Chapter 2
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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「夕陽、アイス」
「はい」
「コーヒー」
「はい」
「アイス、あ、そこのチョコレートの部分をお願いします」
「はいっ」
今現在私が何をしているかと言うと、黙々とマウスを使わずにキーボードでPCを操作し、「両手がふさがっている」と主張するLにスイーツを与えていた。
Afterwards -Chapter 2-
◇容疑者
「……おい竜崎……」
与える、なんて言い方は非常に誤魔化しのきいた言い回しで、実際のところはどこからどう見ても、所謂『あーん』の状態だった。
Lを挟んで反対側に座る月君も見かねたのか、腕を組んでげんなりと意義を申し立ててきた。
「どうかしましたか月君。月君もこうしてほしいなら松田さんにでも頼んでください。夕陽はだめです」
「……」
本気か冗談かどっちだ、という目を向ける月君だった。
「ワタリさんが不在にしてるからってやりたい放題すぎるだろ。おやつくらい自分で食べろ」
「……ワタリのことは関係ないじゃないですか。それにこれはおやつではなく補給です。夕陽、さくらんぼください」
「はいっ」
サクランボを持ち上げたところで、月君がはぁぁっと大きなため息をついた。
「どうして夕陽も何も言わずに従うんだよ……」
私はゆるく苦笑した。
「あはは、いや、自分で食べようよって初めは言ったんだけど……いつまでも自分じゃ手を付けようとしないからアイスは溶けちゃうし、コーヒーも冷めちゃうと思って……」
「そういうことです、月君。食べ物は大事にしましょう」
確信犯的ににやりと笑って、Lは椅子に大きくのけぞって私の手からサクランボをぱくっと口にいれた。なんだか釣りをしているか、鳥のヒナに餌をあげたような気分だった。
「お前なぁ……」
月君は呆れた目でLを見てから、同じくため息をつきながら私の方を向いた。
「夕陽も……そういうところが竜崎に付け込まれるんだ」
「えへ」
私は困っておどけて見せる。
「えへ、じゃないだろ。全く……家で粧裕を相手にしてるのと変わりやしない……」
手に負えないと分かったのか、月君は両手を広げてぼやく。一方Lはというと、既にPCでの作業に没頭していた。
無理して相手しなくてもいいのに、適当に流せばいいのに__私はそう思うけれど、敢えてつっこんでくれる月君の存在は本当に貴重だ。いや、真面目な話。
「お兄ちゃんだからついつい放っておけない性質なのかな?」
「……はぁ?」
思ったまま口に出すと、案の定呆れられてしまった。
実際、月君の言うようにワタリさんがいればLのマナーは父親のように嗜められるし、Lもいい大人でありながら口にしないだけで普通に拗ねている。そして拗ねながらも言うことはちゃんと聞いているのだ。
ワタリさんが出張だから羽を伸ばしたいというのは、やっぱりあるんじゃないかと思う。
「月君って竜崎のこと分かってるよねぇ」
「手錠つけて24時間一緒にいたら嫌でも覚えるよ……」
皮肉交じりに言う月君だった。でも、その表情は仕方なさそうにしながらも微笑んでいる。自覚してるのかな、月君。私までつい頬が緩んでしまう。
「えへへっ」
「……だから何で夕陽はそこで笑うんだよ……」
「ううん、なんでもない」
恨めしそうに振り返る月君にとぼける。
まぁ、なんでかと言われちゃうと__単純に、ただ嬉しいからなんだよな__なんて、とても照れくさくて言えない。
「月君、見てください」
「これは……」
Lに呼ばれて月君が画面を覗き込んだ。
かつては裏を読み合う仲__あるいは殺し合いに近い仲だったLと月君が、今度は二人で同じものを追っているという現在。そろそろ慣れてもいいはずなのに、私は今でもふとした瞬間にそれが嬉しくてたまらなくなる。素直に言ってしまったら、きっと馬鹿みたいだと言われるだろう。別にいいけれどね。
こうして皆と話せる今が嬉しい。
それが奇跡のようで、夢のようで__なんて今更、照れくさくて言えなくても、しかたのないことでしょう?
「夕陽、アイスください」
「あ、はい」
Lに促されて、スプーンを彼の口に運ぶ。それが最後の一口だった。Lは横目でガラスのアイス皿をちらりと見ると、今まで離すことのなかった両手をようやくキーボードから退けた。
「__見つけました」
椅子ごとくるりと回転し、Lは部屋全体に聞こえるように言った……訳ではないが、私達の言動には常に耳を傾けていたのだろう。部屋にいた捜査員が全員振り返ってその動きを止めた。
「……見つけた?」
「ええ」
真っ先に聞き返したのは夜神さんだった。Lは、部屋の中心のモニターに名簿のようなものを映し出した。皆の注目が集まる。
「これは……昨晩、メロって子が持って来た……」
「ええ。人質のリストです」
「…………」
捜査員たちは沈黙のままLの次の言葉を待つ。
つい昨晩、メロが『宇佐美春木の自宅に置かれていた』と、一言だけ述べて持ってきた貴重な証拠を、私達は人質リストと呼んでいる。
人名が50名ほどワープロソフトで打ち出されただけの粗雑なほどシンプルなリストだ。彼らが実在するのか、生きているのか、死んでいるのか__それは現在、皆で洗い出しているところだ。
何にせよ、情報は名前だけだ。そこには住所も年齢もない。重要な証拠とはいえ、リストからそれぞれの身元を洗うのは難しい。
__その中で一体、何を見つけたというのか?
「……【第二の警察官】です」
親指を口元に当て、Lは悪どい笑みを浮かべた。
そして、ふいに椅子の上に立ち上がろうとする。
「あわわっ……」
「夕陽、ありがとうございます」
私はぎょっとして不安定な回転椅子の背もたれを支えた。Lは私にそうやって声を掛けるも、まるで足元の不安定さなど意に介していないように片手をポケットに入れ、いつものように背を丸めた。
そして
「彼です」
と、モニターを直接指さした。
「__雨口臨(あめぐちのぞむ)、所轄の刑事の方です」
Lの指は、無数に並んだ名前のうち、漢字三文字の名前の前でぴたりと静止していた。私も背もたれを支えながらモニターを見上げた。
__雨口臨(あめぐち のぞむ)__【第二の警察官】?
珍しい名前だ。
それに、よりによって刑事さんが人質に加わっているなんて。
「け、警察官だと…?」
夜神さんが呻く。
「二人目……ということは、犯人の目的は警察殺しにあるのか?」
「いや、相沢……これはあくまで人質リストだ。彼は【まだ死んでいないし、これから死ぬかも分からない】。第一、人質リストと呼んでいることさえまだ仮定に過ぎない。デタラメの可能性だってまだあるんだ」
「……たしかに、そうですが……」
相沢さんは眩しいものを見るように目をしかめると、顎に手を当てた。そのまま推理は行き詰ってしまったようだった。
「で、でも……人質リストがフェイクでも、犯人の狙いが警察官殺しという線、ありそうですよね?その場合、次に死ぬのは……この雨口という刑事になりそうですけれど」
最も核心をついたのは松田さんの怯えた声だった。
__無数の人質はフェイクで、真の目的は警察殺し。
確かにそう思うのも納得がいく話だ。
一人目の殺人__宇佐美春木が警察官だったのは警察やLの注意を引くことが目的だったとしても、【無作為に選んだ】ことを強調している人質に二人目の警察が含まれていることは、とても偶然とは思えない。
偶然でないとしたら、犯人の目的が警察殺しで残りはフェイクかもしれないとも思うだろう。
「だ、だったらこのリストの中には三人目、四人目の警察官の名前もあるかもしれな__」
「いや、それはないだろう」
松田さんの声に、冷静に首を振ったのは月君だった。はた、と注目が集まる。
「僕の考えでは……この犯人の狙いは警察殺しではない」
しんと静まった捜査本部に臆することなく、月君は落ち着いてモニターを見上げる。そして隣のLと視線を見かわす。
「……竜崎。僕の考え、述べてもいいか?」
「ええ、是非。私も多分、月君と同じ考えですから」
__L、すごく楽しそう……。
自分の話を遮られることを嫌うはずのLは、けろりと大きく目を見開いて悪戯を仕掛ける前のようににやりと笑っていた。
「ありがとう」
隣の月君は至極真面目にひとつ頷いた。そして立ち上がり、皆をぐるりと見まわした。
「実は、僕も丁度……竜崎とは別のアプローチで捜査をして、そして同じ名前にたどり着いたんだ」
「……別のアプローチ?」
夜神さんが聞き返す。
まったく考えが及ばない私だったが、他の皆も同じようだった。
「キラは死の状況を思うままに作り出せる。死因、日時、状況、当然、死ぬ前の行動もだ。多少の制限があっても、それは些細な問題だ」
「…………」
月君が言うその言葉は、あまりに重みが違う__静まり返る空気の中で、「だから」と彼は一拍置いてから声のトーンを落とした。
「犯人の行動圏内と思われる東応大学周辺の地区で殺人事件がなかったかを調べていた」
__【殺人事件がなかったか】
「結果として、無かったんですよね?月君」
Lが問う。
「ああ。ノートは人を殺すことは出来ても、【誰かに人を殺させることはできない】__デスノートで殺人事件は起こせない。まぁ、当然と言えば当然だな」
それは私も思ったことだった。
ではなぜ、月君はそんなアプローチをとろうと思ったのだろうか。何の話をしていたかすら、迷子になりそうになる。
これは人質リストに記載された【第二の警察官】、雨口臨という人物の話だったはずだ。
「__だが」
月君がはっきりと何かを否定した。
「【殺人事件はなかった】が、【自殺】は一件だけ見つかった。しかも東応大生だ」
__自殺?
ぞくりと、鳥肌が立った。
「そして、その現場検証と周辺の聞き込みにあたっていた捜査員の一人に【彼】がいた」
腕を組み、月君が神妙に言った。
__……まさか。
「雨口臨、だ」
予想を立てる暇もなく、答えは得られた。
人質リストに記された刑事と、そして東応大学の近くで起きた不審な自殺事件の聞き込みにあたった刑事の名前の一致。その意味するところは一体……?
「これを見てください」
Lは椅子を回し、再度パチパチとキーボードを数回強く叩く。
そして画面に表示されたのは__。
「これは……警視庁の捜査報告書か?」
夜神さんがぽつりと呟く。
警察のシステムの、警察関係者であれば誰もが日頃目にする、見慣れたフォーマットだろう。Lは首肯した。
「ええ。雨口臨は、この自殺事件の発生後二日間、周辺住民や、自殺した学生の友人たちへ聞き込みを行っています。その時の報告書です」
__キラと自殺
__自殺と聞き込み、警察……
「そして……日付の通り、自殺事件が起きてからまだ20日と経っていません。いえ、正確に言えば__【23日】と経っていません」
「__っ!」
Lの言葉に、私は二人が何を言いたいのかを理解した。第二の警察官たる雨口臨は【操られている可能性がある】と、そういうことだろう。
「も、もしかして__」
私は声を漏らしてしまった。はっとして口をおさえると、Lが勢いよく振り返った。
「夕陽も、もう分かったようですね」
そうして、にたりと、確信犯的に笑う。
「言ってみてください」
足踏みのような躊躇に対して、Lからは有無を言わせぬ静かな強制が返される。彼の隣の月君も、まっすぐにこちらを見つめている。私は観念して呼吸を落ち着かせた。
「警察手帳……」と私は言った。
「聞き込みといえば、警察手帳を見せるか……「見せろ」と言われたら見せなければならない」
まさか、と遠くで誰かが呻いた。
私は、もう皆が推理に至っているだろう、その可能性を述べる。
「だから犯人は……【警察の顔と名前を得るために自分の家の近くで自殺事件を起こした】……そして、得られた名前を使って、【その警察官を操った】……」
そしてたまたま聞き込みに来たのが、【雨口臨】という刑事だっただけで、犯人にとっては顔と名前が得られればどの警察官でもよかったのかもしれない。純粋に道具としての殺人だ。
「私の考えも、夕陽と同じです」
Lは、真面目な眼差しで私の話を聞くと私の頭に手を乗せた。
「ああ、僕も同じ考えだ。この雨口という刑事は既にノートに名前を書かれ、操られ、そして現状、死んでも可笑しくない状況ということだ。もっとも、偽キラの予告では人質に死亡ペースは【三日に一人】と書かれていた以上、それは明後日以降になるだろう」
あっさりと述べると、月君はモニターを見上げた。
「つまり、この仮説が正しければ、大分容疑者を絞り込める。……この【雨口臨が遺した】捜査報告書の、証言リストを見れば__この中に、犯人がいることになり__むぐ、なんだよ竜崎」
ふいに、Lが袖を月君の口元に当てる。何事かと思えば、たった今何かに思い当たったように、口角が歪んで吊り上がっていた。
黒く大きな目も、さらに見開かれていた。
「__すみません、たった今、見つけてしまたもので」
「っ、は?見つけたって、何を?」
Lの袖を振りほどいた月君は、迷惑そうな表情を浮かべながらも何かを感じたようだった。捜査員たちは依然として静まり返っている。
「今、たった今、見つけたんです。捜査報告書の証言リストの中に、一か所だけデータが更新された箇所がありました。そのデータを復元したところ……」
Lは再びパチパチと強くキーボードを叩く。今度は警察ではなく別のシステムに入り込んでいるようだった。そして一分と絶たずに、画面には顔写真のはっきりと載った、プロフィールのような画面が表示された。
「一人だけ現役の東応大生が居ました。自殺した学生とも同学部……」
それは、明らかに一人の人物を指し示すデータであった。
「東応大学二年、文学部、桜葉愛蔵____【彼】が容疑者です」
「!」
「……っ」
容疑者が__絞り込まれた。
メロから持ち込まれたたった一枚の、紙きれによって。
でも、この後、一体どうなるのだろう。
Lはどうやって、彼こそが犯人だと証明する?どうやって、証拠の残らないノートの存在を証明する?__月君のときも、容疑者の特定までは早かった__。
一気に動き始めた事件に、私は考えをめぐらせていた。
しかし、見計らったようなタイミング、その時だった。
ピピピ……
ピピピピピ……
ふいにポケットの中で鳴り始めた。私は椅子から立ち、離れた場所でそれを受ける。
「はい、もしもし」
耳に当ててから、誰からの着信だったかを確かめずに出てしまったことに私は軽く後悔することになる。
もし、分かっていたなら。
『ひっさしぶりー!!』
__きーん。
この大声を予測して、音量を絞ったのに。
「み、海砂?」
『うんっミサだよー!』
耳から離しながら音量を下げる。それでも彼女のハイテンションな声ははっきりと聞こえてきた。まるでスピーカーモードだ。
「……海砂か?」
遠くから脱力した月君の声が聞こえる。私はその姿をみとめて受話器を耳に当てた。
「海砂、撮影で連絡取れないんじゃなかったの?」
『あ、あれねー、終わった!』
「そ、そっか。えっと……今竜崎と一緒に月君もいるけど代わる?」
『あー、ライトは大丈夫!』
__あれ?
あっさりと否定が返ってきたことに少々驚く。
『だってライトは番号知ってるもん』
「あぁ、そういうこと……」
『だーかーら!』言葉の途中でポーズでも決めたんじゃないかと言う勢いで、ミサが言葉を区切る。
『ミサは夕陽ちゃんに用事があってかけてきたんだよっ』
にこにことした顔が目に浮かぶ。
月君も、Lも、捜査員の皆までもが私達の通話に意識を向ける中、海砂はまたCMのような元気な声をだした。
『約束したお買い物、行こうよ!』
__約束、と聞いて。
あぁ、そういえば約束していた。初めて海砂と話した、東応大学のキャンパスで__直後に海砂は拘束されてしまったけれど。
「うん、行こう!いつ行く?」
『あははっ、何言ってるの?海砂のスケジュールはすっごくタイトなの!今からだよ!』
「えっ」
あ、ライトと竜崎がいても楽しそう!と思い出したように付け加える海砂だった。そして通話は『タクシー送ったからねっ』という、L顔負けの有無を言わせぬ行動力で強制終了してしまう。
「……あ、と……」
「行きましょう、月君。夕陽が心配です。海砂さんにも会いたいでしょう?」
「おい竜崎__っ」
呆然とする私の手を引いて、Lは手ぶらのままそそくさと捜査本部を後にしようとし、月君がそれを慌てて追いかける。
犯人像がいよいよ見えてきたこのタイミングで私達は一体、これから何をしようとしているのだろう?
__久しぶりに、振り回される予感がした。