Chapter 2
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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Afterwards -Chapter 2-
◇灯
海砂との買い物を済ませて、私達は再び月君とLと別れた地点に戻ってきた。
二人は既にそこにいた。
Lは長い緑色のベンチの上で、何やら虹色のつぶつぶが沢山つまったカップのアイスを三角座りで食べていて、月君はその横で両手両足を広げてベンチで脱力していた。
「竜崎、月君!」
「……あぁ、夕陽、ミサも……」
月君はまるでLのように隈が出来てしまった目でじろりとこちらを見た。睨んでいるというよりも、疲れているのだろう。
「二人とも、楽しかった?」
にこにこと問うミサに対して、月君の姿は子供に振り回された親のようだった。
「…………」
「私は楽しかったです。最終的に勝ちましたし」
そして棒読みで言うLは案の定、さっきと何一つ変わっていない。けろりと他人事のようにアイスを食べている。
「えへへっ、そっか」
海砂は満足げに笑って、Lと月君の間に座る。そして体を預けるようにして月君の腕に自分の腕を絡ませた。
「じゃ、ここで解散にしよっか!ミサはライトともう少し遊びたいし、夕陽ちゃんも竜崎さんも、ほらっせっかくだからあの観覧車に乗ってきたらいいと思うの!」
「え、でも、いいのかな……?」
「いーじゃない!ね、竜崎?」
私が答えあぐねていると、海砂に声を掛けられたLはぴょんと立ち上がって私の正面に立った。
「ええ。いい考えだと思います、夕陽。観覧車は一周で15分、ちょうど話したいこともあります」
黒い前髪の向こうから、黒い瞳がまっすぐに私を捉えた。話とは何だろう。私は身構えたが、そう言われてしまえば断るべくもない。それに、Lの雰囲気は穏やかだった。
「うん、竜崎がそう言うなら……」
「いいねいいねっ、ごゆっくりー」
頷いてLを見上げると、後ろから海砂の元気な声が聞こえてきた。振り返って手を降ると、月君もゆるりと片手を上げて怠そうにしながらも見送ってくれた。捜査本部に泊るそうだから、またあとで顔を合わせることになるだろう。
「そういえば海砂さんはこの観覧車のことを私と夕陽が初デートをした場所だと言いましたが」
「ぐぅ」
不意打ちの小恥ずかしい世間話に、私は喉を詰まらせた。
「ぐぅ?どういう意味ですか?知らない日本語です」
「……気にしないでください。で、それがどうしたの?」
「いえ。あの時は本来、買い出しの名目で出てきたわけですから、むしろ今日が初デートなのではないかと思いまして」
「…………」
恥ずかしさは人から言葉を奪う。私は彼の視線から逃れるように歩みのペースを落とした。
「だ、だったら、まぁ、Lがそう言うなら、そうなんじゃないですか……?だからといって何が変わるわけでもないですし、私は拘らないですし……」
決してかわいいとは言えない言葉が勝手に出てくる。
「そうですか。同意いただけて何よりです。何故他人事なのかはさておき__」
L彼は鋭く指を咥えて振り返った。
「ですが、何も変わらないということはありません。何故ならその場合、今日が私達の初デートの日ということになるからです」
「___っ」
にやり、Lが笑う。
あぁ、これはからかってる。
十中八九、私の服がほぼお揃いであることに気が付いて、敢えてそれに触れずに……。
「それはそうとして、それ」Lが見下ろすように私を指さす。「かわいいですね」
「___っ」
私は叫んだ。ここは記憶が曖昧だと言って誤魔化しておこう。
とにかく気が付いたら観覧車の前に来ていて、陽は暮れかかっていた。海風も強くなっている。
観覧車の乗り場の階段を上がっていく。去年、私を茶化しながら応援してくれたスタッフのお姉さんはいないようだった。代わりに機械的な顔を振りまく男性が、水色のゴンドラへと案内してくれた。
「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう」
足元におぼつかなさを覚えながら、私が先に乗り込み、あとからLが乗り込む。そして私達は向かい合うのではなく、自然と隣同士に座った。
観覧車の一周は15分らしい。それでも、上りのスピードは速く思えた。
どんどん遠くなる、さっきまで立っていた地面。
追い越していく屋上やジェットコースターの頂点。
綺麗な風景がその先にあると分かっていても、つい、空に浮かんだような心地に不安を覚えてしまう。
鳥や死神ならこんな風景に感慨もないのだろうけれど、私にその感覚はない。
そうやって観覧車がある程度の高さに到達するまで、私達は静かに外を見ていた。「話がある」とLは言った。けれど、彼は窓の外をじっと見つめるばかりで、私がその横顔を眺めていても微動だにしない。不思議に思って、私は一周の3分の1が過ぎた頃、聞くことにした。
「……L、外に何かあるの?」
話を急かしている訳ではない。不思議だったし、単にLが夢中になるようなものなら、私も一緒に視たいと思ったのだった。
「いえ、何ということはないのですが__」
Lは、言葉も途切れるほどに、何かに目を奪われていた。
「夕陽が綺麗で、ろうそくの灯りみたいだなと思いまして……」
「……ろうそく?」
驚いて目を見開いたのは私の方だった。
「ええ」
Lの横顔にオレンジ色が差し、両目の上には前髪の影が落ちていた。
「ビルの窓ガラス、街灯、車のヘッドライト……全て橙色に揺れる、ろうそくの灯のようです」
そっか、それが、Lが見ているものだったのだ__ゴンドラの窓の外で、青空から夕焼けへ、そして再び青から藍色へと変わりつつある空を背景にして、ビルの尖端の赤い光や、街灯の白い光、走っていく車のウィンドウに反射した夕陽のオレンジ色が浮かぶように散らばっていた。
「……うん、すごくきれい」
それにしても、ろうそくを思い浮かべるのはどうしてなのだろう?__いつか聞いてみよう。
時間が止まったような心地を置いて、風景はどんどん変わっていく。私達の乗るゴンドラはそろそろ頂上に差し掛かっていた。ほんの少しだけ、沈みつつある太陽よりも高い場所にいるような気持ちになる。
「夕陽」
Lはようやく窓から目を逸らすと、私の名を呼んだ。
「える__」
しかし、答えようとしたところで、まるで急に眠りに落ちてしまったように、かくんとその頭が私の肩にもたれ掛かってきた。私は驚いて、彼の黒い髪にそっと触れた。
「L、どうしたの……?」
「本当は……気づいてました」
私の肩に顔を埋めたまま、Lは言った。
「……気付い、てた……。もしかしてL、話ってこのこと?」
「ええ」
肩越しにLの体温と呼吸を感じて、私の鼓動は途端に早まっていた。Lがこれから何を言おうとしているのか、分かる。分かってしまう。緊張と、恐れがそこにあった。
「あの雨の日__」
言いかけて、Lは顔をあげた。
「11月5日に私の元へ空がやってきたとき、それは記憶を無くした夕陽だと思おうとしました。ですが、ウィンチェスターの聖堂で本当の貴方と話して……それだけで、何が起きたかを、そしてあなたが何を想っているのかを理解するのには十分でした。本当は全部……ほとんど初めから、分かっていたんです」
「……ぜ、んぶ……なのに、どうして__」
どうして今、Lは私をこうも強く抱き寄せてくれているのか。拒絶など微塵も感じさせない力強さには、不合理と疑問しか感じなかった。海砂の時も同じだ。でも、海砂にはレムが居たから死神を特別に思わないだけで、Lが私を拒絶しない理由とは何の関係もない。
「……これはおそらく、以前の夕陽と同じ気持ちなんでしょう」
私と__同じ気持ち?
「はい。以前、海砂さんを監禁し、夕陽が泣いているのを見てしまった時……正直なところ、私は貴方に嫌われることを恐れていました。そんなとき、怒ったように声を荒げて『それでもどうしようもなく好きだから』と言ってくれたのが貴方です。きっとそれと……同じ気持ちです」
「…………L、でも」
「これ以上、理由が必要ですか?」
「…………」
私は何も言えなかった。
ただ、Lの言った夜の記憶を辿った。海砂を監禁したLは不信感を募らせた捜査員から「心がない」「非道だ」と批判を浴びせられていた。それでも何も言わないLに、私は彼がそれを何とも思わず平気なのかもしれないと思っていた。
でも、次の日__『私のことが嫌いになりましたか?』と声を震わせたLを見て、彼の本当の気持ちを知ったのだった。
「心がない、人を利用し、突き放し、事件をゲームのように扱う……人間ではない【L】である私を、それでも好きだと言ってくれた……全く同じ気持ちです。貴方が夕陽である限り、例え貴方自身が自分を【何者】だと思っていようとも関係ない……私は、どうしようもなく好きなんです」
「……L、わたし……」
「さっきも、そうやって笑おうとしていましたよね」
言葉が出なくて、そして泣きそうになったので、私は結局無理に口角を引き上げて笑顔らしい形を作ろうとした。目が合ったところでLが「それです」と長い袖から指先を出して、私を指さした。
「……?」
「笑って誤魔化すことや、泣きそうに笑うこと、きっとどこかで傷をつけても、貴方は隠そうとするでしょう。そうやって笑う夕陽を見るたび私は……誇らしいと思うんです。誇らしくて、恋しい」
__泣きそうに笑うこと。
__傷を隠そうとすること。
__それが、誇らしい?
「ワタリだったら、『折れそうに咲くこと』とでも言うのでしょうね」
そしてLは、小さくはにかんで膝を抱えた。
横顔に影が落ちて、その表情がよく見えない。
「それは……私とは全く正反対で、私には無いものですから」
「…………」
Lは俯きがちに夕陽を眺めていた。
私は失った言葉を取り戻せないまま、彼の隣で同じものを見ようとした。Lがロウソクの炎のようだと言った東京の灯りがきらきら煌めいている。でも、きっとLが見ているのはそれではなく、私の手の届かない過去に思えた。
「……そんなことないよ」と気付いたときには口が動いていた。
「Lは、私をからかったり、意地悪そうだったり、よく笑ってるよ。いつも……いつも私に、絶対に負けないっていう強さをくれる」
驚いたように振り返って、Lは目を見開いた。
黒い瞳にオレンジ色が映り込んで、それが彼自身の炎に見えた。重なるように私が映り込む。私は続けた。
「だから、きっとこう思ってるのは私だけじゃないよ。皆、皆が、Lに強さと勇気をもらっていると思うんだ」
思い出すのは、初めて捜査員とLが合流した夜のこと。
__「見せてやりましょう。正義が必ず勝つということを」
雲を掴むような途方もないキラの犯行に皆が混乱していたなか、Lが笑って、皆に勇気が灯った。
「考えたこともありませんでした」
目を見開いた横顔に手を伸ばせば、指先が黒い髪に触れる。
ふとLが、知らないことに直面した子供のように思えた。しかしそれも一瞬で、彼は精悍な顔つきで私を見上げた。
「……夕陽、もうどこにもいかないでください」
黒い瞳はスクリーンのように沈みかけの太陽を映し出し、それが、Lが蝋燭のようだと言った外の明かりのように、ひとつの灯のように輝いた。
心細そうな言葉のはずなのに__それは力強い眼差しだった。
「……うん」
「ひとりに、しないでください」
「うん」
手を伸ばして、精一杯抱きしめる。
きっとLは寂しがってなんかいないだろう、これは私が受け入れやすいように言い換えただけの建前な気がする。そう思いながらも、結局私は優しいLの言葉を信じることにした。
「……どこにもいかない。Lの手の届く場所にいるよ。だって私も……貴方のことが誇らしくて、そして恋しいと思うから。今でも……」
Lの考えていることは分からない。今でも。
今でも遠く感じることがある__だからこそ。
隣にいることを誇らしく__恋しいと思えるのだろう。
「__良かった」
Lは緩やかに口角を上げた。
私は彼を抱きしめていた腕の力を抜いて座りなおした。
「週明けの講義で桜葉愛蔵に近づきます。一緒に来てくれますか」
そう言いながら、Lは急に推理をするときのような表情になった。
「……え、と」
あまりに唐突なその提案に、私は一瞬追いつけなかった。しかし、考える先に頷いていた。
「__うん、行く。どこでも行くよ、L」
「ありがとうございます。心強いです、本当に」
幸せな瞬間に思い起こされるのは、悲しい状景__例えば、自然と思い浮かべてしまうのはあの雨の未来だ。でもそれすら私の記憶から去ろうとしているように思えた。決して訪れない未来。それはもう私も苦しめない。Lがいる。その隣に、私がいる。少し離れても、それは手の届く場所でありたい。
「そろそろ乗り場に着きそうだね」
ちょうど15分が経過する、そんなタイミングで、ポケットの中で携帯電話が震えた。
「メールですか」
じとりとつまらなそうにしたLの前で、私は携帯電話を取り出す。そこには海砂の名前が光っていた。
「うん、海砂から……【ライトと映画見て帰ることにしたから、二人は先に帰っててね、ごゆっくり☆】だって」
「……そうですか」
Lが興味のなさそうな返事をしたのと同時に、ゴンドラが地上についた。飛び降りるようにふわふわとした足を地上につけ、Lのいうところの初デートは終わったのだった。
「夕陽」
観覧車を降りてから数メートル歩いたところで、Lは背中を丸めて振り返った。それは以前のように逆光の中ではなく、私ははっきりとその鋭い瞳を見上げることが出来た。
「あの二人のことが気になります……が」
__二人?
二人とは、果たして誰のことだろうか?
「帰ったらホールケーキが食べたいです。夕陽、用意できますか?」
「え、あ、うん!ニューヨークチーズケーキと、メロンのケーキがあると思うけれど……」
「それは良かった。早く帰りましょう」
二人というのは、果たして月君と海砂のことか、それともニアとメロのことか。聞き返す前に、すたすたと背を丸めたLは歩いて行ってしまう。
「あ、まってL!」
私は帰ったら詳しく聞こうと、その背を追いかけたのだった。
「……おい海砂、どこへ向かうんだ?」
「ふふっ、映画館ってね、休ませるスクリーンをローテーションしてるんだって。人気作品の上映中は監視カメラもモニターの数の都合でオフになってるし……」
映画館の人混みから逸れ、海砂は人気のない廊下を進んでいく。毛足の長い絨毯に足音もたたず、人が来る気配がない。廊下に監視カメラはなく、スタッフ通用口も近くにない。空き教室のようにがらりと無人のスクリーンの扉を開けて、海砂は僕の為に道を開けた。
「……?」
一歩踏み入れる。そして、額に、さらりと何かが触れる感触がした。
目を瞑り、すぐに開ける。
__そこにいたのは__。
「……な、んだ……!」
『久しぶりだな、夜神月』
人間の倍はある体躯を折ってこちらを見下ろす青い瞳__白い骨のような指先が持っていたのは一枚の紙片、かろうじて叫ぼうとした息を飲みこむ。視界の端で海砂がけらけらと笑った。
「あはっ、やっぱりライトは覚えていないんだね。見えるようになっただけかぁ」
「…………」
__覚えていない、だと?
それではこの生き物は、まさか死神、そしてキラの__
「紹介するねっ、死神のレムだよ」