Last Chapter
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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◆Afterwards Last Chapter
-たった一つの答え-
「あはは……はは」
――僕が貴方を守る。
その言葉を聞いて突然笑いだした月君は、暫く肩を揺らし続けた。真剣に言葉を紡いだはずの桜葉愛蔵は、おかしくてたまらないように、ひたすら笑う月君を見て、
「……何が可笑しい」
と重々しく問い返した。
「あぁ、ごめん」
月君はいつものように肩を竦める。
「ただ、君があまりにも同じようなことを言うから」
「同じ?誰とだ?」
「あれ、君はさっき全部知っている、って言っていたじゃないか。……分からないのか?」
何かを確信したように目を細めた月君に、桜葉愛蔵は何も答えず、ただ気まずそうに眼鏡を正す。
「そうか……やっぱり、彼女のことは知らないんだな」
「……彼女?」
今度は桜葉愛蔵が訝しむように眉間にしわを寄せた。
「愛蔵。君はすべてを知っていると言っていたが、ひとつ気になったんだ。さっきこう言っただろう、《本来、Lは死ぬはずだった》――つまり、Lが生きていて、キラが裁きをしていないこの現状は、君の知っている世界の姿からかけ離れている」
「…………」
「それに、君が本当に全てを知っているのなら、ここまで回りくどい事件で僕を呼び出すような真似をしなくとも、僕と話をする手段くらいは見つけられたはずだ。この現状……いや、世界においては、君は何も知らないに等しい」
「…………」
沈黙ののち、桜葉愛蔵はキラ、と呟いた。
直後に「いや、夜神月」と訂正して。
「……貴方は、こうなるべきではなかった。何かがこの世界を、そして貴方を変えたとしか思えない――まさか!」
愛蔵は声を上げる。神経質そうに髪を乱して、視線を彷徨わせた。
「さっきの《彼女》が物語を変えたというのか? 僕が、僕が――触れてはいけないと傍観に徹していた間に――」
「そうだ。彼女がいたから、今の僕がある」
「……貴方は、新世界の神になるという信念を捨て置いて、その《彼女》に説得されたとでも?」
「いや、キラの正義がこの世界に相応しくないと考えたのは紛れもなく僕自身だ。けれど、それよりずっと前から彼女は『この世界にノートはいらない、僕自身の正義があればいい』と、キラではなく、僕自身――夜神月に声を掛け続けてくれていた」
月君は穏やかに言った。大体一年前、桜の咲いていた時期だった――と遠くを見るように目を細める。
「君の言葉を聞いて確信した。彼女がいなかったら、僕は今頃、Lを殺して今でもキラとして……あるいはLを名乗っていたかもしれないな……」
「ぼ、僕の知る貴方は……」
「愛蔵、良かったら教えて欲しい」
月君は手を伸べ、彼を立たせる。
「君の知っている、本来の僕というのは、一体どんな人間なんだ。教えてくれたら、僕も話すよ。君の知らない《彼女》のいる、この世界のキラ事件のことを……そうすればきっと、僕がキラを選ばなかった理由も分かってもらえるはずだ」
暫く呆気にとられたように月君を見つめて、桜葉愛蔵は諦めたように力なく笑った。
「……分かったよ。全部話すよ。僕の知っている、もう一人の貴方の物語を」
それから長い間、二人は話し続けた。
互いに耳を傾け、訝しむことも疑うこともせず、二人は話し続けた。
桜葉愛蔵が語るキラ事件。夜神月はLを殺し、数年間にわたってキラであり続ける。Lの後継者であるニアやメロとも敵対するが、最後は死神にその名をノートに記され、命を落とす、そんな物語。
一方、夜神月が語るキラ事件。そこには一人の少女の存在があり、夜神月の周囲の人間は誰一人として死なずに、記憶とともにノートとキラがこの世界を去る、そんな物語。
どちらが正しく、どちらが間違っているということもない、ただ、願いと選択が違うだけの二つの世界。
「新世界を作るのではなく、この世界を守りたい。それが誇りであり、償いでもある。偽りなんてない。紛れもなく、僕の正義だ」
「……この世界を守るのが正義、か」
力が抜けてしまったように、桜葉愛蔵は月君を見上げた。大きな眼鏡を正して、大きくため息をついた。
「もう一度聞くけれど、キラはもう復活しないのか? 返事は、断固としてノーなのかな」
「あぁ、断る」
「あーあ……あはは」
桜葉愛蔵はがっりと項垂れて、乾いた笑みを漏らす。
「こんなにばっさり断られたのに、僕は今、不思議と胸がすくような心地だ。貴方の言葉で、それが貴方の選んだ未来なんだって言われたら、折れるしかないじゃないか」
「どういう意味だ?」
目を閉じて呼吸を一つ。
彼は目を開けると、月君に向き直った。
「僕はどうやら、ただ貴方のことが好きだっただけらしい」
「っ」
「あるいは憧れだ。途方もない、触れられずとも、同じ世界にいられるだけで奇跡のような……憧れだよ。貴方が幸せそうで、安心した。愚かながら今、気付いたよ。まるで、貴方の話に出てくる《彼女》のようだな」
少女がLの幸せを願ったように。
桜葉愛蔵も、夜神月の幸せを願っていた。
「キラはLに打ち負かされたんだと思っていたんだ。負けたまま、仕方なく、死んだように生きているんじゃないかと……だったら力になりたいと思った。今度こそ新世界を作る手助けをするべきだと思った。でも、貴方にとってこの世界が守るべき大切なものだったというのなら――」
「そうだ、だから愛蔵――」
「でも、本当にそう言い切れるのか?」
桜葉愛蔵はゆらりと口角を吊り上げる。ごそごそと胸ポケットから取り出したのは、四つに折りたたまれた紙片と、小さなペンだった。半ば強引に月君にそれらを手渡す。
――デスノートの紙片。
「それでもLの存在は、貴方にとって特別なはずだ。もう無理にキラの復活は願わない。でも、貴方が望むなら――僕はLの本名を今すぐ教える」
「……Lの本名を」
その時。
「――その必要はありません」
凛と響くように、別の声が聞こえた。
「月君はもう、私の名前を知っています。」
信頼できる相棒ですから――とにやりと口角を吊り上げて、背中を丸めて立つのは、白いシャツに洗いざらしのジーンズを着た、
「竜崎……っ」
「Lです」
「なっ……何故ここに」
「当然です。これは私と月君の共同作戦ですから」
「な、何故だ。だってキラ事件は……」
「ええ、確かにキラ事件は夜神月がノートの所有権と記憶を手放すことを条件に終わりました。ですがあの日、私は確かにキラに勝利し、同時にキラは私の正義を認めてくれた。記憶が戻ったからと協力し合わない理由はありません」
こともなげに言うと、Lは目を見開く桜葉愛蔵の隣のスペースに飛び乗るようにして座る。
「流石に月君が「記憶が戻ったから桜葉愛蔵とコンタクトを取る」なんて言い出した時には驚きましたが、私は一切疑わず、むしろ自分の本名を教えました。信頼の証ですね」
「嘘つけ。前に入学式で『私はLです』と名乗った時のように僕を牽制したんだろう」
「…………」
「どうせ自分が死んだら直ちに僕や海砂が拘束されるように指示してたんじゃないのか?」
「……………………流石です、月君」
「白々しいな。夕陽に怒られろ」
……。
いえ、タイミングがなかっただけで、もう十分、怒ってますけれど――どうして皆こう、やたらと命がけなのですかと小一時間問い詰めたいところです。でも、月君がLの命がけの行動を心配しているのは分かるので、私からは言わないでおきましょう。
終わりです、とLは言った。
「ここまでの会話が証拠になります。桜葉愛蔵。偽キラとして、貴方の身柄を確保します」
その言葉を合図にして、物陰から次々と人影が現れる。私服やスーツを着た、大柄な人間がそこかしこから。中には既に拳銃を用手で携えている者もいた――捜査官たちだった。
私も、松田さんや夜神さんたちと一緒に姿を現す。
イヤホンもモニターも必要ない場所へ。
もう、桜葉愛蔵は逃げられない。彼は私達の姿を目を丸くして見回すと、映画のワンシーンのようにのったりと両手を挙げた。
「この人たち、ずっと隠れてたの? まったく気づかなかったよ。鈍いのかな、僕」
「捜査官たちは講義棟の内部に待機させていました。キャンパスごと封鎖していますから」
「……あはは、どうりで講義時間を過ぎても人気がないと思ったら……流石はLだ。スケールが違うね。今更逃げる気もないけれど、でもどうやって僕が偽キラだと証明するのかな。今までの僕の発言が作り話かもしれない可能性までは否定できないんじゃないのかな」
「問題ありません」
ちらりとこちらを見たLと、目が合う。私は無意識に頷く。けれど、夜神さんたちも同じように力強く頷いていた。
「貴方が死神と一緒に行動していることが証拠になります」
「な……」
明らかな狼狽が見て取れた。
それは焦りと言うよりも、全く予想外の虚を突かれたような表情だった。何故――と言いたそうに見えたけれど、下手なことは言えないと思ったのか、そのまま口をつぐむ桜葉愛蔵だった。すると、向かいの並木の駐輪場から一人の少年が現れた。
肩で切りそろえられた金髪。
メロだった。
次いで、その背後に付き従うように、白く大きい包帯の身体が現れた。
「よくやりました、メロ……ニア」
得意げにメロの頭を撫でるLの隣に、いつの間にかもう一人、白い少年が立っていた。恨めしそうにメロをじとりと睨んで、髪の毛を指でくるくるといじっている。ニアだ。そしてその脇には、私と同じ顔をした――けれど、どことなく雰囲気が変わったように見える少女が立っていた。彼女は私と目を合わせると、微かに口の端を持ち上げた。
「あ、あ、あれがっ――」
誰ともなく、戸惑いを露わにした声が聞こえた。周囲の捜査官たちの視線は一様に一点を見つめていた。それは宙に浮かんだ白い包帯の塊のような巨躯だった。誰もが呆気にとられるか、恐れを露わにするか、あるいは警戒しながらそれを見つめていた。
皆、死神の姿が見えているのだ。その様子に、桜葉愛蔵も気づいたらしい。
「皆、何を見ているんだい? まさか、死神?」
「ええ、死神です。ここにいる捜査官は全員、デスノートの紙片に触れています」
「…………」
「そして死神の姿は、その死神がもともと所有していたノートに触れなければ見ることが出来ない。貴方が先ほど殺しを計画したと自白した、《交番のおまわりさん》の自宅から発見されたノートの紙片です。そして私の信頼できる仲間たちが、死神をここに連れ出してきてくれました」
ニアとメロと、空の共同作戦。
二日前に彼らから持ち掛けられた《死神を呼び出す手段を見つけた》という話が、今回の包囲網を実施する直接的なきっかけとなった。
「そして、月君が『ノートの所有権を取り戻した』と私に打ち明けてきたのも、ほぼ同時のことでした。作戦を決行しない理由など、あるはずもありません」
そして、リュークも――私に、その時、ひとつの報せをもって降りてきた。それは、私達全員に関わるもの。
月君、L、ニア、メロ、そしてかつての捜査本部の捜査官たち。
文字通り、これは全員で作り上げた、最後の包囲網だった。
「……アーマ」
静かではっきりとした声が、死神のものと思しき名を呼んだ。メロの背後で申し訳なさそうに項垂れていた白い存在はびくりと震えると、ゆっくりと桜葉愛蔵の元へと寄って行った。
「ここまでみたいだな、もう終わりにしよう」
『愛蔵……ごめん』
「全く君は。別行動にしよう言ったのに、どうして出てきちゃったんだよ」
『だ、だって僕、愛蔵が心配で……ごめんなさい』
「はは、冗談だよ。今更言い逃れるつもりもないさ。それに、お前はそういう奴だ。いつだって僕の……大事な友達だった」
いままでありがとう、と言って。
ひそひそとした会話を切り上げると、桜葉愛蔵は観念したように前を見据えて、Lと向き合った。そして何かを言おうと口を開いた瞬間――。
『――僕だ!』
甲高く、アーマが声を張り上げた。
『全部、僕がやった。ノートは僕が愛蔵に押し付けたものだし、計画も殺しも全部、僕が脅してやらせたことだ。僕だ、僕だ、僕だ僕だ僕だ僕だ僕だ、僕だ! 全部、僕がやったことだ! 愛蔵は何も悪くない! それでも愛蔵を連れて行くというのなら――殺してやる!』
アーマの手にはノートがあった。
あっ、と誰ともなく叫び声があがり、同時に数発の銃声が上がる。私はいつの間にかLに手を引かれ、背後に押しやられていた。背中越しに銃声のした方を見れば、若い私服警官が銃を構えた寮でだけをぴんと伸ばして、尻餅をついたような体制で震えていた。
当然のことながら死神のアーマは無傷で、
誰にも、彼を止めることはできない。
アーマは一瞬だけ動きをとめてきょとんと首を傾げてから、
『そんなのじゃ死神は死なないよ。じゃあまず、君の名前から書いちゃおうかな』
と、真下で震えている警官の名前をかりかりと書き始める。
もう一つの未来で月君の命を奪ったのがリュークであるように、死神がノートに人間の名前を書くことは、誰にも止められない。アーマの言葉の真偽などは問題はない。彼が殺すと言ったら、どうしようもないのだ。
Lにも、月君にも、私にも、誰にも止められない――しかし、
『おいおい、止めとけって』
と、その腕を制止する存在があった。