Last Chapter
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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◆Afterwards Last Chapter
-0.06-
『M・I・H――』
聞こえる。
死神の言葉が、ちゃんと画面越しに聞こえる。
『E・E・H――』
「今です!」
「うんっ」
ニアの声と同時に、私は手元に持ったペンを握りなおした。
デスノートの紙片。
書くのはたった一文字――
――『L』
完成する文字列は――Mihael Keehl
モニターの向こう側と、こちら側。《二つのデスノート》に、同じ名前が並んでいる。
「…………」
一秒。
二秒。
「本当にこれで大丈夫なのかな」
「私は貴方を信じます。待ちましょう」
九秒。
十秒――。
永遠にも感じられる四十秒を、私達は小さなモニターを見つめて待つ。
――。
確認して反芻するように、意識が遡る。
雨の中、メロを迎えに行ったあの時――。
「私は――メロのことが好き」
ロビーの前で、私は絞り出すように言った。向かい合わせに立った少し高めの位置にある青い目が、不思議そうに細められる。驚きですらないだろう。いきなり何を言い出すのか、私がどうかしてしまったのかと思っているのかもしれない。メロが何かを言うより先に、私は続きの言葉をどうにか紡ぎだす。
「私は、メロのことが好きだった。メロが好きで、助けたくて……だから、Lが死なずに、メロがワイミーズハウスを一人で出て行かなくてもいい未来を願っていた。……思い出してすっきりした、記憶が戻ったの!」
「…………」
メロの目はさらに細められる。私は苦笑して、続ける。
「なんてね。ちょっと言ってみただけ。ここに居るメロは別人だって分かってるよ。本題はここからで……」
「…………」
――あれ。
細くなっていた目が今度はこれでもかと見開かれている。怖い顔から目を逸らすようにして、私は客室へと歩き出す。
「デスノートについて、色々と思い出したことがあるんだ。この事件、もしかしたら終わらせることが出来るかもしれない。だから知恵を貸してほしいの」
「…………」
黙りこくってしまったメロを連れて客室に戻ってから、私は思いだした記憶について話した。全てを話したわけじゃない。けれど、デスノートを巡る一連の事件の別の結末を知っているということ、そしてこの世界が私の知る結末とは異なっていて、それにはおそらく夕陽が関わっているということ、それからデスノートのルールも全て説明した。ニアもメロも、初めから終わりまで、一切、疑うそぶりを見せなかった。
「……よく分かりました。メロ」
「なんだよ」
「一つ、使えそうなルールがあったと思いませんか」
「……あぁ。行くなら俺だ」
ニアの言葉を受けて、メロが神妙に呟いた。
「Lと夜神月が見つけ出した容疑者……桜葉愛蔵が偽キラであることは間違いない。死神の姿を見た。それに……死神は俺の顔を知っている」
「死神がメロの顔を知っているって……まさかメロ」
「さっきまで桜葉愛蔵の自宅付近で死神の姿を探していた。戻ってきたのは、向こうが俺に気付いた様子だったからだ」
死神と目が合ったように感じた直後、メロは即座にフルフェイスのヘルメットをかぶり、バイクで都内を走り回って死神を撒いたのだという。Lに教えてもらったメロの追跡結果、あれほど都内を走り回っていたのはそんな理由があってのことだったのだ。
「そ、そんな危ないことしてたの?」
「流石ですね、メロ。知らない間に死にかけてたんですね」
「うるせー」
「ヘルメットを被ってバイクで走行している間も暫く死神は追いかけてきていましたか?」
「……あぁ。三十分くらいはしつこく追いかけてきてた」
「なるほど、そうですか」
ニアは髪に指を掛けると、不敵に薄く笑った。
「だとすれば、死神を任意の場所におびき寄せることが出来るということですね」
「……あ、もしかして」
気付いた私がぽつりと呟くと、ニアは足元のロボットにおもちゃのヘルメットをかぶせた。その上に、凶悪な顔をした小さな人形をぶーんと飛ばせて見せる。
「死神はメロの顔も、ヘルメットとバイクという姿も覚えている……今、再びヘルメットを被った状態で死神の目に触れれば、今度こそヘルメットを外して名前を見るまでは追いかけてくるでしょうから」
「死神の足を止めたい地点で俺がヘルメットを取ればいい。そしてノートに名前を書かれても――同時に誰かが名前を書けば死ぬことはない」
「私達の手元には、ノートの紙片があるから――」
「ええ。Lも桜葉愛蔵に接近する頃でしょうから、早速連絡を入れましょう」
一気に片を付けることができるかもしれません、とニアはロボットを乱暴に倒した。
――というのが、二日前の話だ。
けれど、いくら完璧な作戦を立てたとは言っても、それが実際にうまくいくかどうかは全く別の話だ。
二十秒。
二十一秒――。
デスノートが《同時に書いた》とする条件、許容される誤差は僅か0.06秒――こちらの紙片にはあらかじめメロの本名を、《Mihael Keeh》、即ち、実際に書くのが最後の一文字だけで済むように書いてある。タイミングは合わせやすい。けれどやっぱり、四十秒経つまでは――分からない。
命がけであることには、変わりない。
メロのバイクには、高性能のカメラが取り付けられている。遠くの音声まで拾うことのできる集音性能。静かに見守る私とニアとメロと同じく、遠くで月君も沈黙している。
僕が、貴方を守る――と、その言葉がまるで誰かのようで。
三十八秒。
三十九秒。
四十秒――。
『――あははは』
唐突な笑い声に、私は身を固くした。どうしてか、月君が笑っているようだった。同時に四十秒が過ぎたことを確かめる。そこからさらに数秒経つが……。
「メロ!」
声を上げると、モニターの向こうでメロは小さく頷いた。良かった、上手くいったらしい。
『あれ、おかしいな。書き間違えたのかな。M・I……』
メロの頭上を指さしながらノートの上の文字と照らし合わせる死神。私達は注意深くその白い包帯のような姿を見守った。けれど、首を傾げて不思議そうにするだけで、もう一度名前を書き込む様子はない。
「……上手くいったようですね」
「う、うん……」
一気に力が抜けて、私はその場でへたり込んだ。手のひらが汗で濡れている。
――やったよ、夕陽。
――私も誰かを守ることができた。
私の役目はここまでだ。あとは――。
「私達も行きましょう」
「うん」
ワタリさんの運転する大きなリムジンの扉を開け、降り立つのは東応大学のキャンパス。
私は願いを託す。
皆を信じて。