Chapter 2
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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Afterwards -Chapter 2-
◇おそろい
「はーい、じゃあ当初の予定通り、ミサと夕陽ちゃんはお買い物に行ってきまーす」
初の四人での集合写真を撮った後、海砂は思い出したようにそう言って私と腕を組んだ。ふわりと香水が香って、海砂のチョーカーが視界の端できらりと光った。買い物か、そう言えばそういう約束だった。
「海砂は?ってどういうことだ?」
月君が聞き返す。隣ではLがきょとんとした表情で指を咥えていた。
「うんライト!もちろん、二手に分かれて別行動ってことだよ!ミサと夕陽ちゃん、ライトと竜崎って感じでね!一時間半くらいしたらまたここに集合でいいでしょ?」
「二手に分かれる?だったら僕と竜崎は捜査本部に戻って__」
「勝負しましょう、月くん」
「はぁ?」
気の進まなそうな月君を、Lは袖先を指先でつまむようにしてぐいと引っ張った。
「行きましょう。あそこにスポーツもできるゲームセンターがあるようです。アイスクリームの看板も見えました。あのカラフルな粒、食べてみたいと思ってたんです」
「お、おい__っ」
そのまま、指先だけの力で月君はLに引っ張られていく。
私は海砂に腕を抱かれながら、二人を見守っていた。まさか、本当に指先の力に月君が抗えない訳でもないだろう。きっと渋々なのは建前だ。いってらっしゃい。
「…………」
「……よしっ、じゃあミサたちはあそこに行こうっ」
二人の姿が見えなくなってから、私は海砂と近くのアウトレットに入った。明るい照明のフロアを歩きながら、道行く人が口々に『キラ』と話していない現実に少々驚いていた。
少し前までは、どこに買い物に行ってもその話が耳に入らないことはなかった。ケーキ屋さんも、デパ地下も、東応大学も、当然、警視庁の庁舎も、あるいは病院で粧裕ちゃんと話した時もだ。
現在、偽キラのニュースはまだ世間には出ていない。人々の意識から__特に話題の移り変わりの速い日本では__キラは人々の意識からは去りかけているのだろう。
「ふふっ、女の子とデート久しぶりだなー。っていうか夕陽ちゃんはミサの恩人だし、デートなんかよりずっと特別かも!ここにレムもいたらもっと楽しそうだなーって思ったりもするけれど……」
「ん、海砂、今、『レム』って……」
一瞬、どうして知っているのか、聞こうとして、私は思い直した。
「何?レムがどうしたの?」
「ううん、レムのこと、好きなんだねって思って」
海砂はヨツバの本社でノートの所有権を受け取らずにその紙片に触れている。記憶までは戻らない、ただ死神が見えるようになるだけの接触__それ故、海砂はその後も所有権を持たずに今日までレムとの会話を覚えているのだろう。第二のキラとしての記憶がない代わりに、一緒にヨツバキラを追い詰めた記憶は持っているのだった。
「もちろんじゃない!レムは優しいし、海砂のこと助けようとしてくれていたし、かわいいし、今でも大好き」
「……そっか」
まぁ、話題がどうあれ__それもまた共通の話題というやつなのだろう。だったらレムは共通の友人になるのだろうか?
「で、夕陽ちゃんも死神だったのよね?」
__今、海砂は何て?
聞き返すより先に体が反応して、私はその場で立ち止まってしまった。一歩先に踏み出した海砂が、私の手を掴んだまま振り返る。
頭がぐらりとして、唐突にどうして私が今、こうして海砂と手を繋いでいられるのかが分からなくなった。聞き取った通りの内容で間違いなければ、彼女は、今にでもこの手を離してもおかしくはないはずなのに。
「……ね、夕陽ちゃん」
微笑んだ海砂と目が合い、つい逸らしそうになる。しかし手は離されるどころか、込められた力がより強くなっただけだった。私は口角が下がるのを感じながら、黙って彼女を見返すことしかできなかった。
「……あの、」
いまさら誤魔化すにしては、不意打ち過ぎた。
「事件が終わってから、レムが全部教えてくれたの」
ぱたりと、ヒールを鳴らして海砂が私の正面に向き直った。
「全部って……」
「全部は全部!」海砂は駄々をこねるように頬を膨らませた。「レムがね、夕陽ちゃんのことを『あいつは嘘つきだ』ってあまりにも言うから、ミサも頭に来ちゃって……『じゃあ何が嘘だったのかちゃんと教えて!』って言ったら嫌々教えてくれた」
「…………」
頬を膨らませたまま、海砂は目を潤ませていた。
「ねぇ夕陽ちゃん、ミサ、全部が終わってから訊けて本当に良かったと思ってる。そうじゃなかったらミサ、居てもたってもいられなくなって何してたか分からない。思い出すだけでちょっとムカムカするくらい……本当にミサ……夕陽ちゃんのこと心配してたんだよ?」
「それは……その」
ほんの少し意外で、面食らってしまったのは__あれだ月君とキラを大事に思っていた子が、ここまで自分を想ってくれていたということだった。夜道の中の、迷子の子供のようだったいつかの海砂、そして月君を守ると決意していた海砂、でも、ここにいるのは……
「もう、不思議そうな顔しないでよ。言ったでしょ、そして海砂は友達を裏切りません!って」
いや、ここにいるのも同じ__あの日と同じミサだ。それは、四人でヨツバキラを逮捕すると約束した時の言葉だった。
「……ご迷惑をおかけしました。本当に」
ようやく捻りだせたのは、そんな不器用でかしこまった言葉だった。手を繋いだまま深く頭を下げて、それから海砂を見上げると、彼女は頬を膨らませるのをやめ、不思議そうに首を傾げていた。
「夕陽ちゃん、たまにそうやって竜崎みたいに話すのね。ってそうじゃなくて。んーっと、何て言ったらいいのかなぁ、だから……」
海砂は頬に指をあてて目を泳がせた。なにか難しいことを考えているらしい。
「また来ようね!」
「?」
「あーもう、ミサも何が言いたいのか分からないからいーやっ!嬉しい!大好き!また遊ぼうね!ってこと」
「…………」
つい、返事が遅れてしまう。
「……うん!」
でも、まとまり切らない言葉だからこそ、言いたいことは伝わってきた。だから私も大きく頷いた。海砂は「やったぁ」と簡単に返事をして、握る手に力を込めた。その話は、それで終わりだった。
「ところでさ、夕陽ちゃん」
海砂は何事もなかったかのように再度私の一歩先を歩いて手を引くと、空想するように宙を仰いだ。
「どうしたの?」
「勢いで買い物いこーって誘ったはいいんだけど、そういえばミサ、着たい服っていうのはもう撮影とかで着てるし、なんなら貰っちゃってし、買うものないなーって。どうしよう?」
「…………」
それはすごい。知られざる世界だ。
「……モデルの仕事ってみんなそうなの?」
「うーん」
海砂は腕を組んで唸った。
「むむ、どうしよう、ライトならこういうときどうするかなぁ」
「月君ね……なんなら向こうと合流する?」
「むぅ……それは避けたい」海砂は頬を膨らませた。「だってライト、なんだかんだで竜崎と一緒だと楽しそうなんだもん……」
「すごく分かる」
私は同意してうんうんと頷いた。海砂はほんの少し頬を赤らめてそっぽを向く。なんとなく可愛らしいいじけ方だった。
「って言うか正直、ちょっと竜崎に負けたようで悔しいかも」
「それも分かる」
ちなみに、つい今しがたLから『今、月くんとバスケで勝負中です』という報告メールが来たところだ。楽しそうでなによりだが、やはり嬉しさと同じくらい理不尽な悔しさも湧き上がるものだ。人間って不思議だ。(面白!とは言わない)
「あぁもう、竜崎のばか!」
海砂が叫ぶ。私も「月君のバーカ!」と叫びたい気分になったが、ぎりぎりその衝動を抑えた。
「あ、そうだ!」
海砂はふいに顔を上げて、私の肩を掴んだ。そのまま反対の手も肩を掴み、私は強く揺さぶられた。
「夕陽ちゃんで遊ぼう!」
「は?」
「あ、てへ。夕陽ちゃんと遊ぼう」
撮影のポーズのようにミサはぺろりと舌を出した。
「今、私”で”遊ぶって言ったように聞こえたけれど__」
「よし、海砂もいつかブランドプロデュースとかすることになるかもしれないし、友達のスタイリングくらい頑張らなきゃっ!任せてね、夕陽ちゃん!」
「……ええ、はい。よろしくお願いします」
思わずLのような返答をしてしまった。
どうやら私で遊ぶというのは言い間違いではなく、本音が出てしまっただけらしい。つまり、私は着せ替え人形役ということだ。海砂は完全に突っ走りモードで、文字通り私の手を引きながらぐんぐん目当ての店へと進んでいった。
__レムさん……。お空のどこかから見ていたりしますか?普段からこんな気分だったんですか?
「はい、じゃあまずはミサとお揃いのブランドで!」
「……“サドン・ハート・アタック”?」
私は、装飾も店の雰囲気も、明らかに左右とは異色のその店名を読み上げた。__ええと、これって意味的には……突然の心臓麻痺?
最初に着いたのは悪趣味な名前のブランド__もとい、黒や赤の服がラインナップに多い店だった。壁には金の額縁に入ったバンドのポスターが何枚も張られていて、BGMもギターがぎゃりぎゃり鳴っている。レジの中に立つ店員さんの髪の毛は紫色だった。
「夕陽ちゃん、入口の前に立ってないでお店の中も見ようよ!っていうか試着試着!」
呆気にとられた場違いな私を、海砂は遠慮なくぐいぐいと深淵__もとい店内へ引っ張っていく。
「じゃあこれと、これと……あつ、これは弥海砂コラボなんだよっ」
そう言ってミサはリンゴと髑髏と十字架を散りばめたデザインのTシャツを私に見せた。そうしている間にも私は片手を海砂に引かれっぱなしで、店内を見回す暇もなく、気が付いたら試着室のドアの内側に立たされていた。
「はい、靴脱いでそこに立って。全部渡しちゃうね__これと、これと、あ、色違いと__」
海砂の手から革張りのタイトなパンツと、ひらひらしたシャツ、黒いTシャツやスカートが次々手渡される。
「夕陽ちゃんはシンプルでフォーマルなワンピースのイメージだからね、清楚もいいけれど、もうちょっと味を変えてもいいのよね」
__セイソ?清楚高田の清楚?
「……いつもワタリさんが揃えてくれる服ばかり着てるからなぁ……」
服のことは分からない。
選び方はもっと分からない。__というかそもそもからして人生のスタートが記憶喪失な上に、Lとワタリさんという特殊な人物のもとで過ごす時間が長いので、いろいろと世間知らずな自覚があった。
ひと時だけニアやメロと一緒にいたこともあったけれど、あれはあれでとても普通とは言えないだろう。
リュークなんかの方が人間の生活には詳しそうである。
「えーっ、ワタリさん……って確かあの執事さんみたいなおじいちゃんよね?というか夕陽ちゃんのボス?その人が選んでくれてるって……じゃあもしかして竜崎もそうなの?」
海砂はげんなりとして言った。私は首を振る。
「ううん、竜崎のあの服はどうかな、ワタリさんが選んでるかどうかは分からないけど」
私の脳裏には、以前うっかり目にした、数百とストックされた白シャツの姿が浮かんでいたが、それについては言うまい。
「でも、竜崎があの服以外着てるところは見たことないかな」
「えーっ!」
Lならクサい演技と言いそうなオーバーリアクションで、海砂は叫んだ。
「竜崎って結構、ファッションに拘りあるのね!ちょっと見直したかも!」
__え、拘り?そうなる?
「そっかぁ、せっかくファッションに興味があるなら竜崎も色々着たらいいのに。きっと、格好よくなれると思うよ!まぁ、ライトには負けると思うけれど!ね、夕陽ちゃん?」
「え、あ、うん……」
「なんなら竜崎の服も買ってっちゃう?夕陽ちゃんが着せたい服を着せてみたらいいと思うの」
海砂は悪戯を思いついたように笑った。
「……いつもと違う服の、竜崎?」
言いながら、私は試着室をばたんと閉めた。海砂はドア越しに話しかけてくる。
「うん、いつも白なら、例えば黒のシャツとか」
「……」
「スーツとか!」
「……」
「着物とか、大きめのTシャツとか!」
「……」
「ふわふわのニットにマフラー巻いちゃったりとか」
「ふわふわ……」
つい、椅子の上で三角座りしてマフラーに顔を埋めたLの姿を想像してしまう。それはちょっとだけいいかも……?
「__っい、いいよ竜崎は。どうせ着てくれない気がするし」
「えーっ」
海砂はつまらなそうな声を出す。私は、なんだかんだあの服の竜崎が好きなのだと海砂と話しながら気付かされてしまって、一人で恥ずかしくなっていた。こんなことはとても言えるわけがない。海砂にも、本人にも__私は着替えを終えて試着室のドアを開いた。
「わーっ」
子供のように、海砂が目を輝かせた。顔の前で手を組んでいる。
「夕陽ちゃん、すごく似合ってる!それ、決定!」
そこまでかな?と不思議に思いながら、私は鏡に映った自分を見た。
それは革のパンツでも、黒のTシャツでも、退廃的なパーカーでもなかった。
「あの、これって」
「うん、竜崎とお揃いコーデっ」
悪びれず、むしろ胸を張って海砂は言った。ついさっきまで考えていたことを見透かされたような心地に、私はいろいろな意味でたじろいだ。
「み、海砂……もしかしてさっき竜崎の話をしたのって」
「えへへ、夕陽ちゃん、あの竜崎が好きなんでしょ?」
「…………」
ぐぅの音も出ない。胸が苦しい。彼女の言う通りだった。
Lの話をしたのは単なる雑談ではなく、服を選ぶための材料、あるいは恋愛トークだったのだ。
「だから、夕陽ちゃんに似合うようにアレンジしました!すごいでしょ?」
確かに、シャツにジーンズそのままという訳ではない。
半袖の白いぴったりしたニットに、裾が破けたデザインの短いデニムスカート。
ほんの少しだけロックテイストで選んだのが海砂と分かるけれど__それは青空と、白い雲の色。
一目でLとお揃いだと分かる、分かってしまうコーディネートだった。
__それに、普通に可愛い服なのがまたなんとも悔しいというか……。
「じゃあ、これにします……」
「そう来なくっちゃ!じゃあスニーカーかブーツを合わせて__あ、これ、ミサとお揃いの付けよう!」
ふと目に着いたアクセサリーを手に取り、海砂はそれを私の目の前に掲げた。
きらりと光る、銀のブレスレットだった。十字架、リンゴ、髑髏の小さなモチーフが順番に並んでついているけれど、どれも小さくて可愛らしかった。
「友達のしるし。なんちゃって。……ところで元死神の夕陽ちゃんも、リンゴは好きなの?」
海砂はおどけてウィンクする。海砂にとっては人間も死神も、元死神も、さして違いはないのだろう。会計を終えておそろいのブレスレットを二人で手首に付けると、腕を振るたびにきらりと銀色が揺れて、なんだか嬉しかった。
「さ、じゃあライトと竜崎と合流しよう!竜崎、夕陽ちゃんを見て何て言うかな?」
きっと気づかないか、にやけてからかってくるかだ__いずれにしても無駄な期待をしないようにと、私は頭を振った。そして楽しそうに走り出した海砂の後を追いかけた。
でも、この時私は気が付いていなかった。
ほんの冗談で考えていたことが、現実に起きていたのだ。
遠くの空、しかし死神界ではなくほんの数十メートル上空から__レムが私達を見下ろしていた。