潜入の真似事はできるだろう。気になったのはキラという名乗りについてだった。
「ニア、【キラを自称】って言った?……聞くまでもないかもしれなし……言いにくいけれど、その……月君……夜神月じゃないことははっきりしてるってことだよね?」
「はい。夜神月には容疑すらかかっていません。」
「……容疑すら?」
疑いたくない気持ちも、状況的に疑う必要がないことは分かる。
例えば、かつてのキラは、Lとの直接対決で自らの敗北を認めたはずだということ。夜神月は、もはやキラになる理由がないはずだ。
「でも、完全に容疑から除外するのはLらしくはない気も……それに、ニアやメロまでどうして?」
信じたい気持ちとは別に、可能性の話をする。
私が考え込んでいる様子に、ずっと沈黙していたメロが大きくため息をついた。
「……今日に至るまで、確認できる限りでは犯罪者は【裁き】を受けていない。現状、夜神月であるかどうかに関わらず、この世界にキラと呼べる存在は居ない。」
__世界にキラは居ない__【キラ不在】の世界。
それは当たり前であるはずなのに、まだ私たちは日常に戻り切れていない。
「…………」
メロの指先が、パソコンモニター上のファイルを上下にスクロールさせる。アルファベット、漢字、様々な文字が入り混じるそれは、目で追えない速さでも人名だと察しが付く。おそらくそれは犯罪者のリストなのだろう。
「心臓麻痺以外での死亡は当然あるが、それでもそれは明らかにキラの裁きと言えるペースではない。至ってノーマル……自然で普通のことだ。」
裁きをしないのなら、それは確かに、【キラ】ではない。
というよりも、在り方としてキラとは呼べない、と言った方が正しいのかもしれない。正義の名目で犯罪者を裁くのがキラで、そうでない者はただのノート所持者だ。
「完全に別人ならまだしも……仮に夜神月だった場合、現在だけ意図的に裁きをしていない、という線はありえない。空さん、この理屈分かりますか?」
「分かる気がする。つまり……Lはノートという存在を知っている故に、キラの動きを封じることができる。極端な話、一生監禁してしまえばその人物は永遠にキラには戻れない。それをLと月君が二人とも知っているこの状況では、ヨツバキラの時のように月君が【一時的にキラをしない】ことを計画するはずがない……?」
思考を言語化して必死にぽつりぽつりと語ると、チョコレートを片手にメロが目を丸くした。私はあわてて否定する。
「あ、いやいや、月君がそんなことをするわけがないっていうのは大前提なんだけどね!」
「……お前、少しは頭が回るんだな」
「空さんは東応大学生ですよ」
「東応大学ってそんなにすごいのか?」
「……さぁ」
なんだろう。いまいち緊張感に欠けるんだよなぁ。さすが天才、というべきなのだろうか。
「……とにかく空さん、その通りです。キラの活動は無し、夜神月もほぼシロ、しかも犯行予告には日時の記載すらありません。言わば、被害ゼロ……」
「でも、本当にそれだけだと、ただ単にキラと名乗る人物が、日本一有名で話題になりそうな大学に対して、いかにも派手な爆破予告という手段を選んで、世間を騒がせようとしたイタズラに聞こえるけど……」
____なぜ、Lまで動くのか?
もはや疑問はそこしかない。キラを騙る犯罪は、大小はさておき頻発しているだろう。それが、ただの予告の段階でLまでが動き、捜査資料での報告段階__この段階で解決に至るケースが非常に多いそうだ__で即解決しなかったのはなぜか。
「ええ。イタズラです。表面上は。」
「……表面上は?」
さっきからやけに意味ありげな物言いだった。普通は、とか、表面上は、とか。
「相沢さんという刑事が違和感を覚えなければ数多くある偽キラのイタズラとして処理されてしまったでしょう。彼は、キラ事件後も一通一通、怪しい電話やビデオテープ、メールや手紙、それらを目を通すだけではなく、個人的に鑑識に回すようにしていたそうです。そして、その一通だけが__明らかに異常だった。」
「明らかな……異常……」
「これだ」
息をのんだ私の背後から、メロが声をあげ、ノートPCのモニターをこちらに向けた。
「これが予告状の現物の画像だ。封筒はない。処分されている」
そこに映ったのは、折り目のある白い紙だった。黒くて太いマジックで、かつて警察がキラを騙った時の字体で「KIRA」と書かれていた。文面は__何のひねりもない。
お久しぶりです。KIRAです。
突然ですが、東応大学を爆破します。
日本警察の皆さん、Lさん、どうしますか?
「……本当に日時の記載がない。」
「問題はそこじゃない。」
そう言って、メロはかちりとクリックする。画像は明らかに一枚目とは色調の違う二枚目に移り、私は「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。
__なんだこれは。
「鑑識から戻った画像データです。」
異常。
いや、異常なんてものじゃない。
これは__病的だ。
「これは……指紋?」
「そうだ。特殊なライトで可視化してる。」
背骨に沿ってナイフをなぞられるように、ぞっと背筋が冷えた。
さっきまでは乱暴に書かれた手紙の画像だったはずが、ぺたぺたと塗りつぶすように、別のもので覆いつくされている。綿密に、群がるように、群衆のように。
それらはすべて、人間の指先の形をしている、指紋だった。
「その数は百人以上ということです。」
「……ひ、百以上……」
「ええ、上書きするように多くの人間が触っているので、正確な人数は分からないとのことです」
口にしながら、その病的な数に言いようのない不気味さを覚える。
「指紋の人たちに共通点とかは……」
「現時点で見出せる繋がりは無いと言えます。称号できたものに関しては大部分は東応大生、ほかは一般人です。もちろん、非公式に結束した可能性も調査中ですが、今のところそういった組織や、やりとりの形跡は見つけられません。」
「つまり、面識のない人間たちの指紋が無作為に集められたかもしれないってこと……?」
キラを騙った犯行予告に、百人以上の指紋。共通点のない人間の指紋を百人も__どうやって付けたというのだろう。
これは明確なメッセージだ、と思った。
警察で鑑識に回さなければ判明しない無数の指紋____まるで【これを遊びと受け取って処分しても構わないが、こちらは本気だ】と脅しているようじゃないか。
「犯人がノート所有者であれば、指紋をつけた人物達がことごとく操られているかもしれません」
「で、でもそれって……」
「はい。犯行予告に指紋をつけ、警察を驚かせる。その為だけに殺される人間が百人以上……ということになります。」
裁きをするでもなく、その手段のために人を殺すとしたら……それは残酷?残虐?分からない。だが、そんなことがあるとすれば、もはや彼らを救う手段はないということだ。
「そんなの……そんなのは、許せない……」
チッとメロが舌打ちをした。
「『警察の皆さん、Lさん、どうしますか?』だと。舐めやがって」
「……送り主は全くの考えなしではないということです。舐めてるのは同意しますが。」
ニアは虚空を睨んで指に髪を絡ませる。この事件は確かに、Lの耳に入ってしかるべきだ。
「……ノート所有者による犯行の可能性も捨てずに、入学式の日に夕陽に張らせたが、死神とやらの姿は見えなかったらしい。」
補足するようにメロが言った。
確かに、望み薄ではある。しかし、夕陽に死神の存在を確認してもらうという手段は、L側にはできない裏技でもある。やって損はない。
「確か死神って、常に憑いてる人間と一緒じゃなくても大丈夫なんでしょ?」
「……ええ。夕陽さんも言ってました。死神を見つけること、それだけではノートの有無を判断するには不確実だと。」
「そっか……どちらにしても、ノートが再び誰かの手に渡っている可能性も捨てきれない……」
「当然だ。」
「ええ、Lもノート所有者による犯行を視野に入れているでしょう」
考え込んでいると、パキッという音がした。メロがチョコレートをかじった音だった。
「……空、お前はどう思う?」
「私は……」
私が語れることに何の価値もない。何か言えたとして、それは根拠のないただの直感にすぎないけれど。
名乗るだけ。
裁きをしない、キラではないキラ。
病的な執着と手間で作られた、脅迫とも取れる、明確なメッセージ性をもつ犯行予告。
「……【キラ】と名乗ることに、意味があったのだと思う。」
……それこそ、考えすぎ、必要のない憶測かもしれないが。
「前提として一般の人間はキラ=デスノートによる殺人だと知らない。実際にノートを手に入れたら、抱く感想は誰しも【人を殺すのって簡単なんだ】となるのが普通。……だからこそ、そんな人知を超えた力をもってしても警察やLに敗北したキラという役目を、再び演じようとは、普通は考えないはず」
ノートに名前を書くだけで人が死ぬ。
名前を知るのが大変、そんなのは副次的なものだ。
「デスノートは、人の手に渡っていいものではないんです。だって……簡単すぎるから。」
血を見ることなく。
苦しむ顔を見ることなく。
銃もナイフを持たずに、離れた場所から。
恨みがなくとも、信念がなくとも、
名前を書けば____死んでしまう。
40秒で死に至る。
いとも簡単に、あっけなく、死んでしまう。
取り消しは効かない。
死んでも取り消せない。
私は____それをよく知っている気がした。
「……続けてください」
ニアは促してくれた。
私は頭の中で、続ける推理を紡ぐ。
__「こんな力があっても、Lや警察には負ける。」
そんな前提の上でキラを名乗るほどの理由。
それは、ひとつの信念だ。
確固たる信念__それは、ひとつの正義とも言えるかもしれない。
普通なら、キラになろうとは思わない。
普通なら、キラを名乗りはしない。
だから____普通ではないのだ。
「普通じゃない。この犯人は普通の人間じゃない。【かつてのキラ】の信者__もしくは独自の正義のもと動いている可能性がある……と思う」
独自の正義感。
かつてのキラ不在の今、それが犯罪者の裁きという「意思を継ぐ」行為でないとすれば、残るものはただ一つ。
「何らかの形で復讐を……警察かLに対して……それは攻撃かもしれないし、「自分ならもっとうまくやる」ということかもしれない。でも、裁きの無い状況からして、恐らく前者……だとすれば、間違いなく」
私はその続きを言っていいものかどうか、二人の様子を見た。変わらない。じっと大きな目を、Lのように睨むようにこちらに向けている。
「私は__このままだと何かが起きる。人が死ぬ。……そう思います。確実に。」
「ええ、私もそう思います。」
「__同感だ」
間を開けることなく得られた同意に、しかしニアはロボットを投げながら小さく__「反吐が出ます」と呟いた。