Chapter 1
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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Afterwards -Chapter 1-
◇うたた寝
空と入れ替わりに、月君とL(大学では竜崎と呼んでるんだっけ)のいるらしい学生カフェへと向かう。
走りにくいスーツ用のパンプスでも、自然と早足になった。穏やかなキャンパスは見渡す限り自分の他に走っている子などいなくて、それでも息は上がる。
____3ヶ月ぶり。
それに加え、もう会えないかもしれないと思っていた人に会う。しかも、命さえ投げ出せると願った大切な人もそこにいるのだから。
「……落ち着かなきゃ。」
それでも空と夕陽が入れ替わったことを悟られないように、私はサンルームのような学生カフェを遠目に立ち止まり、大きく深呼吸をした。大丈夫。急がなくても、竜崎はそこにいるから。もう危機はない。
息を吸って、履いて、自分に言い聞かせてから目を開く。
____あれ?
遠くにふらりと、よく見慣れた姿があった。白いシャツに、丸めた背中。手ぶらに水色のジーンズで指を咥えている。
竜崎だ。一人っきりでいる。月君はいない。
きょろきょろと、ゆっくりとした動作だったけれど、気もそぞろな風に周囲を見回している。空が戻らなくて、様子を見に来たのだろうか。
「____っ!」
なんて考える間も無く、私はその姿に走り出していた。そう遠い距離でもない。ヒールの音ですぐに竜崎はこちらに気がつき、そして目を丸くした。きっと驚いているのだろう。「どうしてそんなに急いでいるのだ」と。
「える……っ竜崎!」
「……どうしました。」
ぶつかるようにして飛び込んでしまった私を、優しく柔らかく受けとめる竜崎だった。
「夕陽、何かありましたか。まさか迷子に……」
遅れて顔をあげると、やりすぎなほど首をかたむけて「きょとん」とする竜崎がいた。そんな気の抜けた表情をみたら自然と頰は緩んで、そして笑った拍子に涙が滲んでしまった。
「ううん、なんでもない。……ほんのちょっと離れてただけなのに可笑しいよね?」
ちょっぴり焦って言い訳のように取り繕うと、しかし竜崎はすべての思考を止めてしまったかのように私をじっと見つめる。「きょとん」ではなく、無。全く感情が読めない。私は待つしかなかった。
そして不意に、なんの予備動作も前触れもなく、唐突に。
何も見えなくなるほどに____竜崎は私を抱きしめた。
「_____!?!?!」
「…………夕陽」
「はいっ!」
「……いえ、すみません。」
しんみりと呟くように竜崎は言った。
「私のやることは大概デタラメですから、意味はないのですが、どうしてでしょう」
背中に回された腕が、スーツの越しに私を動かなくする。強い力だった。
「りゅう、ざき……?」
「……すみません。夕陽はついさっきまで一緒にいたはずなのに、おかしいですね。私のやることなので、気にしないでください」
そしてぱっと離される。
解放された体によろめきつつ、私は「あはは」と軽く笑う。竜崎の言葉は悲しくも、嬉しかった。竜崎は、私に気づいてくれている。でも、現実的には私がずっと離れていたなんて____実際は空と入れ替わる形で戻って来たなんて____ありえない可能性だからいつものように「自分の言うことがデタラメだ」と言い聞かせようとしているんだ。
「……そうだね、でも嬉しいや」
涙が溢れそうになりながら、私もそうやって誤魔化して笑う。空やニア、メロとの関係は隠し通さなきゃいけないけれど、だからと言って「気のせいだよ」といって、竜崎を孤独にしたくなかった。
「……帰りましょうか。」
「帰るの?月君は?」
「カフェが満席だったので、月くんとはまた明日と約束しました。もしかしたらテニスの試合になるかもしれませんが。」
「テニスの試合……」
「ええ。前に約束したじゃないですか。」
____「ほとぼりが冷めたら、またテニスをして勝ちますのでその時は、笑ってください。」
そうだった。屋上でのお別れの時、竜崎はそうやって私を元気付けてくれたんだった。
それとも、月君との約束だろうか。
____「またテニスで勝負をできるような日が来ると良いですね」
そんなことを言っていたような気がする。
それもいいことだと思えた。どっちも、嬉しい。
「……はい!」
元気に返事をすると、一瞬だけ考えるような間があって、竜崎は私に手を差し出して来た。
私も「空なら遠慮するのかな」と考えようとして、「まぁいっか」とその手を取った。ぎゅっと互いに握り合ったので、結局そんな迷いも意味はなかったのかもしれない。
キャンパスの門を出てすぐ、向かいの路肩に黒い車が停車していた。竜崎の足がそちらに向かうので私はそのままついていった。車に乗り込めば、運転手さんはやはりワタリさんだった。
「おかえりなさい、竜崎、夕陽さん」
「えへへ!ただいま、ワタリさん」
勢いのままに元気に笑うと、懐かしい柔和な微笑で会釈が帰ってきた。竜崎は早速シートに両足を上げて座る。
「……それで、彼らは?」
「明日の夜に遊びに来るそうですよ、ほっほ」
____彼ら?遊びに?何の話をしているのだろう?
「そうですか」
月君ならさっき別れたばかりだし、まさかミサのことを彼らなんて言わないだろうし、それ以外に日本での知り合いなんて、警察関係者しかいないはずだ。
「…………」
ここで「誰?」と聞いても、空があらかじめ知っていた可能性もある。ここは黙っているのがいいだろう。それともまさか……
「夕陽」
「チョコレートのストックはありますか?」
「!!」
____チョコレート。
その一言で予感的中だった。
「……どうかしましたか?正確には板チョコレートなのですが……」
指をくわえてこちらを覗き見る竜崎だった。私は的中していた予感に思わず額に当てていた手を、そのまま「oh no」という様子で「チョコレートはなかったと思います」と言った。でも心の中の副音声は___「それ完全にメロ来るんじゃん……」と嘆いていた。
「な、なんで来るんだっけ?ニアとメロは……」
「Lの使っていた機材を見たい、触りたいと言って聞かなかったので」
子供かよ、なんて心無いツッコミをしそうになって、私は自分を諌めた。数ヶ月間一緒に過ごして彼らがあまりに強めで強気だったので、思わず子供であることを忘れていた。
「あはは……かわいいね。」
「……そうだといいのですが。」
窓の外をみていた竜崎はあまり関心がないようだった。全く別のことか、あるいはずっと先、もしくは現在捜査に当たっている事件の推理を進めているのかもしれなかった。
そろそろ静かにしよう、と考えたところで竜崎が「夕陽」と耳打ちしてきた。
「……び、びっくりした。なに?」
「このまま……」こてん、と私の肩に竜崎の頭が乗る。
「このままこうして眠ってもいいですか?」
____耳に吐息がかかって、肩に重みがかかる。
あまりに近い距離に、そして体温に、まったく予期していなかった私は無言になる。でも、ふと思い出す。向かう先があのビルだったら、もうすぐ着いてしまう、と。
「夕陽…………駄目ですか?」
「いいけど、竜崎、」
なんとなく恥ずかしくて必死で、私は運転席からは聞こえないように声を押し殺して言った。
「……もうすぐ着いちゃうよ」
「構いませんそうしたら」
「………………。」
何故か、体制をただすように頭が擦り寄るように動く。膝に乗っていたはずの竜崎の腕が、肩を組むような形で私の首の後ろに回された。
「そうしたらまた一緒に寝ましょう……。」
消え入るように、綺麗な寝落ちだった。
反対の手も自分の前に回されていて、それは相当無茶な体制だったけれど、私は、車のシートに座っていることを除けば抱き枕のように抱き抱えられていた。
「竜崎……」
肩の重みに、その言い逃げに、私は何も言い返せない。……まぁ、きっと時差ぼけの影響で寝ぼけているのだろうな、と私は思うことにした。
____でも、穏やかだ。
「…………ただいま」
口だけの動きで、聞こえないように呟いた。ずっと隣に戻りたかった。その声を聞きたかった。手を取りたかった。
ほんの偶然だけど、またこうして一緒に居られるなんて。……私も眠くなってきた。竜崎。きっと疲れてるんだね。
「……頑張ったね、竜崎。大好きだよ。」
「はい……」と、声に出してないはずなのに竜崎が呟いた。それは多分寝言だった。