Chapter 1
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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キラ事件の終息を知ったのは、テレビのニュース報道を聞いたときだった。
Afterwards -Chapter 1-
◇Lを継ぐもの
なにも、ワイミーズハウスに暮らしているからといって、事件の情報がいち早く特別に世間と切り離されて伝えられるわけじゃない。
ワイミーズハウスは確かにLの後継者を育てる施設だ。だけれどそんなものはただの一側面にすぎない。
ここに暮らしている子供たちには犯罪捜査以外の才能を持つ者たちも沢山いる。音楽や、絵画、医学の分野や、キルシュ・ワイミーのような発明の才能を持つ者もいる。
だから、例えここが【世界の切り札L】の育った場所であっても、僕やニアがナンバーワンやナンバーツーと言われて競い合わされ、その下に続く子供たちが何人いて、Lの功績や才能に夢を見、憧れを抱こうとも、彼の捜査情報が逐一報告されてくるわけじゃない。
僕たちは、あくまで子供たちだった。
幾分過剰とは言えども、囲われて守り育てられるだけの、慈愛のもとで伸び伸び育つべきただの子供(才能)に過ぎなかった。事件への捜査協力などは、必要ないどころか危険として一線を置くべきことだった。だから、一部の犯罪捜査に興味のある子供達がすることと言えば、ごく限られた情報、それこそテレビや新聞の報道から得られる情報をもとにする、他愛もない思考ゲームくらいなものだった。
Lに最も近いと言われてきた僕とニアでさえ、何も知らない、何も知らされない子供だった。
キラ事件の顛末を聞かされた【あの夜】までは。
厳かにロジャーに呼び出され、「皆が寝静まったら談話室に降りて来なさい」と言われたのは、クリスマスの少し前だったか。
パジャマに着替え、夜が更けるのを待ってから階段を降りていくと、パチパチと弾けるオレンジ色の暖炉の前に、誰かが座っていた。
「____どのような挨拶にすべきでしょう。ここは、"はじめまして"……で、よかったでしょうか。」
同じく呼び出されたのだろう、既にカーペットで一人遊びをしていたニアと僕を見比べ、その男は流暢な日本語で話し出した。
「あるいは"お久しぶりです"でもいいかもしれませんね。それとも、メリークリスマスでしょうか?」
とぼけたことを言いながら、白いシャツで背中を丸めた男はクリスマスツリーに視線をやった。
「____ともかく、Nice to see you, Near, Mello. 」
やっと答えを見つけたように、男はニヤリと笑った。ゴーストのようだ、と頭の端で子供の自分が呟いた。
「…………。」
「適当にかけてください。」
男は、まだ名乗っていない。
燃え盛る暖炉の前で、ケーキをつつきながら、反対の手で指を咥えていた。
「……もしかして……」
「はい。私がLです。」
____指についたクリームを舐めるこの男は、もしかして"I am L. " と言ったのか?
「お前……貴方が、L……?」
「ええ。意外ですか?」
驚きは顔に出ていたのかもしれない。横のニアはなにも感じていないように手元の小さなロボットを飛行させている。
「なんとなくそうだとは思ってました。」
しれっと言い放つニアの言葉に、Lも「私も貴方は気付いてるものだと思ってました、ニア」と平坦に返す。
「……少し、話をしましょう。」
Lは僕たちをもう一度観察するように眺めると、イチゴのへたをぷちっと大きな動作でちぎり取ってからゆっくりと切り出した。
「くれぐれも、ここで聞いたことは口外しないと約束してください。ロジャーにも秘密ですよ。」
「………秘密?」
「ええ。破ったらサンタクロースが来なくなります。」
いや、そうじゃない。
一体、どんな秘密を話そうとするのだ、と聞こうと思ったのだが……。聞けばわかることか、と僕は彼を見上げた。
そこからは、まるで物語を読み聞かせられているようだった。
キラ事件の全貌。
死のノート【デスノート】、死神、そして所有権と変わる人格、消える記憶、かつてキラだった者たちの顛末……どれをとってもまるで空想、夢物語……あるいは悪夢のようだった。
「…………。」
自室へ戻る道のり、談話室からベッドルームの棟へ向かうには、どうしてもニアと同じ方向を歩くことになる。階段を登って柱時計を見れば夜中の25時だった。
「………………おい。」
室内の電気がすべて落とされ、窓の外の街灯が辺りを照らすだけの薄暗い夜の廊下で、背中にふにゃりと何かがぶつかった。僕は後ろを振り返り、仕方なく声を掛けた。
「前見て歩け。」
手元の箱を見たまま、前など見ないで歩いていたであろうニアに苦言を漏らす。結局Lはあの後、僕たちに「サンタからです。」とそれぞれにプレゼントを持たせたのだった。
そんなにも嬉しかったのか。二歳年下なだけあって、やっぱり子供だ。
「………。」
「聞いてるのか、ニア。」
無言のまま答えない、そのふてぶてしさに頭に血が上るのを感じる。聞いています、聞こえています、早く続きを言えばいいじゃないですか、とでも言いたいのだろう。
「違います。「聞いてます」と答えるのは無意味だと思っただけです。」
「っ………。」
ニアとメロ。ナンバーワンとナンバーツーの二人はライバル同士であり、互いに憎み合っている__その認識は間違っているのだろう。そう思っているのは二番目に立つ自分だけかもしれないとは分かっていた。なぜなら一番目に立つニアには、前に立つものなどないのだから。今、前を見ないでいるように、ニアは周囲を見ようとしない。ニアは関心を持たない。
だから僕らは、一緒に並べて語られることはよくあったものの、決してライバルとして言葉を交わすことや、ましてやセットで行動することなどは一度もなかった。
「お前、そんな大きい箱を両手で抱えて、まさか僕にドアを開けてもらおうとしているんじゃないだろうな?」
「そうは言ってません、ドアが開かないのならドアの前でも結構です。」
ぐ、と歯を食いしばってしまう。嘘に決まってるだろ。そう言って、「分かったよ」と子供を廊下に放置する大人がいるわけがない。それをまんまと学習しやがって。嫌な奴だ。
「早く歩いてくださいメロ。私は早くこれを開けたくて仕方がないんです。」
これ、と言ったニアの手の中で、赤いリボンがくくられた四角い箱がジャラと音を立てる。大方中身は何かのおもちゃだろう。子供っぽいことこの上ない。
僕も、何やら大きな紙袋を貰った。中身は全く見えないが、チョコレートの香りが漂ってくるので、まぁ、中身は大量のチョコレートなのだろう。……正直、Lからのプレゼントが嬉しいという気持ちは分からないでもない。
薄暗い廊下を進み、その一角、突き当りの一人部屋にたどり着いた。ニアの部屋だ。振り返れば当の本人は、前を行く人物が立ち止まったから自分も立ち止まった、というだけのように、相変わらず手にもったプレゼントの箱をじーっと見つめていた。それこそ「箱の外から見たって無意味だろ」、と言いたくなったが、そんなに仲良くもないので飲み込んだ。
「……着いたぞ。今晩は開けてやるが、明日からはまた別行動だ。」
今更ながら、こうして【二人で】行動するなど、今晩が初めてだった。Lに呼び出されなければ、永久にありえなかっただろう。僕がこいつの為にドアを開けてやるなんて、ありえない。
「……………。」
__「早く歩け」って言った癖に、どうして今更きょとんとした風にこっちを見る?
「なんだよ。早く入れよ。お前がさっき急かしてきたんだろうが。」
「いえ……もしかして、さっきのLの話を忘れたんですかメロ?」
「はぁ?」
「これから私達は一緒にペアで行動する方向で実践を積むことになるんです。だったら明日も一緒です。」
あぁ、そうだった。
Lから呼び出され、事件の解決について一通りの話を詳細に聞かされた僕たちは、その最後に、「以上が事件の全貌です。ちなみに……」と、ついでに付け加えるようにさらりと言われたのだった。
__「Lの名を継ぐのはニア、メロ……二人です。」
__「仲よくやっていけそうですか?」
指を咥えながらぼんやりと、言われたのだった。それは冗談か、あるいはとぼけているようにしか聞こえなかった。Lなら僕とニアの仲が良好でないことくらい、そんな重大な決断の前に知らないわけがないだろうと思ったが、驚くことに間髪入れずに「はい仲良しです」なんて棒読みで答えたのはニアだった……そういうところがあるのもまた癪なところだ。
ちなみに「マットは?」と僕は一応、ちゃんと仲がいいナンバースリーのことも伝えたが、それについてはLは肯定でも否定でもなく、「あるいはそうかもしれませんね」なんてあっさりと言及しただけだった。
__「ですが当面は、ニアとメロ、二人にはともに行動してみてほしいんです。」
けろりと、僕たちに向き直ったLは、どうしても僕たちをペアにしたいようだった。
__「敵か味方か、ライバルか、あるいはパートナーとなるか。」
__「楽しみですね。」
そう語ったLはにやりと事件の真相に至ったような笑みを浮かべていた。その理由は僕たちには見当もつきそうにない。だが、勝手な想像はできる。キラ事件の真相を語った直後に言われたのだから、それはきっと……自身の体験のことを……即ち【彼】のことを差しているのだろう。
キラだったはずの人間と、今は相棒のような存在だと、そう言いたいのかLは?
「チッ」
「?」
「僕はニア、お前が嫌いだ。お前も僕のことが嫌いだろう。どうして【仲良しです】なんて嘘をついた。」
「嘘とは違います。」
「は?違う?」
それを言うなら、「嘘じゃありません」ではないのだろうか。微妙に含んだ言い回しだ。
「__Lならどう言うか、そう考えただけです。」
「……はっ。」
そこに返せるのは冷笑のほかにはなかった。Lならどう言うかだと?そんなの、嘘ですらない、ただの見よう見真似の擬態だ。合っているかも分からない、不器用で幼稚な子供のすることだ。ドアを開けない事といい、真似をするしか能がないところといい、こいつは一人で生きていけないんじゃないか。
「なので、メロ。あなたの荷物をロジャーに頼んで私の部屋に移動しました。」
「……はぁぁぁぁ!?!?!」
「Lならこれくらいするかと。」
「ふざけるな!」
「私だってしたくてしてる訳じゃありません。」
「………お前、少しは自分で考えたらどうなんだ。」
いまの台詞だってLのコピーじゃないか。いっそ言いたかっただけかもしれない。
「考えました。私もLに倣って手錠をするべきかと考えたのですが、嫌だったので妥協しました。」
「……お前は馬鹿なのか?」
「もうメロの元の部屋には違う子供が寝ていますし施錠済みですよ。良かったじゃないですか。メロ。嫌いな私の為じゃなく、自分の為にドアを開けたんですから。それとも廊下で寝ますか?私は構いません。好きにしてください。」
やけに饒舌なニアを置いて、僕はずかずかと部屋に入った。いっそスラングを投げつけてやりたかったが、それは負け犬のすることだ。忘れがちだが、こいつは年下なのだ。だったらいっそ、無視を決めこんで寝てやる、と思った。
「メロ」
「なんだよ。」
「靴でカーペットを踏まないでください。」
ニアは床にほとんど腹ばいになるようにして座り込んだ。僕は二段ベッドの上の段が自分のシーツに変わっていたので、まっすぐにそこへ潜り込んだ。
「メロ」
「……なんだよ。おやすみの挨拶はいらない。」
「いえ、【これからよろしくお願いします】です。」
「…………はぁ。あぁ、よろしく。」
依然としてむかむかと気に障る発言ではあったが、Lに後継者と認めてもらった今は、それに向かって手段を選ぶことは出来ないだろう。目を瞑れば、全く眠る気のないニアがじゃらりとジグソーパズルを広げるような音が下の段からして、意識は遠のいていった。
………。
朝になって。
目を覚ますなり、目の前に天井があったので、何事か思えば、そういえば部屋を移動して二段ベッドになったんだっけか、と思い当たる。同時にげんなりして、ベッドから下を見下ろせば、そこには出来上がった真っ白なジグソーパズルが堂々と床を占領していた。
真っ白な背景に、【L】と小さく書いてあるだけのパズル。
「………Lか。」
なるほどそれがニアの土産か、どれだけ大好きなんだ、と思いつつ目をこすると、「ようやく起きましたか」と、姿の見えないニアの声がした。朝から皮肉っぽい。
今から寝ようと思ったのか、それとも早々にパズルを完成させ寝て起きたのか、それは二段ベッドの下の段からの声だった。僕はなんだか癪で、「おはよう」とは言わなかった。
「Lはさっき出ていきましたよ。教会へ、あの夕陽という女性と向かったようです。」
ふうん、と思う。
Lは僕とニアを一緒に行動させたがっていたが、それはキラ事件の【彼】の影響だけでなく、彼女の影響もあるのではないか、とうっすらと興味があった。
「教会って、大聖堂のほうか?」
「知りません。」
あっそ。
とは言わず、僕は身をおこし、朝ご飯の代わりにチョコレートを一枚掴み、コートを羽織って部屋を後にした。
「………お気をつけて。」
「…………。」
興味本位だ。なんとなく二人の後をつけて様子を観察してやろう、と思ったのだった。