Chapter 2
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Afterwards -Chapter 2-
◇かつてのキラ
「こうして複数人分スイーツの用意をするのも久しぶりな気がします」
「ほっほ、状況はともかく、賑やかなのはいい事ですよ」
私は一旦席を外し、ワタリさんと一緒に皆に抹茶アイスを取り分けていた。緊迫した面持ちの捜査員の皆さんと比べて、ワタリさんはいつものように穏やかな表情を崩さない。
「ワタリさんってやっぱり前向きですよね」
「Lには負けますよ」
「……それは、間違いないですね」
紅茶を乗せたトレーを押しながらモニタールームへ戻ると、既に部屋は薄暗く、大きなモニターに被害者のプロフィールが映し出されていた。
「……宇紗美春木。東応大学キャンパス最寄りの本応交番勤務の巡査。彼が手に持っていたコピー用紙は白紙でしたが、以前の爆破予告のように指紋照合用のライトを当てるとメッセージが浮かび上がりました。相沢さん、お願いします」
Lの視線を受けて、相沢さんが手元のPCを操作した。モニターの映像が切りかわり、例のコピー用紙の映像が映し出された。
相沢さんが説明を引き継ぐ。
「ここには前回の爆破予告のメッセージを送った方法も、今回の宇紗美春木の殺害についても、全て詳細に書かれている」
紫のライトの中で光る黄色い殴り書きの文面。
それは一瞬見ただけでは何と書いてあるのかは判別が難しい。しかし、ところどころの単語から、それは【犯行予告】を出した方法を明かしているものだと分かる。
「……なるほど抹茶アイスですか。ありがとうございます、夕陽。……つまり、偽キラは違和感なく多くの一般人に話しかける手段として、警察官を操ることにした……」
アイスの乗ったコーンを受け取り、Lは淡々とメッセージの内容を要約していく。
「そして操られた彼は自ら犯行予告の手紙を作成し、『怪しい手紙を受け取ったから見てほしい』と東応大学キャンパス内を歩き回った……私はイギリスにいましたし、月君もサークル活動などをしていないため実際にそれを目にはしなかったのでしょう。そうやって指紋を集め、より協力的な学生からは名前ももらった……ということですね」
「……そんな、単純な話だったの……?」
デスノートは死の前の行動を操れる。分かってたはずのことなのに、そこまでするという発想には至らなかった。デスノートは人を操ることで、ごく一部の例外を除き、基本的には何でもできる__かつてのキラがそこまではしなかっただけの話なのだ。
「み、自らの手口を明かして、この偽キラは一体何がしたいんだ」
「指紋を集めるためだけに、警察官の命が一人失われるとは……」
「指紋だけではなく、名前も、です。顔を調べることだってそう難しくはありません」
ニアの冷たい声が静寂を招く。
考えるまでもなく、それは善良な一般人の命が危険に晒されているということだった。
黙り込んだメンバーを見渡し、Lが指先でモニターを消した。
「偽キラはこうも言っています__【これから彼らを三日に一人、ランダムに殺す】__と」
「そんなことは書かれていない。一体何を見て言っているんだ、竜崎」
「それは」
手紙に書かれていない事項を語るLに、夜神さんが聞き返す。
「たった今、宇紗美のアドレスから警視総監宛てにメールが送信されたからです」
「な……」
「っ」
モニターに転送されたメールの文面が表示される。
『追記』という件名のそれは、『このメールが読まれる頃、私はこの世にいないでしょう』というふざけた導入から始まっていた。
「……『私の死を第一回目とし、これから三日に一人、誰かを殺します。犯行予告に指紋と署名を提供してくれた尊い善良なる一般人、彼らの中から選ぶことにします。キラにならそれができることを、貴方たちならよくご存知のはずでしょう』……」
文面を読み上げた松田さんが、絶望のままに硬直する。
膝を抱えたLがモニターを睨みつけた。
「メール自体は予約送信機能を使って送信されたものですが、問題は今までは【気づかなければそれでいい】とでも言うように暗号めいていたメッセージが、宇紗美春木という警察官が死亡した瞬間に、【これは偶然ではなくデスノートによる犯行だ】と示唆しだしたことです」
「…………」
ふざけている。
死神も、ノートの所有者も。
ノートはもう排除したはずなのに、また新たな死神が現れたということだろうか。
「……キラを名乗るなんて許せない。みんなで解決した事件なのに……それをもう一度、むしかえすようなことを……」
気が付いたらそう口走っていた。
はっとして顔をあげれば、皆一様に驚いたように私を見ていた。
「す、すみません……出過ぎたことを言ってしまいました」
「……いや、夕陽君のいうことは分かる。君は特に、守りたいものが近くにあったからな」
肩に手が置かれ、夜神さんが力強く頷いていた。
隣のLがくるりと椅子を回した。
「夕陽、これはキラではありません。デスノートという凶器をもってはしゃいでいるただの殺人鬼です」
「……」
「夕陽はいつも通り、変わらず私を守ってください」
「……竜崎」
そうですね、と後ろから明るい声がかけられた。松田さんだった。
「僕たちが経験者だから頼られちゃうって部分はあるかもしれないし、悪い気はしないっすよね!それによくよく考えたら毎日何十人と犯罪者が死んでいたキラ事件と違って、三日に一人ですし、被害は小さそうというか__」
「松田」
「すみません……」
元気づけようとしてから回ってしまういつもの松田さんを嗜める相沢さん。懐かしいような当たり前のような光景の一角で、様子が違うのはやっぱり月君だった。
「月君、大丈夫?顔色があまりよくないけれど」
「キラと名乗る意味……」
「?」
腕を組み、月君はぼそりと言った。
「キラと名乗る意味を考えていたんだ。竜崎、夕陽。警察もLも、このキラが本物ではなく、【偽キラ】だと知っている。本人だって知っている。かといって、何も知らない外部の人間へ向けられたメッセージでもない。嘘と知っている者にわざわざ嘘をつく行為……それを無意味だと……とても思えない」
「月君は、それをどう思いますか?」
前のめりになってLが耳を傾けた。
月君を全面的に信頼しているような雰囲気を感じる。
「キラと名乗れば……警察やLは真っ先に僕の動向を探るだろう。あるいは重要参考人として捜査に引き込むかもしれない。そして今回の件について無関係だと分かっても、解放はされないはずだ。偽キラは、【かつてのキラ】を巻き込もうとしているのかもしれない」
「…………そうですね。デスノートの所有者であれば、そういう考えにも至るでしょう」
「そして僕が巻き込まれれば、事件の状況をリアルタイムに知ることになる。つまり……夜神月という個人を知らなくても、【かつてのキラ】に対してメッセージを投げることはできる」
「そういうことであれば、気付いていないだけでメッセージがあるかもしれません。あるいは「見つけて欲しい」と、そう思っている線も十分考えられます」
周囲を置いてけぼりにして話を進めていくLと月君だった。何度見ても息の合った二人だと思う。夜神さんをはじめ捜査員の方々は二人を放っておこうといった様子でいる一方で、ニアはくるくると髪の毛をいじっていた。
「__ということですので、もしかすると現場……あるいは被害者の自宅なんかにはまだ手掛かりがあるかもしれませんね」
そうはっきりと言ったLは、何故かニアを見てにやりと怪しい笑みを浮かべていた。首を傾げる月君と対照的に、ニアはそんなLから不機嫌そうに目を逸らした。
「偽キラは慎重で臆病。大胆な手口の割に、舞台も役者も東応大学を利用しています。デスノートの能力に依存し、自分が逃げることを意識していない。あるいは月君が言った通り、何らかの狙いを持ってキラと接触を持とうとしている可能性がある。いずれにせよ犯人は、【東応大生】である可能性が高い」
「可能性……」
「ええ、5%です」
「…………」
可能性が高いという発言と、たったの5%の矛盾。
しかし、かつてのキラ事件を知っている捜査員は皆、その言葉に目を輝かせていた。5%がLにとっていかに大きな数字であるかを、彼らは知っているのだ。
「さ、さっそく調べましょう!」
「宇紗美が接触を持った東応大生から当たってみる」
にわかに沸き立つモニタールームの中で、影が差したように静かだったのはニア一人だった。私は自然とそれが気になった。
「…………」
部屋の片隅でロボットを抱き、ニアはいじけたようにくるくると髪をいじり続ける。
「……メロ」
と、一瞬だけ目を見開き、口がそう動いたような気がしたが、気のせいかもしれない。
◇
『__あるいは被害者の自宅なんかにはまだ手掛かりがあるかもしれませんね』
と、耳元の通信機からLの声がはっきりと聞こえた。
「あはは、これ完全にL気づいてるよね」
「……くそ」
「まぁでもさ、なんとなく『そっちは任せたぜ!』って言われてる感じしない?警察と鉢合わせする心配もなかったりして」
「お前は楽観的過ぎる」
「いいことじゃん!」
「……そういうところだ」
なんだかんだ楽しく会話ができるメロだった。
意外と突っ込み役、そして常識人かつ世話焼き。ニアとLと、もしかすると仲良しのマットと一緒にいる時ですら苦労人なのかもしれない。
「メロのこと、ときどき年下ってこと忘れそうになる」
「は?逆だろ」
「逆?」
「大体忘れてんだろ。むしろいつ自分が年上だって思いだすんだ?」
「えーと、それは……」
状況が思い浮かばない。
仕方がないので上から下へとまじまじ、彼を見る。しかし身長は高いし、仕草も大人びていて、まるで子供っぽさを感じないというか、むしろ……。
「あ、えっとー、チョコ!チョコレート!」
変に意識してしまいそうになったので、私はかろうじてメロの片手に板チョコがあることを指摘した。常にチョコレートを好む当たり、実に子供っぽいじゃないの。
「ふん」
しかしそれも鼻で笑われる。
「なんで!?」
「いまの空の真似してやる。『あ、えっとー、チョコ!チョコレート!』……どっちが子供だよ」
「…………もういいや、やーめた」
「……『もういいや、やーめた!』」
「ま、ま、それ以上真似しないでーっ」
やかましく喋りながらも、既に私達は宇紗美の自宅を探っている最中だった。
とにかく散らかった部屋で、多少触ったくらいでは侵入した形跡すら残らなそうだった。
「……嘘だろ」
そう易々と何かが見つかる訳ないか、なんて思ってたところでメロが立ち止まった。
「何か見つけた?」
「これ……」
そう言って、手袋越しにメロが持ち上げているのは罫線の入ったノートのようなものの切れ端だった。
指先で、まるでLがするように高く掲げている。
ただの紙____ではないのだろう。
「……遠くて見えないよ、もっとよく見せ__」
「っ触るな!」
「……メロ?」
唐突に叫び声をあげた彼につい身体が強張る。メロはその紙片を頭より高い場所で掲げたまま、それを裏返した。
裏返されたことで、さっきまで見えていなかった文面が露わになる。
____『宇紗美春木』
____〇月〇日、午前九時 心臓麻痺で死亡_______
__×月×日、【____________】という文面を__
「こ、これって……」
「死のノートの紙片だ」
「……っ」
「Lの言う通り、意図的にここに置かれたってとこだろう。本当に、舐めてやがる」
メロは俯く。
歯を食いしばり、必死に何かを抑え込んでいる様子だった。
「ほ、本物かどうかはまだ分からない……でしょ?」
「あぁ、だが、ここに書かれている【死の前の行動】は事実だ」
「……そっか。本物でも偽物でも関係ない……か」
メロは高く掲げていた手を下ろし、ノートの紙片を私に手渡すとその文面を読ませてくれた。しかし読み終わって「ありがとう」と返すなり、革のジャケットの胸ポケットへと押し込んだ。
「……空」
「なに……?」
「この紙片のことは警察にもLにも隠す」
「ど、どうして?」
「これがLや警察の手に渡れば、宇佐美春木の殺害容疑が警察やLにも及ぶ。その上、この紙片が本物かどうかも試す必要が出てくる……どういうことか分かるだろ」
「…………っ」
顔を知ったうえで名前を書くだけで人を殺せるノート、その効果は紙片にも存在する。
それを手にしてしまったが最後……否応なく容疑は発見者にかかるのだ。そして警察にしてもLにしても、それが本物か否かを無視して通ることは許されない。
「嫌……だよ。Lにも、警察にも……使わせたくない……人を殺させたくない……」
「だがそんな個人的な感情は通じない」
「…………」
「だからこれはここで俺達が回収する」
メロの決意に、私は胸を押えて頷いた。
これでいいのかは分からない。正解など誰が教えてくれるのだろう。通信機の向こうから、ニアが息を殺して『……メロ』とたった一言だけ声を上げた。
「…………あぁ、あと、Lに侵入がばれてるなら、それを渡しておこう」
「それ」と言ったメロの視線の先に、簡素に打ち出されたリストがあった。リストには名前が数十人並んでいた。
「これって……!」
「おそらく人質のリストだろう。【ランダムに殺す】って言ってる以上、こいつらを直接どうこうすることは出来ない。だが、何故これから殺されるはずの人質のリストが被害者の元にある?……Lや夜神月が言っていたメッセージかもしれない」
……だとすれば。
これ以上ない手がかりとなるだろう。まだ、人質たちがどんな人物であるかすら調べられていなかったのだ。指紋と照合するだけでも捜査は進展するだろう。
「……そうだね。一刻も早く解決すれば、この人たちのことは助けられるもんね」
たった一枚のリストを建前上の戦果とし、私達はノートの紙片という偽キラからの不吉なプレゼントを持ち帰ることにした。
『犯人は東応大生__』
『さっそく取り掛かりましょう!』
行きと同じはずなのに、帰りのバイクにさほど恐怖心は沸かなかった。ただ風が冷たく、耳元の通信機からはLや捜査員の声がラジオのように聞こえるだけだった。
……はずだった。
「……え」
一瞬、視界の端を何かが横切った。
白い大きな__人間位の大きさの何かだ。
バイクで数十キロという速度を出しているはずなのに、ぶつかった感覚も風もなく、ただ直行するようにすり抜けていった【何か】__人間ではない。それどころか、実体すらない。
「__!!」
__死神か__。
そう思った時にはもう遅かった。
白い何かは遠くの空へ飛び立ってしまっていた。
しかしどうしてメロには見えなかったのだろう。ノートの紙片に触れれば、死神が見える……。
「……そっか、手袋だ」
偶然、手袋を嵌めていたメロと、素手で触れた私との違いだった。もしもメロがあの時紙片に触れていたらバイクで追跡することもできたのだろうか__しかし、まだ遅くない。
ノートの紙片が手元にある限り、あの死神を追うことはできる。