Chapter 1
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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車内に無理やり押し込まれ、そこにいたのは、イギリスのワイミーズハウスで出会った二人の少年、ニアとメロだった。
「……ど、どうしてっ」
二人に向かって声を掛けようとした瞬間だった。
「っ空!」
____!
唐突に、誰かが飛び出してきた。
それは車内にいたもう一人の人物__フードを目深にかぶり、ずっと眠ったように俯いていたはずの人物に、私は飛びかかられ、抱きしめられた。
「………っ?!?!」
訳が分からない。一体誰だ?華奢でふわりとした力の具合は、女性のようだ。それこそ自分と同じくらいの体格の……。しかし、私に抱き着いてくる人物など、ミサ以外には思いつかず、そして彼女はいま映画のロケで地方へいっているはずで……
「あぁ……本当に生きてる。ちゃんと元気そうだし……よかった……!」
少女は私に構わずしみじみと言う。そもそもニアやメロと一緒になって私を脅したのだとしたら、どうして解放された人質の無事に喜ぶようなことを言うのだろう?普通に犯罪だよね?
私はぐるぐると考えるも何も言えず、されるがままにフードの少女に力いっぱい抱きしめられていた。
「だ、だれ」
ようやく口から出た言葉はそれだけだった。
「あ、あはは!ごめんね、何も分からないんだったね。」
焦ったようにぱっと私を解放し、フードから綺麗に笑う口元だけがちらりと覗いた。はーっとメロがわざとらしくため息をつく。
「………夕陽」
「あはは、ごめんつい、嬉しくて……。」
さっきまでの冷たい視線とはまた別の、呆れたような視線でメロにじとりと睨まれて、フードをかぶった少女は「あはは」と軽く笑った。なんだか仲がよさそうだった。
__あれ、【夕陽】?
__それにこの笑い声の感じもどこかで……。
「あの、貴方は、【夕陽】……?」
私は何かを確かめようと、夕陽とよばれた少女のフードを覗き込む。私が興味を持ったことをうけて、彼女は嬉しそうに再び笑顔を浮かべた。顔はまだ見えない。
「うん、そうだよ。やっと会えたね、空。……私の親友。命の恩人。」
改めて聞くとそれは聞き覚えのある声で、自分がしゃべったのかと勘違いするような声だった。彼女は笑みを浮かべたまま、ぼうっと戸惑い、意識をふらつかせたままでいる私に顔を近づけた。
「ところで__空、最近、ちょっとLや月君に遠慮してるでしょ?」
「………。」
急に方向転換した話題に、私はこくこく、と素直に頷く。突然だったこともあるが、不思議と気圧されて、そうせざるを得なかった。
「……そっか。」
夕陽はふぅと、肩の力を抜き、私から離れた。
「でも、Lは優しい。貴方が遠慮がちでも無理に何かを言ってきたりはしない……そんな感じ?」
こくこく、と私はもう一度頷く。
さっき手を差し伸べられた時も、イギリスに滞在していた間も、そうだった。Lは距離を縮めようとして、私は焦ったり遠慮したりして、一歩引くの繰り返しだった。それでも、Lは毎回「そうですか」と何も聞いてこないのだった。
フードからのぞく口元が、すぅと息を吸ったようだった。
「……どうかな………五カ月間一緒に居て、Lのこと__好きになった?」
「………。」
私は、すぐには、答えない。
でも見ていたかのように核心ばかりついてくる夕陽に対して。夢で見たように懐かしさを感じるその声に対して、私は冷静になれず、だから恥ずかしがることも嘘をつくこともできなかった。
「……もともと、好きだったけど……」
「………うん。」
フードの中で、彼女は少しだけ躊躇うように私の言葉の続きを促した。
「………それで?」
「でも……でも、ずっと思ってた。私は、たぶん。Lの好きな人じゃないって。」
「……だから、遠慮してたの?」
私は首を振った。
「好き……好きだった……夢で見た通りの日々が目の前にあって、それは嬉しかったけれど、そこに戻るべきは、私じゃない気がした……私自身は、好きといってもほとんど憧れみたいなもので……だから、自分じゃない誰かを待っているLに、優しいLに甘えたくなくて……欺きたくなくて、距離を置いていたんです。」
素直な想いを口にして、胸が苦しくなる。夕陽はもう一度私を抱き寄せた。
「あはは、五カ月間、待ってみたけれど、そうだよね。貴方は優しいから……そうなっちゃうか。」
「ひとつだけ、聞いていいですか?」
「うん」
「夢でずっとLと一緒に居た夕陽は、貴方なの?」
「……うん、そうだよ。」
「じゃあ私は?」
「貴方は、空。私の友達。そして、Lを助けたいと初めに願った子。」
__………。
「……そっか、別人だったんだ、やっぱり、私達。」
何かを考えることはできない。口から出たのは答えの反復だけだった。でも、不思議と納得した。別人なのだから、違和感を感じていたのだ。私が見ていた夢は彼女のもので、やっぱり、成り代わることは出来ない、普通のことで、正しかった。
「あの、だったら、Lのところに戻るべきは……」
「あ、そうそう!その話なんだけれどっ」
「おい、早く行け、夕陽。いい加減、Lが怪しむ。」
__Lのもとに戻るべきは貴方なんじゃないかな?
なーんて、しんみりした気持ちで神妙に提案するつもりが、底抜けに明るい声で「あ、そうそう!」などと言われてしまった挙句、メロに遮られる始末だった。
「………む、いいこと言おうと思ったのに……」
思わず考えが口に出た。私の横で、夕陽がうーんとのびのび、まるで緊張感がない様子で伸びをした。
「うーん……それにしても今日が入学式でよかった!みんな新入生はスーツだもんね。擬態するにしても、服を選ぶのが楽でいいね!」
「ぎ、擬態?」
「うん。私の本業であり得意分野であり……というのはハッタリすぎかな。あはは。」
彼女は言いながら、ぱさりと、苦しいものから逃れるようにコートを脱ぐ。フードが背中に落ち、彼女の容貌が露わになった。
__!
私は、何も言えない。
「ふう、熱かった。」
「……。」
上気した彼女の顔は。
驚く私に、重ねるように「あはは」と愉快に笑う姿は。
「お、同じ……?」
思わず口に出してしまう私に、
「うん、だって私は貴方の姿を擬態した存在だからね。でも大丈夫、本物は貴方だよ、空。」
と、再び底抜けに明るく、事も無げに夕陽はさらりと言った。そして私と全く同じ黒スーツ姿でドアを開ける。
「ここまでありがとうメロ、ニア。ちょっと行ってきます!……空、すぐにまた会おうね!」
「え、ま、待って!」
引き留めるのもむなしく、ひらりと見えない羽で飛び立つように車を後にしたその後姿は。
__彼女は一体……?
「驚く気持ちは分かりますが、貴方に選択肢はありませんよ、空。」
「空、お前は俺達と来るんだ。」
呆然と閉まったドアの向こうを眺める私に、左右からニアとメロが語り掛けてくる。なんだか引き続き脅しているような口調だったけれど、頭に入ってこない。
「………………………………。」
「おい、いつまで呆けてるんだよ。」
「…………………………………。」
「一応言っておきますが、状況はもう分かりますよね?瓜二つ__いえ、同じ外見をもつ夕陽が今、貴方と入れ替わって、Lのもとに戻ってます。」
「…………………………………。」
「うるせぇ」
「わ、私黙ってたよね今?!」
「突っ込みはするのかよ。」
まぁ、それでも。
理由はともかく、状況だけなら理解できた。要するに夕陽はずっとLと一緒に居たあの夢の中の人物と同じで、自分と同じ外見で、だからLも自分も、気付かなかったのだ。気づかなかったのか、同じだと思い込もうとしていたのか。
「Lの所には今の子……夕陽が戻った。そして私は、貴方たちに脅されてこのままどこかに拉致されるところという訳ですね。」
そして彼女はいま、__「またすぐ会おう」「ちょっとだけ行ってくる」と気軽そうに言いつつも、私と同じ服を着て、何もなかったように私のフリをしてLのもとに戻っているという訳だ。
「意外と理解が早いようで助かりました。」
「………そうだな。ヘタに抵抗されてこんな白昼堂々、銃を撃つわけにもいかないしな。」
「その銃は私の玩具箱から勝手に持って行ったレプリカでしょう。撃っても問題ないのでは?」
「うるせー。玩具箱なんて言うくらいならおもちゃ箱って言えよ。ウルトラマンとか一緒に入ってたぞ。」
「うるさいです。」
「はぁ?」
私を置いてけぼりに口論をするニアとメロ。
ワイミーズハウスで二人にあった時は、こうも直接言い合いをするような関係には思えなかった。ただ、互いを強く意識していて、それでいて決して好ましくは思っていないような……なんとなく外側からは安易に踏み込めないような関係性に思えた。
「……………………………。」
「メロと同じことを言うのは癪ですが、それ、うるさいです。」
「じゃあどう黙ったらいいんですか!」
「はぁ?お前頭大丈夫か?」
咄嗟に出てしまった軽口に、生真面目にメロが呆れる。ニアは無視だった。
「夕陽と空……別人のはずなのに、無駄口叩くところは一緒ですね。」
私は窓の外を見た。向かい側の学生カフェが見えるが、夕陽と呼ばれた彼女の姿も、Lと月君の様子も見えなかった。
「__わっ」
「シートベルト、した方がいいですよ。」
カフェの中が見えないどころか、車はゆっくりとエンジンをふかし、発進した。パジャマ姿のニアはかちりとシートベルトをしめ、しっかりと両足を下ろして座る。走りだしてしまった車に、もはや逃げ出すことができない私は、窓の外から遠くなっていくキャンパスを眺める事しかできなかった。
「あーあ……私、入学したばかりだし、新入生資料もまだ、受け取ってないのに……。」
「夕陽は貴方の手荷物もちゃっかり持って行ったようですので、数日間は放っておいて大丈夫でしょう。」
「でも、入学試験を受けて合格したのは私なのに……。」
「それについてはフォローしません。」
「夕陽……大学の授業ついて行けるのかな?」
「普通に無理なんじゃないですか。彼女、世界中のありとあらゆる言語を話せる以外は馬鹿でしたから。」
褒めているのかけなしているのか分からない。どちらにせよ、ニアにとっては東応大生も言語万能も大した能力のうちに入らないのだろう。それにしても……
「一体、どうして__」
言いかけたところで車がぐいんとカーブする遠心力に、私はニアの左肩に持たれる。
「にっ」
ニアが鳴き声のように小さく声を上げた。華奢で、女の子みたいだった。
「ご、ごめんねっ」
「……まずはシートベルトをしめてください。」
「はい。閉めました。」
「……よくできました。」
子ども扱いしてくるニアに、私はさっきの猫の鳴き声のような声について一言言おうかと一瞬迷ったが、それには触れずに現状についての質問をすることした。
「あの、ニア、メロ……脅してまで作ったこの状況……私、これからどうなるんですか?何が起きてるんですか?」
「空」
いつのまにか運転席に移動していたメロが私を呼んだ。
「……選択肢がないと脅しはしたが、俺たちはお前を必要としている。経緯くらいは説明してやるよ。」
そしてメロは、ひとりの翼のある少女と出会った日のことを____
夕陽と行き遭った日のことを__語りだしたのだった。
「お前とLが、大聖堂に行った日のことだ。」