Chapter 1
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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__「L、これから幸せに生きていけそう?」
なんて格好つけてみたけれど、物語からドロップアウトした現実は案外、大きな誤算を含んでいたらしい。
鐘のなる時間に、聖堂から出ていく空とLを見送った私__夕陽__は、すっかり無人さながらになった礼拝席に浅く腰かけた。
「……何がなんだか自分でもわかっていないけれど、とにかく私の寿命はまだまだ残ってるということは理解した。」
他人事のように、私は半ば自虐的になって自分の状況を整理した。
__体感的にはつい、さっきのことだ。
デスノートの所有権を月君に返して、身体が動けなくなったあと、私は確かに一度、意識を手放した。そうして次に気が付いた時、私は、あたり一面の荒廃した砂の景色の中に倒れていた。
重い頭を上げながら、記憶をたどる間もなく目をぱちくりとさせれば、目の前には”ケケケッ”と大きな口を開く楽し気な黒いシルエットが……。
「ええええええっリューク!!!??」
ぼんやりとして、などと言ってられない。私は飛び上がって、跳ねる様にして後ずさった。
「ケケケッ……ひさしぶりだな、夕陽」
「こ、こ、ここ、死神界??」
__冗談じゃない!
「わ、わわわ私、もしかして死神に……?」
取り乱す私に、リュークは心底愉快そうに、宙を一回転した。
「……ノートは使えないし、寿命も減る一方だ。眼もない。人間の寿命を頂けないってことは死神じゃないから安心しろ。まぁ、ここにいるってことは、前よりは死神寄りな体質なのかもしれないがな!」
「……どうしてここに」
「さぁ、わからん。大方、いろいろなズレに弾かれちまったんじゃねーか?時間とか場所とか……んー、寿命も結構残ってるみたいだしなぁ」
__寿命が残ってる?
リュークは焦点の合わないような目を、すこしだけ私の頭上へとずらしたようだった。名前も寿命も、何も見えなかったはずの私の頭上へ。
「……前はなにもみえなかったが、今は普通の人間みたいに頭の上に夕陽って名前が出てるぞ。……人間があまり【此処】に居たら、大王に気付かれちまうから早くどこかに【降りた方がいい】と思うぜ。クク……」
__降りた方がいい。
その言葉とともに、リュークがたくさん並んだがらんどうの地球儀を指さして笑う。砂に刺さったようなそれは、無造作に不規則に、数えきれないほどたくさん、ずっと先まで並んでいるように見えた。
「あれが……全部、世界を覗く場所?」
「あぁ。Lやライトはあそこから見られるぜ。」
指し示されたのは、数メートル先の小さな銀色の地球儀だった。
砂に足を取られながら、私は歩み寄り、おそるおそる、それを覗き込む。
「クク……名前を思い浮かべてもいいし、なんとなく見るだけでもその世界のどこかが見られる。」
「……L=ローライト……。」
私は迷う間もなくその名を呟いた。
一度目を瞑り、もう一度見開くと、空から落ちるような錯覚ののちに、白い背中が視界に映った。
__Lだ。
背景に移るのは、緑の芝生と、石造りの大きな教会……そして隣にいるのは……緑のコートを羽織った少女。
「そっか……空がちゃんと……Lと一緒にいるんだ。」
Lが一人になっていないと分かっただけで、十分だった。だったら、私が【そこ】に戻る必要もないだろう。
戻る必要はない。でも、会いに行かないと……!
「リューク……!」
「……そこに【降りる】のか?選んじまったら、多分その体じゃ、もうここには戻ってこれないぞ。」
もともと、死神界になんて戻って来たくない。そう言いかけて、私はリュークの言葉が「落ちる時は場所を選べるが…」という言葉の裏返しだと気づく。つまりは一方通行。選べるチャンスは一度きり、ということだ。
__Lの隣に戻ることは望まない。
__でも……。
私は、もう一度眼下に広がるイギリスの風景と、Lと、遠慮がちに手を繋ぐ空の姿を見つめた。胸がぎゅっと痛む。でも堪えて、リュークに向き直った。
「うん、私、ここにする。だって、約束だけは守りたいから……。」
固く決意する。Lとした約束、「事件が終わったら一緒に行きましょう」という約束。きっとそれを今叶えているのは空だけれど、たとえ彼女のフリをすることになっても、一瞬だけでも、ちゃんと【Lの隣】で言葉を交わせるのなら……。
「ほーう、面白いな、ケケ!その後はどうするんだ?」
「……はは、まぁ、なるようになるさ。じゃーね!」
決めてしまえば一瞬だった。私はおどけてみせてからぐっと身を乗り出し、後先考えずに飛び降りた。
なんと、ふわりと体が浮いて、飛べることに気が付いた。
……ノートは使えなくとも、空は飛べてしまうようだった。
「______そして今に至る。なんて。」
私はLと少しだけ話をして、そのまま姿を消した。(擬態もできてしまった。なんて中途半端な死神の名残だ。)今は、周囲に誰もいないのでLのように椅子の上で丸くなって座っている。
___しかし。
「………お前、どういうことだ?どこから現れた?」
声のする方を振り返れば、そこにいたのは。
肩で切りそろえられた金髪、片手にチョコレート。
「メロ……!」
「っ……お前、何者だ?……死神か?」
見られてしまったどころか、思わず知らないはずの彼の名前を口走ってしまった。
「私は……」
私は、逃げられなかった。
____だったら、やることは今までと同じだ。
「____私のこと、信じてくれる?ミハエル=ケールくん。」
ここに来て、もう一度これを言うことになるとは。
私は薄く笑った。メロも一歩も引かなかった。
見られてしまった以上は、秘密を守り通すためには、メロを、そしてきっとニアも、共犯者に巻き込むしか無かった。
Afterwards
◇共犯者
ワイミーズハウスでの話をメロから聞きながら、彼の運転するリムジン(免許とか年齢的にどうなのだろう)は、白昼堂々に拉致った透間 空__即ち私を乗せて、あっという間に東応大学からそう遠くない都内のホテルに到着した。
「……つまり、二人はLからクリスマスプレゼントをもらったっていうハートフルな回想だね!」
「全然違うだろ。」
「部分的にはあってます。」
誘拐されたはずの私は、その実行犯がニアとメロだと知ってからすっかり安心しきってしまっていた。私はメロの方へ身を乗り出した。
「一個気になったんだけど……メロ。」
「俺かよ。」
____あれ、俺?
__さっきまでの過去回想と一人称が変わってる?日本語だから?
「Lからのプレゼントの中身はなんだったの?」
「あ?……普通にチョコレートだった。」
「はい。しばらくパキパキうるさかったです。」
くるくると髪を指に引っ掛けながら、ニアがぼそりと言うのを、メロは聞き逃さない。
「うるせー!お前も飽きもせずにLのパズルを何度もジャラジャラ崩しててうるさいんだよ。」
聞いた話によると二人が同室に暮らし始めたのは12月の末だとして、三か月はその状態が続いていたということか、と私は計算する。
どうりで砕けているわけだ。
____仲良くなってきてるんじゃん!
「あははっ」
「……空さん、勝手に笑うのは許しません。」
そんな話をしながら、私達はいつのまにかホテルのロビーに足を踏み入れた。
金色のシャンデリアを横目に、当たり前のように私たちは何の手続きもなく最上階のフロアへと上がっていき、扉にまでレリーフのあしらわれたスイートルームに足を踏み入れた。
「す、すごいところに泊ってるんだね……。」
「ええ。資金はLから出ていますから。」
ニアは淡々と荷物から自分のおもちゃを大きなベッドに取り出す。
私はぽいぽいとベッドの上を跳ねる様々な怪獣とヒーローのおもちゃを見ながら、「ん?」と意識の中でその言葉をなぞる。「Lから資金が出ている」?
「え、ちょっと待って。ということは、Lは、貴方たちがいま日本にいるという事を知っているの?」
「ええ。知っています。」
けろりと目も会わさずに言うニアに、私は思わず息をのむ。聞きたいことは沢山あるのに、質問が追いつかない感じだ。後からドアを閉め入ってきたメロが、はーっとため息をついた。
「……俺がLに日本に行かせろ言ったんだよ。こいつばかり奇をてらうようなのも癪だからな。」
奇をてらう、というのは。
さっきの話だと、急に自分の荷物がニアの部屋に移動されていたことを言っているのだろうか?根に持ってるのか、それとも子供っぽいのか、負けず嫌いなのか。強がりたいのかな。
どっちがよりLっぽい発想をするか競っているようでもある。
「なんで空がニヤニヤしてるんだよ。」
「いや、微笑ましいなぁって。」
「あぁ!?」
「ご、ごめん!」
お姉さんぶろうにも、威嚇されてて萎縮してしまう程度には私はメロと対等かそれともそれ以下だった。
メロは視線を落としながら腕を組んだ。
「……それに、俺は夜神月がどんな奴なのかも見てみたかったんだよ。」
____月君を?
「……残念ですが、それについては私も同感です。彼がどんな人間なのかをこの目で見ないと納得しきれない、というのが正直なところです。……感情的になっている自覚はあります。」
なんとなくむすっといじけたようにする二人だった。
それもそうかもしれない。敵として追っていたはずの人間__よりにもよって真っ向から対立していた主張を掲げていたキラを許したという事実は、例え【ノートによってキラとなっていた】という理由付けがあっても、納得しきれない者だろう。
とりわけ、Lのあとを継ぐべく今日までの日々を費やしてきた__命を燃やしてきた二人にとっては。
「……それで、話は途中だったな。」
どかりと入り口付近のソファーに座り、メロがチョコレートの包み紙をめくり始めた。
「あ、うん……メロが私たちの後をおって、聖堂に出かけたところまで聞いたんだった。」
私が背後の椅子に座ると、彼はぱきっとそれを食べた。
「ああ。お前とLが聖堂に行った日、あとから俺も様子を見に行ったんだ。」
その日のことはよく覚えている。ちょうどクリスマスの朝だった。確か、寒さを理由にして遠慮しつつもLと手を繋いでいた。
「鐘の音が鳴るのを、お前は聖堂の外で聞いたんじゃないか?」
「あー……うん。そうだったと思う。」
「その時のこと、どこまで詳しく覚えてる?」
チョコレートで私を指さすようにしながら、メロは足を組んだ。私は思い出す。そう、難しい回想ではない。
「私が聖像とかキャンドルを見て回ってたら『そろそろ鐘が鳴りますよ、外の方が良く見えますよ』ってシスターの人が教えてくれて……それでLを外に連れ出したかな。」
その時、Lは一人で席に座って、祭壇の方をぼーっと眺めていた。
「声を掛けると、くるっとLが一度後ろを振り返ったのを覚えてる。……で、私はたしか、『そこに何かいるの?もしかして、死神?』って、半分冗談で言ったら」
冗談半分だった。
でも、半分は本気だった。だって、話しかける前のLは、そこにいないはずの誰かと話しているように見えたから。
「………。」
ことのほか、メロは険しい顔で何かを確かめるように私とじっと目を合わせる。
「……それでLは、なんて?」
「………少し考えるようにしてから、ちょっとだけ笑って、『いるとすれば、Guardian、守護者のようなものですかね』とか、そんなことを言ってたような……。」
____Guardian、守護者
____守る者
なんとなく引っかかる、胸につっかえるような言葉だ。
私の曖昧な記憶に、しかしメロはまるで年下とは思えないほど深い思考を繋げるように、腕を組んだまま目を閉じた。不思議に思ってベッドに寝転んだニアを振り返ると、まるで感情の読めない大きな瞳で見返された。
「……どうしちゃったの二人とも、どうして、黙っちゃうの?」
「空さん。」
目をつぶったままのメロの代わりに、ニアがあくまで平坦な調子で言った。
「それが夕陽さんです。」
姿の見えない、死神のような、Lが守護者と言った、何者か。
得体のしれない何かのことを、ニアは、さっき目の前にいたはずの少女だと、夕陽だと、きっぱり言い切った。
____私と同じ外見だった、あの子が……?
この二人は、ニアとメロは、私の知らない何かを知っている。だったら……。
私はいっそ話してすっきりしてしまおう、とニアの瞳を覗き込んだ。
「私は、つい五か月前__11月5日まで、都内の病院に入院していました。でも、その間、私は寝るたびに夢を見ていたんです。」
「と、言うと?」
「夕陽と呼ばれる夢です。最後に夕陽が消えるような夢を見て、私はもう夢を見なくなったんです。だから私は……自分が夕陽なんじゃないかと思おうとして……。」
____私は夕陽ですか?とLに聞いた。
雨の中で見たLの姿があまりに悲しげだったから____周囲も私をそう呼んだから、そう思うことにした。でも、違和感はあった。
「なるほど」
現実的でない話をしているのに、ニアは驚きも呆れもせず、その姿勢を崩すことは無かった。寝転がってはいたが。
「大体わかりました。」
泣きそうになる私を、くりりとニアの黒い目が見上げた。どことなくLと似ているようでいて、やはりまだ幼さの残る、無邪気にも近い無地の白さ。白くて、黒い瞳。
「夕陽の話とも整合性がとれます。……ですよね、メロ?」
「あぁ。」
ずっと眠っていたように沈黙していたメロが、首肯した。
「つまり、空さんがみたという夢の通りに夕陽さん自身も、自分が消えたと思った。しかし、何らかの原因でそれを逃れ……」
「……『意外と寿命残ってた、あはは』とか言ってたぞ」
説明するニアに補足する形で、メロは呆れながら夕陽の言葉らしきものを真似した。ニアもそれを受け、半目になり呆れたようにおもちゃをぽいと投げた。
「……緊張感なさすぎですね。まぁいいですが。とにかくそんなわけで、夕陽さんは消えずにこの世界に留まった。そして彼女はあくまで【消えたフリ】をしていたそうです。」
__ちょっと待って。
「えっと、夕陽が消えていなかったのは、寿命が残っていたから?えっと、なにそれ、どういうことなの?」
うっすらとした知識では、それは死神のようなものの考え方だ。
「……そこは知らなかったんですね。彼女は、元は死神だったそうです。経緯は話してくれませんでしたが、今はただ姿を消したり飛んだりできる人間のようです。」
「…………。」
ええ。
あの子、そんな感じなの?
「いや、それって人間じゃないんじゃ……」
「死神の名残が残っちゃってるだけ、とか言ってましたが。……要するにデスノートを持たない、デスノートで人を殺しても自身の寿命を増やせない状態を人間とでも呼んでいるんじゃないでしょうか。詳しくは本人に聞いてください。」
「…………。」
まぁ、無理に全部を理解する必要もないのだろう。だったら、ひとつだけ聞いて、夕陽の話は切り上げた方がいいのかもしれない。
「それじゃあどうして夕陽は、【消えたフリ】なんかを?自分が本物だってLに名乗り出ればよかったのに。」
「………。」
「………メロ。」
「そこで俺かよ。」
「私はそういった情緒面の話が苦手なんです。」
「………チッ。まぁいい。」
なんだろう。
決まずいのか、難しいのか、言い難い事なのか、やけに渋るニアとメロだった。
「……それこそ本人の口からきくべきだとは思うが……平たく言えば、夕陽は自分じゃなく、お前に代わりに幸せになって欲しかったって言ってた。お前に恩があるらしい。それ以上は知らない。」
__恩がある。
まったく思い出せないけれど、それで彼女はあんなにも自分を抱きしめてきたんだ、と不思議と納得する心地がした。
案外、中途半端に思い出せないでいる親友の存在は、夕陽のことなのかもしれない、と思った。
パキッと、チョコが折れる音がした。
顔を上げれば、しんみりとした空気を破り去ったように、メロが口の端を釣り上げ、悪魔のような表情で私を睨んでいた。
「という訳だ。お前と夕陽は同じ外見で、Lはそのことを知らない。それを知っているのはニアと俺だけだ。」
振り返れば、ニアも同じようににやりと、不敵というよりは悪だくみをするように笑みを浮かべていた。
「夕陽さんはメロに対して、その秘密を守ってもらう代わりに全面的に何でも協力する……と言ってきました。彼女との交渉は成立しましたが、貴方に対して説明している暇はありませんし、同意が前提でした。ですのでああやって脅したという訳です。」
「Lに近い人物がいつでも入れ替われる状況……この事実は使える。俺たちは、お前たちを使って__Lを出し抜く。……だから初めに言っただろう?空、お前に選択肢はない。」
お前は共犯者だ、とメロはにやりと笑った。