Chapter 2
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Afterwards -Chapter 2-
◇月と海砂と竜崎
桜葉愛蔵という容疑者が浮かび上がった直後、海砂からの『今から買い物に行こう』という突然の着信を受けた私は、何故かLに手を引かれる形で旧捜査本部ビルを後にしたのだった。
「おい竜崎、こんなタイミングで遊びに行くなんて馬鹿げてるだろ」気が進まなそうについてきた月君が引き留めるように言った。
「問題ありません。いずれにせよ動けるのは明日以降です」
いつもの調子で言いあうLと月君の会話を聞きながら、私達は海砂によって【お迎え】として寄越されたタクシーに乗っていた。
「月君、気が進まなそうですが久しぶりに海砂さんに会えるの、嬉しくないんですか?それとも照れ隠しですか?」
「……別に、そんなんじゃない。大体、今回の撮影が長かっただけで海砂とはいつでも会えるだろう」
「ですが彼女、今ではハリウッドからもオファーを受けているそうじゃないですか。今のうちにはっきりさせておくべきかもしれませんよ」
Lのどこまでが本気か分からない言葉(あくまで横で聞いている私の感想だ)に、月君はまともに受け止めたのか気難し気な顔をした。海砂のことを考えているのかもしれないし、Lと話すのが面倒だと感じているのかもしれない。
しかし、彼の懸念はどちらでもなかったようだった。
「……あのなぁ」と、月君はため息をついた。
「例の雨口臨という刑事が偽キラに操られて宇佐美春木の殺人に関わっているのだとしたら、現在はもう【用済み】としていつ死んでもおかしくない状況なんだ。分かっているだろう?」
Lは、からかうような笑顔を止めただけだった。
「そうです。それに雨口が現在まだ生きている以上、操りも続いているかもしれませんが……いずれにしても【三日に一度】の人質殺しのペースからして次の殺人は明後日です。焦って彼の行動を封じても、最悪の場合ノートの操りによる死の前の行動が無効となり、目の前で心臓麻痺を引き起こして死亡もあり得ます。……その場合、手がかりゼロです。偽キラにも気づかれるでしょう。ですから今は彼の行動を邪魔せずに、明日、改めてその行動を逐一監視した方が良いと言ったんです」
前を見たまま、後部座席で指を咥えてLは淡々と考えを述べる。月君は言葉に詰まったようにしてから再度ため息をついた。
「……帰ったらすぐに捜査を再開したい。あのビルに泊らせてもらうが、いいな?」
「……ご自由にどうぞ」
そうしていつの間にか、旧捜査本部の前にアイドリングしていたタクシーに乗って十分とかからず、私達は目的地に下ろされた。
「ここ……」
タクシーを降りて、見覚えのある景色に声を漏らす。
後ろでバタンと後部座席ドアの閉まる音がして、月君とLも降りてきた。
「…………」
「…………」
二人とも無言だった。Lは指を咥え「ふうん」といった表情で、月君は「やれやれ」と呆れた表情だ。
Lが納得した表情なのは、ここが以前来たことがある場所だからだろう。
去年、東応大学の過去問を買うというLに連れられて流れで観覧車に乗った__その場所だ。あの時と同じように、海風が髪に吹きかかった。
「えっへへへへへへへ!」
急に聞こえた笑い声に、海の向こうを見ていた私は振り返った。既にLと月君の視線は声の主を見て唖然としていた。私もまた想像しながら二人の視線の先を見る。思った通り__大きく笑って自慢げに仁王立ちした海砂がそこにいた。
「びっくりした?夕陽ちゃんと竜崎の初デートの場所を選んでみました!遊べるし、ショッピングモールもあるし、海も近いし、サイコーでしょ?」
海砂はカメラの前のレポーターのようにジャンプや身振り手振りを交えながらテンションをはじけさせた。
「と、いうことで……」
いまだリアクションを返せないでいる私たちを置いて、海砂はバンザイをするように両手を上げた。
__と思ったら
「ひっさしぶりー!」
「わっ」
__勢いに任せて飛びかかってきた。
後ろに倒れそうになった私を、後ろで誰かが支えた。すぐに頭上から「おい海砂」と聞こえてきたので、それが月君だと分かった。海砂はまるで意に介さず、ぬいぐるみを抱くように私の背中に回した手に力を込めていた。
「わー、夕陽ちゃん何も変わってないね!服も竜崎みたいにいつもと同じだし、五か月も居たのにイギリスの匂いとかも全然しないね?」
「い、イギリスの……」
__匂い?
あとLみたいに服が何時も一緒かぁ、そっかぁ……。
私は頭や背中をまるで犬や猫のようにわしゃわしゃともみくちゃにされていた。
「海砂」
「ん?」
月君から二度目の声がかかっって、海砂はようやく彼に返事をした。二回目で__月君が優先順位として一番目でないことは少々海砂らしくない気もしたが、しかし、やがてそれもそっか、と私は思い至った。
キラ事件の終結から半年、そして死神やノートという存在から離れて半年でもある。例え海砂の、月君のことが好きという気持ちが変わらなくとも、海砂自身の在り方に何らかの変化があっても不思議ではない。
「どうしたの、ライト?」
「髪……切ったんだな」
月君は海砂を嗜めるのではなく、そう言って柔らかく微笑んだ。
その言葉に、海砂はぴたりと私を撫でまわす手を一時停止させた。
「う、うん……」
海砂の手が恥ずかし気に髪の先へと触れる。肩につくかつかないかの長さに、革のチョーカー、金の髪は軽やかに風に吹かれていた。
私も、今更だけど驚いていた。
月君はいつものように「そろそろ離したらどうだ」と言い出すものだと思っていた。今まで一度でも、海砂のファッションを気にかけたことがあっただろうか?
「月君、やりますね」
「……やるって……」
Lは、楽しそうに私達を観察していた。
「けっこうバッサリ切っちゃった。……どう、かな?」
ようやく海砂は腕の力を緩めて私を解放すると、月君の方を向いて、えへ、と照れくさそうに笑った。
もじもじとしている海砂の姿は珍しい。けれど、月君の行動の方が意外だった。何をしたかと言うと__。
「あぁ、よく似合ってるよ」
「っ」
「でも、どうしていきなり?」
手を伸べて、頬に触れるような仕草で髪を梳いたのだった。あまりにこともなげに言う月君に、海砂は小さくその場で飛びのくようにして目を見開いていた。いつものハイテンションは不発になってしまったようだった。
「こ、こ、こんなの……ただの気まぐれ!ショートのウィッグも持ってたから自分ではあんまり新鮮でもないし……っ」
言葉を区切って、海砂の大きな目が潤んで月君を見上げる。彼女は頬を膨らませていたが、怒っているというよりも躊躇っているように見えた。
「……とかじゃないから」
「ん?」
ふいに呟いた海砂に、月君は聞き返した。
「だ、だから!」ミサはその場で地面を鳴らした。「き__気持ちが変わったとか__そういう訳じゃないからね!ライト!」
意を決して言ったのか、拳を握った海砂に、まるで不意を突かれたかのように月君は目を丸くしていた。そして思い出したように、他人事のように上の空で頷いた。
「……あ、ああ……そうか」
そして、それ以上は何も言えないのだろう。彼は手の甲を口元に当てて、足元に目線を落としてしまった。
海砂のすぐ隣に立つ私は、おろおろとその場を見守った。
なにか言葉をかけるべきだろうか。例えば「まぁまぁ二人とも」とか?でもこれは何だか松田さんっぽい。あるいは咳払いでもするべきか?それもわざとらしい。
これが捜査本部だったらスイーツを取りに行って逃げることも、スイーツを出して場の空気を入れ替えることもできるのに。どうやらスイーツのない場でスイーツ係は役立たずらしい。私はこの何とも言えない空気の中でひたすらに無力だった。
「……月君、海砂さんも」
やがて、のったりとした空気を纏ったLが、背中を丸めて二人の前に立った。そしてピースサインのように指を二本立てて見せた。2?チョキ?どういう意味だろう。
「二人きりでデートしたいのならどうぞ。私は夕陽とそうしますので、遠慮はいりません」
そしてLは口を横に開くようににっと笑った。
明らかにからかう様子のLに、海砂ははっとして両手をばたばたさせた。
「ちょ、何言ってるの!あ、そうだ!それよりっ」
海砂は月君から飛びのくように一歩離れると、誤魔化すように鞄に手を突っ込んだ。そしてごそごそと何かを探す。勢いよく「はい!」という声とともに引っ張り出されたのは、見覚えのある、猟奇的な人形ストラップのついた赤い携帯電話だった。
「それより、せっかくだから四人で写真とろっ」
その声とほぼ同時に__ぐいと腕が引き寄せられた。
それは月君とLも一緒だったようで、私達はいつの間にか海砂に身を寄せるようにぴっとりとくっつき、気が付いた時には目の前に携帯電話が掲げられていた。
「う、海砂……」
「はいはい、皆笑ってー!」
ぎゅーっと左右から圧迫され、小さな携帯電話の画面に四人分の顔が収まる。海砂以外、皆、私を含めて驚いた表情をしていた。
__え、あ、写真!?
「ま、ままま待って海砂!」
私は咄嗟にその携帯電話に手を伸ばした。黒い丸の部分のレンズを塞ぐ。撮影はまずい。Lの顔が記録に残ってしまうからだ。
「写真はちょっとまずいっていうか、竜崎が一緒に写っちゃうと__」
「私は問題ありません」
「へ」
気の抜けたような声に、私はLの方を見た。同時に海砂もそちらを見る。彼の隣で、月君はとっくに気づいていたように目を半分にして静かに呆れていた。Lの顔をみた途端、海砂は顔をしかめた。
「うげー、竜崎、センス悪ぅ……」
Lはひょっとこのお面をかぶっていた。私の脳裏に「手ぶらで来たよね?いつ被ったの?」と二つの疑問が沸き上がる。
「万が一のために持ってきただけです」
「……ねぇ夕陽ちゃん」
けろりと言うLを真正面から指さして、ミサは意見を求めるように私を見た。
「これで写真撮ったら、夕陽ちゃん、ひょっとこと付き合ってるみたいになっちゃわない?」
「海砂さん、うるさいです。蹴り上げますよ」
Lが平坦な声で毒づいた。
言い回しが以前の二人のやり取りでは「蹴りを入れる」だったのに「蹴り上げる」にエスカレートしているのを感じながら、私はLの肩に手を乗せた。
「まぁまぁ、これでみんなで写れるなら、私はこれでも嬉しいよ」
海砂は人差し指を口元に、私とLを見比べた。見比べたところでLはひょっとこのふざけた表情ではあるのだが、私が「うん」ともう一度頷くと、海砂も納得したようにぱぁっと笑顔になった。
「うーん、夕陽ちゃんがそう言うなら……まぁ、いっか!じゃ、もう一度みんな真ん中に寄ってね!」
明るい声とともに、再び目の前に赤い携帯電話が掲げられた。
「はい、いくよーっ」
小さな携帯電話と、小さな画面。
そこに映るために私たちはぎゅっと身を寄せ合った。月君と、海砂と、Lと__大きな電子のシャッター音がして、画面の中で四人の時間が止まった。
「えへっちゃんと皆写ったね!ね、夕陽ちゃん!」
海砂が嬉しそうに振り返り、保存ボタンを押した。
出来上がった画像は、とりたてて画質がよい訳ではなかったし、必ずしも皆が笑顔ではなかった(一人はひょっとこのお面だ)が、それでも、これ以上の宝物なんて無いように思えた。
本人たちがすぐ近くにいるのに、その写真を見ているだけで、なんだか泣きそうになってしまった。
「……うん、いい写真だね」
こみあげる感情に喉がきゅっと狭まる。すると、ふいに視界が翳り、頭上からぬっとLが顔をだして画面をのぞき込んだ。見上げたら彼はもう仮面をしていなかった。
「私が目を瞑っているようです。もう一度撮りなおしましょう」
指を咥えたLに、月君が横から呆れた視線を向けた。
「竜崎。お前は顔を隠してるんだし目を瞑るも何もないだろ……」
「本気にしないでください月君、冗談です」
「竜崎、ライトと話すときいっつも距離近いよね!夕陽ちゃんがいるのに、どうして?」
__月君と、海砂と、Lと。
出会いは最悪だったかもしれないし、別の世界では騙し合い、利用し合い、殺し合う仲だったかもしれない。でも、どれでもなく、ただふざけ合うだけの現在の私達をきっと、何も知らない人間ならきっと__友達と呼ぶのだろう。
「ミサ、これ待ち受けにしちゃおっと」
こうして友達でいられる世界もあるのだと、小さな待ち受け画面が教えてくれていた。
海砂に私にも画像を送ってくれるようお願いしようとしたところで、ぽん、と頭の上に重みが乗った。見上げると、それはLの白い袖だった。
「ん、竜崎、なに?」
「いえ、なんでもありません。ですが……」
Lはその袖で私の髪の毛を乱した。きっと撫でてくれているのだろう。Lは、優しいのだ。
「友達と写真を撮るのはこれが初めてかもしれません」
背後でLがどんな顔をしているのかは見えなかったが、私は大きく頷いて、そして笑った。
「うん……そうだね、私も」
頭の上にLの暖かさを感じ、月君と海砂と今でも友達でいられる現実を目の前にして、泣きそうでもあったけれど、でも笑った。
私はこう考える。泣きそうに笑うことも、無理に笑うことも決して間違っていない。正しいと思えばそれは正しいことだ。
なぜなら、かつて物語として定まっていた暗い未来を強引に変えることが出来たのだから、こうして願うように笑うこともまた、私にとっては正しいこと__正義といっていいはずだ。
笑いながら、今度は未来を変えるのではなく、守ろうと誓った。