Last Chapter
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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◆Afterwards
「はぁ、はぁ」
すっかり遅くなってしまった。
結局あの後、講義をさぼるわけにもいかなかったので、愛蔵くんや雨宿くんとは全部のコマが終わってからカフェで話すことになった。愛蔵君の書く物語は偶然の一致とは思えないほどにあの物語にそっくりで、ほんの少しアドバイスするつもりが、途中から月君とも合流したこともあって変に白熱してしまった。新キャラのモデルとなったミサ本人も今度は連れて来ると約束までしてしまった。仮に発売されたら、ベストセラーになってしまったりして。
ということで、待ち合わせには十分余裕をもつつもりだったのに。
時間ぎりぎりになってしまった。Lはもう来てるのかな。
「L!」
その待ち合わせ場所で、私の声は驚くほど反響した。
背中を丸めながら、黒い頭が振り返った。
「時間ぴったりですね、流石です」
「ごめん、本当はもっと早く着くつもりだったんだけど」
今朝、突然Lから19時に待ち合わせたいと言われた。同じ屋根の下でどうせ会うはずなのに何故と思いながら「はぁ、別に構いませんけれど」と曖昧な返事をして大学に行くと、あとからメールでここの住所が送られてきたのだった。私は調べることもせず、大学の門の前で捕まえたタクシーの運転手さんにそれを見せて、連れてこられるがままに車を降りた。
降り立ったのは、都内の大きなホテルのロビーだった。もう一度メールの文面を見ると、住所は屋上を指し示していた。フロントで恐る恐る竜崎という名前を伝えると、案の定、アテンド付きでエレベーターに乗せられたのだった。
それがこんな場所だったなんて、予想すらしなかった。
石造りの、いつか見たウィンチェスター大聖堂をそのまま小さくしたような、荘厳なチャペルが夜空を背景にして聳え立っていた。星空を抜けるように扉を開けた先で、無数のキャンドルが揺れていた。
「それにしても、わざわざ待ち合わせるなんて珍しいね」
Lって教会とか好きだよね、と、ウィンチェスターでのことを思い出しながら私は世間話のように言う。
「ええ、たまにはこういうのもいいでしょう」
Lは指を咥えて、どこともなくぼんやりと周囲を見渡した。蝋燭が灯り、花の香りが漂っている。ウィンチェスター大聖堂と違うのは、そこが神聖というよりも、不思議と緊張する空間であることだった。何故、緊張するかは、言うまでもない。
「ここ、今日の昼に装飾品の搬入が終わって、明日オープンするんだそうです。早速、結婚式の予約で一杯らしいですよ」
「あ、あはは……まぁ、そうだろうね」
どう考えても、そういう用途に作られたチャペルだからだ。気まずさを隠し切れないまま、私は笑って誤魔化す。
高級ホテルの屋上の純白のチャペル……文字通りでしかないのに照れくさいシチュエーションは、結婚式以外に何の用途があるというのでしょう。ましてや日常的に祈りを捧げる文化からは程遠い、日本の、東京で。
「…………」
こんなところで待ち合わせた上に、L、はなんだかいつもと様子が違う。
静かだな、と思った。
思考に集中して喋らないことは日常茶飯事だけれど、今夜のLはそれとも違う。言葉にできない違和感を感じる。なんだかこれから、とんでもないことを言うんじゃないかと勘ぐりたくなる。
「……ならこんなに静かなのも今のうちだね。何か祈ってみようかな」
私はLの隣に座って、目を閉じてみた。
夜空に浮かんだような独りぼっちのチャペルには、ただ静寂があった。
Lも、隣で何かを願っていたり、するのだろうか。
今がいつで、この世界がどこに浮かんでいるのかもわからなくなるような静けさの中で――がさりと音がして、
「夕陽」
誰かが私の名前を呼んだ。
「っ――」
目を開けて、私は息を呑んだ。
「Lっ?」
Lが、ステンドグラスと祭壇を背にして、私と向き合って――そして跪いていた。何を……何をするつもり?
「一般的なそれとは形が違うかもしれません、それでも一生を共にすると誓いを立てることはできます」
しんと響く声。
月明かりを透かしたステンドグラスの光が、彼の髪と、白いシャツを青く染めている。
「本当はウィンチェスターで言うつもりでしたが……夕陽」
もう一度、Lは私の名前を呼んだ。
夕陽
あの日、夕陽の差す窓を見て、Lが考えくれたその名前は。
何も持たなかった私が貰った、初めてで、唯一の宝物。
Lが言ってくれるときは、どんな言葉よりも特別な響きをもって輝く、何よりも嬉しい言葉だと、心ごと綻んだ瞬間――
「結婚してください」
誰が――予想しただろう。
一体、誰が予想しただろう。
視界の端に、無数のキャンドルが煌めく。
その中心で、黒い瞳がまっすぐに、精悍に、こちらを見上げていた。静寂が、二人の間に漂っている。
「L……」
どこかに行ってしまうと思っていた、その瞳が。
いつかは消えてしまうと恐れていた、その炎が。
歪みなく、
純粋に、
笑ってしまうくらいまっすぐに。
悲しくなってしまうくらい、その心の全てで――私を見上げていた。
私は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「――私は、夕陽って名前をくれて、隣にいてくれて、それだけで幸せで、そんな日が続いてくれれば、それでよかった」
どうしてだろう、視界が霞んで、頬を涙が伝って落ちた。
「すべてで貴方を守ると、誓った。でも……それ以外は、何も持たない、人間ですらなかった。嘘つきで、偽物で、欠けていて、空っぽで……そして、貴方はLだから」
愛すことはできたとしても、
選ぶことはできなくて、
守ることはできたとしても、
誓うことはできなくて、
「違う世界の……存在だと思っていた。いつでも、いつでも……」
願うときも、守るときも、
どれほど隣にいたとしても、
ひとつには――なれないのだと思っていた。
Lは優しく微笑んで、小さく頷いた。
「貴方と私は違うものです。ですが、例え世界が違っていて、この先何が変わったとしても、私は……夕陽のことを、死ぬまで愛したい」
「……L」
誰が――予想しただろう。
一体、誰が予想しただろう。
世界の切り札、Lが――
まさか本当に、何も持たない少女を好きだったなんて。
「――わ、私も」
世界が変わっても。
世界が違っても。
物語が変わっても。
物語が違っても。
「私も一生、死ぬまで、ずっと、貴方を愛していたい。だから」
はい――と私は答えた。
私の答えを受けて、ようやくLはいつものように不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。そうして迷いなく隣のスペースに飛び上がってくる。少しだけ距離が近くて、体温が間近に感じられた。寄り添うように、私達は前を見ていた。
「……そう言ってくれると、思っていました」
「あのね、L」
泣きそうに笑うことも、折れそうに咲くことも、貴方は誇らしく、恋しいと言ってくれた。
「これ以上のハッピーエンド、そうそうないよ」
指を咥えて、Lは驚いたように目を丸くした。
「ハッピーエンドはいいですが、終わってしまっては困ります。貴方にはまだスイーツ係でいて欲しいですし、早く月君とテニスのリベンジマッチをしたいですし、ニアやメロもすぐに大きくなるでしょうし……楽しいのはきっと、この先もです」
「……えへへ、そっか。そうだね。きっと、そうだ」
私達は少しだけ笑いあうと、キャンドルを二本、灯した。小さいのに暖かい灯火は、Lの眼差しによく似ている。足元を照らすので精一杯だった日々の中で、貴方の瞳がどれだけ力をくれたことか。揺れるオレンジの炎を見つめながら、Lは言った。
「……いつか貴方に、幸せになれそうかと聞かれたことがありますが、こう答えるべきでした」
怪しい人物だからと監視された日々も、命を救おうと守護者であり続けた日々も、置いて行かないでと泣いた日も、嘘をついた報いを覚悟した瞬間も、すべてがこの瞬間のためにあったのかもしれない。
謎が解けても、
魔法が解けても、
夢から醒めても、
物語が終わっても、
「夕陽、二人で幸せになりましょう」
貴方の幸せを願う気持ちは、一生変わらないと誓います。
◇ ◇
「そんなところで何してるんだ、竜崎」
「鐘の音が……」
「鐘の音がするのは当たり前だろ。ぼうっとしてないで早く……なんだよ、近い」
「いえ、月君は夕陽のことがまだ好きなのでしょう。私を止めようとは思わないんですか? 確か、以前、告白も未遂に――」
「いいから行け。あまり彼女を待たせるな」
鐘の音が響く。
青空を背景に、遠く、もう一つの世界にも響くように、透き通る。
これは終わりを迎えても、続く物語。
その後の世界を、私達は生きていく。
―Afterwards Never Ends―