Chapter 1
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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Afterwards -Chapter 1-
◇憧れ
春、東応大学の入学式、新しい日々の始まり。
期待に胸を膨らませていた私は、白昼堂々現れた黒いリムジンで連れ去られ、もう一人の自分と言うべき夕陽のことを知った。
____「お前は共犯者だ、空」
そして私はニアとメロから共犯者宣言をされた。
__なんて現実離れした私のあらすじ。
__これは何ていう物語ですか?
__そして、気が付いたら朝でした。
現状を説明すると。私は今ニアとメロが宿泊するとあるホテルの一室にいる。
「………」
「………………」
「………………」
ベッドにはニアが転がり無造作に散らばったおもちゃの中心で何やらびっしりアルファベットの敷き詰められた資料を見比べていて、ローテーブルの方では一人掛けソファーにどかりと座り込んだメロが、ノートPCの画面を睨んでいる。遊んでいるわけではなさそうだったので「何してるの?」とは聞けなかった。
その状態はしばらく続き、その間、私はすることもなく備え付けのPCで気まずく時間をつぶしていた。
というか、眠気を感じるのも忘れて、一晩経っていた。
「あ、もう朝だ……。」
立ち上がってカーテンを開ければ、窓の外はちゅんちゅん、と小鳥のさえずりが聞こえてきそうないい天気だった。
「おい空、日本のコンビニエンスストア限定の板チョコレートを買ってこい」
「空さん、私にもなにか食べ物をお願いします。栄養ドリンクとかで結構です」
そんな矢先に、私は二人から思い出したように話しかけられたという訳である。
「あぁ?なんだよニア。」
「…………何か?」
「真似するな」
「してません。私はそろそろ食事が必要だと思ったまでで、限定とかチョコとかどうでもいいです」
「はぁ?食事で栄養ドリンクか?」
「そういうメロもこの時間、板チョコレートで朝食を済ませる気なんじゃないですか。どうでもいいですが。」
ほとんど同時に。しかも食べ物のお遣い。きっとお腹がすいたんだな、なんて私はその間で苦笑する。いらついてるのもきっと空腹のせいなのでしょう。
「いいよ、さっき下のフロアにコンビニあったし買ってくるよ。メロの言うコンビニ限定チョコがあるかは分からないけれど……あと二人とも、朝ごはんのつもりならせめておにぎりとか、ちゃんとしたものにしようね?栄養ドリンクもチョコレートもお腹むかむかしちゃうからね!」
二人の口論が収拾のつかない応酬になってきたので、私は行動するが早いと自分のコートを羽織る。
「じゃ、行ってくる!」
「……」
「………」
「な、何?」
しかし、そんな私を二人は珍しいものでも見たようにきょとんと、必要以上に目を丸くして眺めていた。
「いや、なんつーか、やっぱり空と夕陽は別人なんだなと思ってさ」
「別人?」
まぁ、それはそうだろうと思うけれど。
どこに違いを感じたというのだろう?
「ま、まぁそうだろうね……でも今のやりとりでそんなに違いが出るようなことってあった?」
「空はなんつーか、マトモだ」
「ま、まとも?」
「ええ、夕陽さん、異常に甘党でスイーツを主食としていましたし。そのせいか私達の食べるものを気に掛けるようなことは言いませんでしたね。流石にLの影響を受けすぎているように思いますが。」
「そうだったんだ……」
それは駄目でしょう。
いくらずっと隣にいたとはいえ。
いくら気が合うとはいえ。
今度夕陽と話すときは「ごはんはちゃんと食べようね」と言おうと誓った。
「そういえばイギリスでLにそんな感じのことを言ったとき、やけに不思議な顔をされたなぁ、とは思ってたんだよね……。」
「……次にLの元へ行く際はスイーツ三食頑張ってください」
「うう……」
予期せぬところで入れ替わり作戦に不安を覚えた瞬間だった。
「じゃあ気分転換がてら買いものにはいくけれど、二人はルームサービスでもいいからちゃんとしたもの頼んで食べてね?」
そう言い残して、私はルームキーを手に部屋を後にする。ホテルの一階に行けばコンビニがあったはずだ。
廊下からエレベーターに乗り込み、他の客も入り混じる賑やかなロビーに降り立ったところで、ポケットが振動した。
「ん?振動?」
携帯電話は確か鞄に入れていて、夕陽が持って行ってしまったはずだ。ポケットに震えるようなものはあっただろうか。
不思議に思いながら取り出すと、黒いシンプルな携帯電話だった。持っていた覚えがない。それに、表示されているのは非通知だ。
「はい」
怪しい着信であるものの、なんとなく相手が誰かは予想がついたので、私は簡潔に答えた。
『よかった、つながった!空、大丈夫?』
予想通り、電話に出たのは夕陽だった。電話越しでも自分と同じ声だと分かるのは奇妙な感覚だった。
「うん、わりと大丈夫……かな」
『そっかぁ、良かった、ニアもメロもあんな感じだから安心したよ』
夕陽は明るい声でほっとしたように息を吐いたようだった。ふと、ニアとメロから聞いた話を思い出す。
____今は人間だけど元死神で、元偽物で____私に恩がある、と。
「えーと、その……夕陽の話もいろいろ二人から聞いたよ。過去のこととか、諸々。」
『……そっか』
「夕陽、私に恩があるって聞いた。」
『……空がいなければ、私はいまここに存在してないよ』
「それって、命を救ったってこと?」
『うん。そしてLの命と、たくさんの人の未来もね。』
全然分からない。
しんみりと言う夕陽の話が、私にはこれっぽっちも理解できない。
「…………ごめんね。私、病院で目を覚ました時から、それより前の記憶がなくて……私、貴方に何をしたのか覚えてないんだ。」
『……まぁ、そうだろうね。』
電話口の夕陽の声は平静そうだったものの、その相槌のあとには随分間が開いた。「あの」と声を掛けた方がいいかなと思ったところで、向こうから切り出された。
『よかったら今度、話そうか』
「……うん!私、知りたい。」
『……空がそう言うなら』
「ありがとう」
私も夕陽と一緒だった。電話口ではあっさりと返事はできるのに、聞きたいことや知りたいこと、得体のしれない気持ちが背後にある分、なんだか言葉に詰まってしまう。
『それと』と、ひと時の沈黙を割いて、今度は落ち着いた様子で夕陽は切り出した。
『その携帯電話、連絡用に持っててね。この後は3日後に作戦会議をして、次の3日のことを考える……そんな感じでどうかな?』
作戦会議……ニアとメロのいう、Lを出し抜くという作戦のことだろうか?
夕陽は少し迷うように声を落とすと、巻き込んじゃてごめんね、というような言葉を口にした。
『じゃあ、またその時に』
「あ、ま、まって夕陽!」
私は慌てて引き止めた。なにを言おうと決めていたわけではない。でも、引っかかる気持ちがあったのだった。
『わ、びっくりした、何?』
「なんとなくだけれど……巻き込まれたとは思わない。貴方がLを助けようとしたのは、もともと私の望みだったって聞いたし……」
『……』
「だから、一人で抱え込まないでほしいよ……それに、私は、貴方が望むなら、Lのそばにずっといてほしいと思う。もちろん、ニアとメロに協力する必要があるなら力になる。」
『私が……Lのそばに?』
覚束ない声で夕陽はぽつりと言う。まるで信じられないと言うような口ぶりだった。
「うん、だって夕陽は……Lのことが好きなんでしょ?ずっと一緒にいたはずなんでしょ?」
『………そう、だけど、でもそれで空は……』
「私はね……なんとなく「Lみたいになりたい」っていう気持ちの方が強いの。もしかしたらニアやメロと一緒かもしれない。憧れる気持ちっていうか、それで勢いで大学も受験したようなものだし……」
我ながら単純だよなぁ、と思い、私はあははと笑ってごまかした。自分よりずっと遠い存在、そこに少しでも近づきたいという気持ちだ。そう願った期間はニアやメロのほうがずっと長く、そして能力の上でもずっとLに近い。でも、私も諦め切ることができない。
『……憧れって、昨日も言ってたね。本当にそうなの?』
「私は嘘はつかないの!ニアやメロと一緒にいるのも何て言うのかな、__なんだか物語みたいで楽しそうだし!」
『物語みたい……か、そっか。』
電話口で夕陽は、何か思い当たることがあったように静かになった。でもすぐに、ふふ、と笑い声が聞こえた。
『……ありがとう空』
「こちらこそ。あ、それと夕陽もLも、ちゃんとしたご飯、たまには食べないとだめだよ?」
『あはは、分かった』
笑って誤魔化すような声とともに通話は切れる。気がつけば、私もつられて笑顔になっていた。友達だったという話も不思議としっくりくるものだ。
「憧れ、か……」
誰かに話すことで気持ちが整理されるとはよく言う。そして、それは本当のようだった。
胸に詰まるような想い、焦がれるような歯痒さ。これはきっと、遠い存在を目指そうとする、途方も無い憧れの気持ちだ。
____ニアやメロと同じ……?
まだ私にも、彼らと同じ夢を見ることは許されるだろうか。
益体も無いことをぼんやりと考えながらコンビニで何種類か食べ物やお菓子を買った。そして帰りのエレベーターの中でふと疑問に思った。
今更、だけれど。
ニアとメロは一体、どうやってLを出し抜くというのだろう。まさか危害を加えたり名前を乗っ取ったりとか、そんなことはするはずはないだろうけど……。
「よし、戻ったら訊こう」
手に持ったコンビニの袋がかしゃりと音を立てた。