Chapter 1
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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Afterwards -Chapter 1-
◇同じ嘘
__「私、会いたい、そして助けたいんだ。あの人を」
__「あの人?」
__「うん、この人だよ。Lっていうんだ」
始まりの記憶はやっぱり、いつかどこかの屋上。一人の少女と、彼女の膝の上に開かれた一冊の本。題名は『DEATH NOTE』。人間の少女”空”と、その姿を擬態した死神の私、二人は友達だった。
平和な日常風景は、空が自分の名前を私のノートに書いたことで唐突に終わり、そして暗転する。
気が付いた時には、私はそんな過去のこと、自分がかつて死神と呼ばれる存在だったことをも全て忘れて、空の愛した世界、デスノートの世界に彼女の姿を擬態したまま堕ちていた。
__「私達は似てるということです」
__「好きです、夕陽」
そうして日々は、Lという独りの探偵のもとで過ぎていった。Lは私のことを「記憶喪失の少女」として保護し、居場所をくれた。夕陽という名前をくれた。
そしてキラ事件が起こり、未来が分かると気づいた私は、Lの命を守ることが自分の使命だと信じ、全てを賭して戦った。それがかつての親友の願いだということを忘れ、自らの願いだと思い込んで……いや、世界を救うには、そう割り切るしかなかった。それとも、そう思いたかったがための言い訳だったのだろうか。
__「お前は嘘つきだ、夕陽」
そう言ったのは誰だっただろうか。死神のレムだっただろうか。どこまでも正直に愛の為に自らの命を賭したミサと、未来が見える私を比べて、「お前には失うものなどない」と言った。
確かに、私に失うものなどなかった。私は身一つだった。でも、世界はどうだ。私は未来と、その先に起こりうる犠牲を知っていた。でも、大切な数人を救うために何もせずに見過ごした瞬間があった。……何故だろう。こんな事件さえ終わればきっとすべてがうまくいき、何も後に残すものがないと思っていたのは。
自分が消えれば、ここまでついてきた全ての嘘も、欺瞞も、多くの命を見捨ててきた罪も、あとには何も残らず、自分のいない世界で「彼ら」はそれぞれの未来を生きていくと思っていた。私が消えること、それは贖罪になると思っていた。
ただ一つの心残りは、Lのことだった。
空が生きていると分かって、自分が消えるかもしれないと分かったとき、悲しみと同じくらい安心したことを、私は今でも覚えている。
__なのに、今は。
__私は、どうして生き残ってしまったんだろう。どうしてまだ私は、この世界とLへの気持ちを捨てきれないのだろう。この世界には、ちゃんと生きている人間の空がいるのに……
__夕陽
__夕陽
……なんだか懐かしい声がする。
心地いい声。知ってる声。
「ん……」
ふわふわとした空間で手を伸ばす。この肌に触れるもの、暖かくて、柔らかくて、なんなんだろう?
「__夕陽」
はっきりと呼ばれた名前に、さっきまでの声が夢うつつだったと気づく。夢……そっか、寝てたんだ。だったら起きなくちゃ……。
遅れて目を開くと、ふわふわとした空間は布団の中だった。手足にさらさらとしたシーツの感覚が触れているので身をよじった。すると手足が別のものに触れる。
ぴとりと触れて、暖かい。なんだろう……。
__ぎょろり
いきなり、くるりと黒くて大きな目がこちらに向いた。
「おはようございます」
「わ、わ__」
私は布団の中から後ずさるように飛び出た。そんなことをしたら落ちることになるのに、まるで考える余裕もなく、私はベッドからどしんと落ち__
「危ない!」
手首にかかる力。間一髪。
私は右腕を強く支えられて、ベッドからの墜落を免れた。
目も覚めた。
「……あ、ありがとう」
手首をつかまれたままの私は、背中が半分ベッドから落ちかけた体制でその人物を見た。
「……高さがなくとも落下時の角度によっては頸椎損傷、または神経への圧迫により呼吸が止まります。ベッドからの落下は死因足りえるということです。気を付けてください」
「し、死因たり…える……」
「はい。つまり私は命の恩人という訳です。無事でよかったです、夕陽」
命の恩人を名乗るその人物は、起き抜けの人間に対してとんでもないことを言う。しかも反対側の手の指を咥えながら。そんなことを言う人物は……。
「……L……?」
「はい。Lです。」
私の腕をつかんでいたのはLだった。彼も、寝起きのようにベッドから上半身だけを起こしている。髪もいつもより乱れているようだった。
「……で、どうして起きるなり私を見て逃げようとしたんでしょうか」
Lはじとりと不審そうに目を細めた。私の方がおかしな行動を取ったような口ぶりだ。どうして……どうしてと言われても……。
「……」
時計をちらりと見る。朝7時。
……あれ、昨日なにしてたっけ私。東応大学から車で旧日本捜査本部のビルへ向かって、その途中でLがうたた寝して、そのあとの記憶が曖昧だ。
「……何も覚えてませんか」
Lの問いかけに、私はぐるりと周囲を見渡す。……見覚えがある。かつて、私はここで寝泊まりをしていた。ここは旧日本捜査本部の私の部屋だ。
「夕陽の部屋です。状況は掴めましたか」
大きな目で私を見上げながら、Lが様子を見るようにいう。私の理解を待ってくれていたようだった。しかし、場所は分かったけれど、状況と言われるとさっぱり……。Lはいつも通りの白シャツにジーンズだし……。
「私の服装に何か問題が?」
「……て、て言うか、ど、どうしてLが私のベッドで寝てたの!?」
過去に、ホテルのツインルームの隣のベッドでLが仮眠をとっていたことはある。でも、流石に同じベッドで仲良く川の字で一緒に寝たことはない。というか、川の字というより、この状況は……。
「今更驚くような間柄ですか」
「間柄です!」
「…………」
指を咥えたLはきょとんと眼を丸くして、私を見て、そして天井を見上げた。そのまましばらくぼーっと何かを考えるようにしてから、黒い瞳はゆるりと私に戻ってくる。
「……そうでしたっけ?」
「………」
どうして私に聞き返すのだろう。もしかして、私達がどういう関係だったのか、すっかり忘れているのだろうか。
「……」
Lはにやけている。……忘れている説は撤回だ。どうやらとぼけているだけらしい。Lは今確実に、私に恥ずかしいことを言わせようとしている。
「……」
「…………」
無言で押し通したい、でも、こうなるとLは折れない。それか、曖昧な関係を自分の都合のいい方に解釈し、あれこれとまたからかいだしかねない。事件の外でもLはこういった駆け引きに強いし、負けることを嫌うのだ。
「……うう、じゃあ復習と言うか、おさらいなんだけど……」
私は折れた。こういう場合はさらりと話すに限る。早めに話して聞かせて切り抜けるしかない。
私は仕方なくLの隣に腰掛けた。彼は、布団に埋めていた足をぐいと引き上げると、いつものように三角座りの姿勢を作り直して私を面白がるように見上げた。
「面白そうです。教えてください。」
「そんな他人事のように言わないで」
「ですが夕陽、ここ数か月そういった話を避けてきたじゃないですか」
……それは、きっと空だったからだ。彼女は、なんとなくLに遠慮していると言っていたから、恋愛がらみの話ははぐらかしてきたのだろう。私と彼女がつい昨日入れ替わったことに、Lは気付いていない。
「……キラ事件中の約束。約束というか、L側の作戦……私がLの近くにいても必要以上にキラから脅威とみなされないために、【キラに対してだけ恋人同士として振舞う】ってLが提案してくれたの、覚えてない?」
「そういえばそうでした。はい、今思い出しました。つまり、私達はあくまで作戦上協力し合うだけの他人同士という関係なのでしょうか?」
……な、なにその質問。それこそ他人事のようにしれっと言うLだった。口調と裏腹に口元はにやけている。
「他人……ではないです。ないはずです。だって一応……両思いという話にはなったし……」
「そうでしたか、びっくりですね。」
「………」
「あの日驚いたのは本当のことです。」
「……まぁとにかくいろいろあって、捜査本部の中では公認の仲みたいな認識になっちゃったけれど、あれはあくまで【付き合ってるふり】で……つまり、私達は付き合ってはいないし、恋人でもないの、L。」
私はまた緊張で口調が改まってしまうのを感じながらも、慎重にLを覗き込んだ。
「そしてその状況、関係、私達の間柄は、いまも変わってない」
「………」
キラ事件中は、それどころではなかった。言ってしまえばそれまでだ。でも、意図的にそれ以上を望むのをきっと私は避けていた。
「変わってない……ですか。よく分かりました。」
きっぱり言い切ると、私の言葉を反復したLが、ふと、珍しく目を伏せてから私を見上げた。
なんとなく、真剣な話をしそうな気がした。
「L……?」
「今思えば、私は……あの事件を生きて解決できるとは半分も思っていなかったのかもしれません。」
Lは大きな黒い瞳で私を見つめた。
「自分が居なくとも、意思を継ぐ者はいる、世界と正義と、事件の解決……私という個人の命よりも大切なものがある……と、そう思っていました。しかし、それでも頑なに、私自身を離さないでいてくれた存在がありました。」
「離さないでいてくれた……存在……」
「貴方の事です、夕陽」
「っ……」
「私は嘘つきです。さんざん貴方に「一緒にいてほしい」などと言っておいて、私はそれでも、貴方が私の存在を願ってくれていることに甘え、満足し……本当は……命を懸けていました。」
「…………」
「正直、こうして夕陽との未来が続くなんて思ってもいなかったんです。」
Lらしくもなく、Lは、悲しげに笑った。その手が、私の頭に載せられ、力なく撫でる。
同じだ__と思った。私も、自分が生きている、存在し続ける未来なんて無い、許されないと思っていた。
「だからでしょうか」
「……L?」
「ずっと一緒にいてください、という約束なんて、本当はいつでもできたはずなんです。それなのに私は、『楽しみは未来に残しましょう』なんて嘘をついてしまいました」
やっぱり同じだった。__いつかLが言ってくれた、「私達は似ているということです」という言葉__Lに似ているだなんて、そんなわけないじゃん、と思っていたけれど、嘘つきなところ、互いを想っていたこと、内緒で命までかけていたこと、それで相手が傷つくと分かっていたこと__どれも同じだった。
__どうして私はまだ生きているんだろう、か。
もしかして、Lも同じことを一瞬でも思ったのかもしれない。だったら、何を悩む必要があったのだろう。
私は喉の奥が痛むのを感じながら顔を上げ、Lに一つの質問をすることにした。
「L、これから先、また危ない事件に遭遇することはあると思う?それとも、キラ事件以上にLの命が脅かされることはもう無いと思う?」
「それについては断言できます。……あります。世界は相変わらずですから。」
「例えば私がもう二度と命を懸けないでってお願いしたとして、約束してくれる?」
「………私は」
「………うん。Lは、そんな約束なんてしない。合ってる?」
「……驚きました。その通りです。」
珍しく言い淀んだLの言葉を、代わりに言い当てると、彼は目を丸くした。心底驚いているようだった。でも、こんなに簡単な言い当てがあるだろうか。__分かっていたことだ。分かっていた。Lは変わらない、キラ事件が終わっても、LはLだ。
私は勇気を出して、ずっと保留にしていた話を切り出すことにした。
「じゃあ約束しよう、いまここで、新しい約束」
私は精一杯の笑顔を浮かべた。意図的なものだったから多少、不自然かもしれない。でも、笑いたかった。Lは私を見て、指を咥えた。
「ごめんなさい、L……あの日の私には未来が視えていて、それより先の、あるかも分からない未来の話をするのが怖かった……でも、考えてみれば未来にもともと確約なんてないんだよね。だから、これからは一緒にいましょう。嘘でも、誤魔化しでも、生きてる限り、とにかく隣に。」
精一杯の笑顔で、私は願うようにLを覗き込む。
Lはしばらく指を咥えて俯いていたが、やがてぼんやりと私に呆れたような視線を向けた。
「……嘘でも、誤魔化しでもですか。それではこれにはどう答えてくれますか?…………恋人になってください。」
その目には炎のような灯りが戻っているように見えた。見つめられた私は、無駄に間をおいて、そして「あはは」と笑った。
目を逸らし、今更顔が熱いことに気付く。
「……これは冗談ではないのですが」
「はい」
「………それは、返事ですか?」
「うん……でもむり、恥ずかしいや……はは」
「夕陽は笑って誤魔化してばかりです。作り笑いだとバレバレです。もう少し素直になったらどうですか。」
「Lだって嘘つきオバケなんでしょう?」
この一言はLの負けず嫌いに引っ掛かってしまったらしい。
「では」と、急にベッドを揺らして飛び上がるような動きをしたLは、私を仰向けに組み伏せた。
「__!?」
「この瞬間からは恋人……つまりこういうことをしてもいい間柄になった……ということですか?それも笑って誤魔化しますか?」
ほとんど覆いかぶさるような姿勢で、ほとんど押し倒すような姿勢で、にやりと悪魔のように笑ったLが私を見下ろす。
「…………」
「……夕陽、どうして黙るんですか。」
からかっているだけだ。
Lは、面白がっているだけだ。
それを分かっていながら__分かっているからこそ逆に、私は拒む言葉を口にできない。きっとこうしてからかわれることすら嬉しくなってしまっているなんて、とても言えない。そんなことを言ってしまったら私はお終いた。
「………なら」
沈黙の理由を誤魔化すために、私はぽつりと目を逸らしたまま言った。それを言ったらどうなるかは、本当のところは分かっていた。
「はい」
「………キス、なら」
一瞬の胸が張り裂けそうな恥ずかしさの後に、目を閉じる__最後にキスをしたのは確か、月君とも会う前、二人きりで買い出しに行って、互いに好きだと分かった帰りの夕陽の中だった。
逆光の中、Lの顔はよく見えなくて、そして惜しむ間もなく一瞬の事だった。幻や夢のようだった。あの時は、いつでも胸の中にはLが死んでしまう未来があった。自分が誰かも知らなかった。
いつ終わってしまうかもわからない一瞬の幸せ__楽しい時と嬉しい時ほど、その恐れは私を苦しめた。だから、あの日、私は思わず泣きそうになってしまったのだった。
でも今は__なんだか違う。
胸にあるのは、願いだ。
もしかしたら欲張りなのかもしれない。もっと続いてほしい、一回きりで終わりたくない、明日も、明後日も、今感じている幸せをもっと__なんて我儘なのだろう。
「……L」
私は身を起こして、ゆっくりLから離れた。そうすることでしっかり顔が見えてまた恥ずかしさがこみあげてきたけれど、そこは目を逸らしながら立ち上がることでどうにか振り切った。
「もう終わりですか」
しかしLは拍子抜けするほど冷静に、いつもどおり指を咥えて私を振り返った。
「お、終わりです!だって別に……」
「いつでもできますしね」
「__!?」
私はぐううと続きの言葉を飲み込んだ。
「ちなみに昨日は、車の中でぐっすり眠ってしまった夕陽を、私は見事に起こさずにここまで運んできたという訳です。スーツが窮屈そうでしたので着替えさせましたが、今朝まで一度も目を覚ましませんでした」
「…………」
「夕陽がどれほどぐっすりだったか、知りたいですか?例えば」
「そ、それ以上はいいです__っ」
……からかわれていることはさておき、だとすれば昨晩はお風呂にも入らなかったということだ。私はベッドから立ち上がり、後ろのクローゼットに向かう。
「とりあえずシャワーは入らなきゃ……」
「そうですか、シャワーですか。私はこのままここに座って捜査資料を見てますがどうかお気になさらず。」
A4の紙束をぺらりと指先でめくりながら、しれっと言い放つL。負けじと私も平然と言い返す。
「じゃあその捜査資料から目を離さないでね!」
「夕陽」
しかし、呼び止められてしまった。
「もう読み終わってしまいました」
「……も、もう一回読んだら?」
「ですので私も一緒にシャワーに入____」
「お、おやつ抜き!スイーツ係はワタリさんを人質にストライキを起こすことにした!」
「…………」
「…………」
「………私は向こうの部屋のメインPCで作業することにします」
「おやつ抜き」の一言がクリティカルヒットしたらしく、ごく平淡な口調でそう言い残して、Lはそそくさと部屋を後にした。
私はどきどきしたまま、ベッドに座り直した。
「…………ふぅ、久しぶりのLのあの感じ、なかなか冷静になれないや……」
ぱたんとドアが自然に閉まり、まるで嵐が去ったように部屋は静かになる。
「……あそうだ、空に連絡しなきゃ」
私がうたた寝してしまったせいで、状況を説明できずに一晩経ってしまった。
空は大丈夫だろうか。ニアやメロは、言葉足らずに彼女を困らせていないだろうか。
それに、この状況は__ニアとメロの作戦の一環ではあるけれど、私がもう一度Lに会いたいと願って協力を申し出たという側面もある。
空を巻き込んでしまった以上、せめて、説明をしなければ。
ワンコール、ツーコール
__空、空。
この電話でなくとも、いつかちゃんと話をしよう。
今日、Lとの未来に向き合えたように、彼女とも__かつての親友とも、これからの話をしないといけない。
でも、そのまえに、私達が立ち向かうべき事件の解決が先だ。事件名はどうなるのだろう。まぁ、その説明はニアとメロに任せた方がいいだろう。
__3コール目。
『はい』
簡潔に空らしき声が聞こえた。笑っちゃいそうなほど、自分と同じ声だった。
「よかった、つながった!空、大丈夫?」