Last Chapter
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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◆Afterwards Last Chapter
-旅立ち-
「結局、持ち帰る成果はゼロか」
窓の外を見ながら、つまらなそうにメロが言った。
翼の真横に位置しているこの席は、見るたびに自分が空の上にいるのだと思い出させられる。指人形で遊んでいたニアが「またその話ですか」と、同じくつまらなそうに答えた。
「どうしようもないことです。実際に解決に関わったはずの私達ですら、『犯人を追い詰める作戦の一端を担ったことは確かだが、事件の記録は一切残せない』という一文の記載しか後の自分たちに遺していなかった訳ですから、仕方がありません。そもそも記憶を無くしてしまった理由すら不明なのですし」
それに、とニアの手元でプラスチックの飛行機が飛ぶ。
「私達の戻る先は変わらずワイミーズハウスですが、Lは自らの仕事を一部、私達に任せてくれると言ってくれました。記録が残らなくとも、日本から持ち帰るには十分な成果でしょう」
「うるせー、それくらい十分に分かってることだ」
パキリ。メロがチョコレートを齧る。
「メロこそパキパキ煩いです。静かに食べることを覚えてください」
「あぁ?」
あまり両脇で言い争いをしないで欲しい。
「ニア、メロ、二人ともさ、どっちか席変わろうか?」
「いらない」「結構です」
…………。
こういう時だけ息が合っている。いや、以前の二人を思えば、息が合っているだけましなのかもしれないけれど。
「長いようで、たったの一か月だったね。こうやって海外に旅立つことになるとは、思いもしなかったな……始まりはただの誘拐事件だったけれど」
「あれはメロが言い出したことです」
「あ? 銃のおもちゃで脅す案はお前のだろ」
結局、私はノートの所有権の受け渡しをしてもほとんどの記憶を無くさずに済んだ。明確な理由は分からないけれど、憶測するに、私の持っている《死神やデスノートの記憶》は、ノートのそのものから得たものじゃなく、大昔に物語の中のものとして知った事実だからだろうと思う。同じように、元々が死神だった夕陽もまた、一連の記憶は無くさなかったようだ。私達はあの後二人で話して、互いに《忘れたフリ》をすることにした。
そして、二人で決めたことはもう一つある。
「空は、そろそろ名前決めたのか?」
「んー、そうだなぁ。ニアやメロのようなコードネームか……」
「ただの記号のようなものです。じっくりと考える必要はありません」
Lの仕事を一部とはいえ引き受けるにあたって、ニアやメロにもワタリの役目が必要となる。とは言っても本物のワタリさんはまだまだLとの仕事で手一杯……そういう訳で、私はワイミーズハウスの手伝いをしながらワタリさんの見習いをすることになったのだった。
「……うん決めた!私は、ロジャーさんに決めてもらうことにする」
照れくささを無視してやけっぱちに私は言った。ニアとメロは、二人で同じように目を丸くした。やっぱり息が合いつつある。
「……なんだよ、適当かよ」
「適当、というか――」
この世界は、私の知る世界じゃない。
すべては変わった。
あるいは願いによって、あるいは正義によって。
あるいは忘却と空白と約束によって。
世界はもう物語ではないし、結末なんて見えない。
そこに名前はなく、ストーリーもない。
ただ、皆がいて――私は生きている。
今ここに、存在しているだけだ。
ならば私もきっと、ただ【ここにいる自分】を生きていくだけだと――そう思った。
だから私は、透間空という存在も、大学の籍も、すべて夕陽に譲ることにした。代わりに私は、無名の存在となった。入れ替わった時のように私が夕陽と名乗っても良かったけれど、あの名前はLが彼女のために考えた名前だ。
今の私は、ただ、Lに憧れてニアとメロを追いかけるだけの、何者でもない【私】でしかない。
だから正直なところ、どう名乗るかについて、全く考えられなかった。考えられないというよりも、どうでもよかったのかもしれない。いまの私にとって、名前というのは、本当の意味で記号でしかないのだろう、だから――。
「まぁ、似合うものをもらえれば、それで私には十分かなって」
それは、本当に適当な返答だったのかもしれないけれど。
それでも心に違和感はなく、しっくりとくる心地。これが正解なのだと、はっきりと分かる。
「ふうん、やはりそうですか」
「やっぱりって……分かってたの?」
「貴方ほど無鉄砲で衝動的な人間が、名前に縛られるような繊細なタイプではないことくらいは、私にも分かります」
「むむ……いいこと言われたような、単純ですねって皮肉られたような……」
「いや、お前は単純だよ」
ばっさりと言い切るメロに、私は非難の視線を向ける。
「ほらな、そうやってすぐ顔を膨らませる」
「こ、これはっ」
「それに、いきなり引き留めて『好きだった』とか、単純じゃなきゃ普通は言わない」
「ああああぁっ、うわぁっ」
「うるさいです、ジェーンドゥー」
っていうかジェーンドゥーって、身元不明死体を呼ぶときの仮称じゃないか。勝手に名前を付けないでほしい、しかも死体呼ばわり。身元不明なのは否定できないけれど。
「ヘルメットの通信機越しに私も聞いていましたが、『好きだった』というのはどういうことでしょう。貴方は昔からメロを知っていたということですか」
「あ、あれは……」
そうだった。
もう一つの結末――もとい、デスノートに紐づく記憶が消えた今、二人には矛盾しか残らない。どう誤魔化せば――いや、むしろとぼけてみるか――?
「あー、えーと、昔の知り合いと間違えちゃった……みたいな?あはは」
苦し紛れの嘘。
大事な気持ちに変わりないし、こんな風に誤魔化すべきではないけれど、それでも、こうするしかない。
デスノートに紐づく記憶を隠さなくちゃならないことはもちろん、何故ならあの気持ちは、だって、過去のものだからだ。
物語の中の、メロに対して抱いていた気持ちだ。
私はまだ、この世界のメロを、あるいはニアのことも、まだよく知らない。知らないし、ちゃんと知りたい。
私たちはこれから友達になるかもしれない。いつか本当に「好き」と思う日が来るのかもしれない。でも【それ】はきっと、もう少し先、先の見えない未来に起きるべきことだ。だから――。
「あれは勘違いだったの!忘れて……!」
「ふん」
苦しい言い訳に関して何かを突っ込むでもなく、隣でメロがん、と音を立てて頬杖をついた。急に不機嫌になったようだ。……え、不機嫌?
「どうしたんですか、メロ、もしかして」
「あぁ?」
じろりと睨まれる。
いや、煽ったのはニアなのだから、そっちを見てほしいのだけれど……とはいえ、悪いのは私だ。勢いで告白まがいのことをしてしまった罪は消えない。チョコレート100枚で償えるといいのだけれど――苦しい言い訳は続く。
「とにかく、メロは、ニアも! ふ、二人は……そういうのじゃなくて、仲間だよ。まだライバルと言うには遠すぎるけれど」
「ふーん、ライバルですか」
犯人の尻尾を掴んだように、ニアは口角を吊り上げた。
「いや、ライバルとか言っても、決してそういう意味じゃ……」
「なるほど。ええ、貴方は初めからそのつもりだろうと思っていました」
「えへへ、つもりって何のことかな……?」
「それでは貴方は、メロや私のチョコレート係やおもちゃ係となるために、わざわざイギリスへ旅立つのですか?」
「…………」
ぐぅ。そう言われて「うん、そうだよ」と即答できない自分に気がつく。笑って誤魔化すこともできない、メロの言うところの《単純》な私には、やっぱり隠し切れない。遅いかもしれないと分かりながらも、それでもLに憧れて、それを追いかけたいという気持ちを……。
「二人に追いつけるかは分からないけれど……でもせめて、が、頑張らせて」
「ええ」
Lのように涼しい顔で言うと、ニアは身を乗り出してメロに飛行機のオモチャを突き出した。
「そういうことですよ、メロ。彼女に追い越されないといいですね」
「……言ってろ」
ニアとメロもまた目指すものを追いかけて遠い存在になっていく。二人は、大人になっていく。きっといつまでも、遠く、手の届かないように思える途方もない空のような存在を追いかけ続ける。
だから、同じなんだ。
生まれも、育ちも全く違うけれど、それでも、同じものを追いかけている。
L――そういえば。
今頃日本で、夕陽とLはどうしているのだろう。