Last Chapter
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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◆Afterwaeds Last Chapter
-失踪-
『ど、どうしよう、夕陽――』
空から電話がかかってきたのは、私達が部屋についてすぐのことだった。帰り道で買ってきたお菓子の箱をLが開封するのを横目にミルクティでも入れようかなと立ち上がったところで、ソファに置いた携帯電話が鳴りだしたのだった。
「空、どうしたの?」
聞き返す私の横で、Lがかさかさと生キャラメルの包み紙を剥く。受話器越しに会話を訊こうとしているのか圧迫するような距離に顔があったので、私は会話をスピーカーフォンに切り替えた。部屋中に響く音量で、それでも心細そうに空は言った。
『メロが、いなくなっちゃった』
「メロが?」
『私、こうなったらどうしようってずっと考えてたのに、連絡もつかなくて……夢にも見たのに、こうなっちゃいけないって分かってたのに』
――夢?
それは少しだけ引っ掛かる。私達にとって、夢は夢だからとないがしろにできるものではない。けれど、ひとまずは状況確認だ。
「落ち着いて、空。私も、Lも一緒に聞いてるから」
『え、Lが……? でも』
戸惑うように空は言葉を区切った。私は隣のLと目配せをする。
「大丈夫、もう入れ替わりはばれてるの」
電話の向こうで、少しの沈黙が流れた。
『そう……なら、話してもいいのかな』
「ねぇ空、落ち着いて状況を聞かせてくれる?」
『あ、朝……』
呼吸を正すような間を開けて、空は言う。
『私、七時くらいかな。目が覚めた時にはもう居なくなってた』
時計を見る。現在は十五時だ。外出としてはそう長い不在ではない。
『黙っていなくなるのは今回が初めてだし、連絡もつかない。チョコレートでも買いに行ったのかなって初めは楽観してたんだけど、でも考えてみれば部屋にはチョコレート、沢山あるんだよ。イギリスから持って来た分だって五十枚くらいあったし、コンビニのも全種類二枚ずつ買ってたから……』
「……チョコレート買いすぎでは?」
「順当に考えるとすれば」
横から割り込むように、Lが私と携帯電話の間に頭を差しはさむ。そうしなくたって声は伝わるのに。
「メロは単独で捜査を進めているのでしょう。交通システムに接続すれば、関東地区なら現在地を割り出すのに五分とかかりません」
『へっ?』
空は素っ頓狂な声を出した。
『ほ、本当に?』
「嘘です」
『えっ』
「今のは冗談です」
『……』
電話越しにも空の戸惑いが伝わる。Lは冗談のタイミングが自由すぎる。
「メロのバイクにはフェイクナンバーが割当てられているので、見つけるのは簡単です」
ワタリ、とLはいつの間にかポケットから取り出していた別の携帯電話に呼び掛ける。ほどなくして、遠くのフローリングに置かれたノートパソコンの画面が明るく光りだした。Lが指を咥えてのったりとそちらに向かうので、私も遅れて後を追う。
「流石ワタリさん、仕事が速い……五分どころか、一分も経ってないのに」
「そのうち夕陽にも出来るようになります」
さらりと言って、Lは身を屈めて画面にぐっと顔を近づける。
黒い背景にオレンジ色のラインで表示された道路と思わしき図。その上をリアルタイムで無数の点が流れていく。別ウィンドウではこれまたとめどなく流れていく時刻と英語と数字の羅列。はっきりとそれらの意味は分からなかったけれど、明らかに一つの点だけが赤く点滅しているのは見て取れた。きっとあれがメロの現在地を示している。場所は……
「富士羽第三ビルを通過、それから三十号線へ乗り入れています。とすれば……」
少しだけ呟いてから、Lが「空」と受話器に呼び掛けた。
「安心してください。メロはそちらに帰るところです」
『えっ』
「三十分もすればそちらに戻るでしょう。問題は、バイクでの記録がない今朝午前八時から十四時四十五分までの間、何処で何をしていたかですが、駐輪場所を割り出し――」
しかし、画面を操作し始めたLの傍らで、スピーカがぶつりと鳴った。次いで聞こえたのは、ツーと永続する機械音。
「電話、切れちゃったね……」
「…………」
Lは、指を咥えて目を半分にして、不機嫌な子供のようにする。
私は携帯電話を拾って画面を戻し、Lに笑いかけた。
「まぁまぁ、メロの居場所が分かってよかったじゃない。あとは空に任せよう」
「…………」
恨めしそうに、Lは私を見上げる。心なしか、頬が膨らんでいるような。
やっぱり、話を遮られることは、相手が誰であっても、単純に無条件で嫌いらしい。
「……それに、メロのことも、信じてるんでしょ?」
「…………」
まぁ、否定をしないということは、そういうことだよね。
「何か甘いもの持ってくるね!」
一貫性の不機嫌には何か美味しいものを。それがスイーツ係としての私にできることだ。Lの肩に軽く触れ、私は部屋を後にする。
「あれ、月君」
廊下の向かい側から、月君が歩いてきた。Lに用事だろうか。目が会うとすぐ、彼は愛想良く微笑んだ。
「あぁ、おはよう……じゃないな。買い出しか?」
「うん、ちょっと。お菓子でも持ってこようかなって」
「部屋……竜崎はいるか?」
「いるよ。ちょっと不機嫌かもだけど」
「……そうか」
途端に冷静な表情に戻ると、月君は私とすれ違うようにしてLの元へと向かう。廊下に起きた、微かな風。私は一瞬の違和感を感じて振り返った。
「夕陽も、すぐ戻ってくるよな?」
「うん、お茶入れるだけだし」
「そうか、良かった……大事な話があるんだ」
もう一度愛想笑いをして、彼は身を翻す。
すっと指先から冷えていくような後ろ姿は、まるで――。
「……考えすぎ、かな」
月君って必要以上に真面目っぽいところあるしね。硬い表情だったのはきっと、考え事でもしていたからだろう。きっと竜崎と一緒に推理を進めるつもりなのだろう、あるいは前にやったように、チェスでも打ちながら、思考実験と称して。
だったら三人分、お茶の用意でもしよう――そう思ってエレベーターのボタンを押し、ふと後ろを振り返った時、
「――っ」
私は動けなくなった。
正確には、前から口を塞がれて、身動きが取れなくなった。
しーっと黙らせる仕草。
頬まで裂け、がぱっと開かれた口。
見慣れたその姿に、声にならない疑問を目で訴えかける。
――リューク、どうしてここにいるの?
『ケケケ、いやちょっと知らせに来たんだよ』
ニヤニヤ笑いを張り付けたまま、リュークは私の口を解放すると、黒く長い指先で自分の首をピッと切り裂くような動作をする。
『俺達全員、そろそろタイムリミットってやつだ』