Chapter 2
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Afterwards -Chapter 2-
◇別行動
「空、後ろに乗れ」
そんな台詞の20秒後。
東京のどこかの道路。メロが大きなバイクを運転し、私はその後ろに座っていた。
「ば、バイクってメロ、免許持ってるの?」
「免許なんかなくても勘で乗れんだよ」
……なんてことをジョークではなく素で言う13歳に、やはりどことなく「Lに似てるよなぁ」なんて思ったのもつかの間、メロはバイクに跨るなり勢いよく発進した。
「ちょっ、メロ、無理無理、安全運転!」
私はバイクに二人乗りなんて初めてだった。振り落とされる気がして、風を受けながらメロの背に掴まるのでせいいっぱいだった。
「うるせー。そのまま静かにしてろ。お前ならそんくらいの度胸あるだろ」
「何を根拠にそんな……」
「ニアが言ってた」
「えっ」
その問いかけに答えることなく、メロは野生的に笑うだけだった。もっともヘルメットに互いの顔は隠れているので、「どうせ笑ってるんだろうな」という私の想像である。
『メロ、空、最悪のタイミングです』
走り出してほんの数キロといったところで耳元からニアの声が聞こえた。
メロとお揃いのヘルメットの内側はトランシーバーになっており、同じ音声が流れるようになっていた。
「うるせー、運転中に話しかけるな」
『緊急事態です』
ただでさえ無免許で首都高を疾走するメロが安全運転を心がけている訳がない。それはただ単にニアからの通信に素直に答えたくないだけなのだろう。
「ニア、緊急事態って?」
不機嫌そうなメロの代わりに私が答えた。
『宇紗美春木が死亡しました』
「えっ__」
宇紗美春木。
東応大学近くの交番に勤務している巡査だ。
『つい先刻、午前九時頃、財布を届けに来た婦人の目の前で__死因は心臓麻痺です』
「チッ」
ちゃんと聞いていたのか、メロが舌打ちした。私達は互いの音声も耳元のスピーカーから聞こえるのである。とはいえ目的は三人でのグループ通話などではない。あくまでニアが呼び出された先での会話__即ち、Lの話を盗聴器を通じて中継するためのものである。
「急な呼び出しだと思ったが、そういうことかよ」
急な呼び出し__つい10分間くらいの話だ。
Lから「至急、こちらへ来てください」と連絡が入ったのだった。それに対応したのはニアだった。私とメロは別行動だ。
『ええ。現在、Lのビルには私のほかにも日本警察の元キラ対策本部されたメンバーが数名と、夕陽、そして……夜神月も居ます。皆、いよいよ偽のキラが動き出したことでLに召集をかけられたようです』
「メロ、一旦ホテルへ引き返す?」
ニアが言ったように、あまりにタイミングが悪すぎる。
「…………」
メロは答えない。
引き返すかどうか、という提案は念のためだ。何故なら私たちは今現在、ある人物の自宅に忍び込もうとしているところだったのだ。
ある人物__当然、宇紗美春木その人だ。
『Lの指示なら警察が動き出すまでそう時間もかからないでしょう。万が一鉢合わせした時のリスクを考えれば、そちらは一刻も早く引き返すことをお勧めしますが、メロ』
「…………」
ニアの提案に、メロはぴくりとも反応する様子なく沈黙する。ニアの言うことはもっともだ。しかし、強要するような響きもない。なんとなくメロの意見を尊重するような響きがあった。
メロは小さく息を吐いてから「うるせー」と言った。
「……ここまで来て引き返せるかよ。俺達の方が【早く気付いていた】……宇紗美春木が死んだってことは俺達の読みは間違ってなかったってことだろ」
俺達の読み__というのは、メロとニアの推理のことだ。
『東応大学を爆破する』という一見、荒唐無稽な悪戯のような文面に隠された無数の指紋たち。それらを集めることが出来た人物として、キャンパス近くの交番に努める警官ではないかという考えがあった。そして、学生の数人から実際に「キャンパス内を歩き回る制服の警察官を見かけた」という証言を得たのだった。その警官こそが心臓麻痺で死亡したとされる宇紗美春木だ。
「つまり、その警察官は偽キラに操られて行動していたということ……」
『そういうことです。犯行予告そのものを書いたのも、操られての行動でしょう』
状況を整理する私に、息をひそめたニアが肯定する。割って入るようにメロが冷たい声で「おい」と言った。
「ここで足を止めてLに追い抜かれる訳にはいかない。お前もそう思ってんだろ、ニア」
『どうでしょうね』
「チッ、そこではぐらかすなよ」
舌打ちをするメロは、しかし表情が見えないのにやはり不敵に笑っているんじゃないかと感じた。そして通信機の向こうでニアもにやりとニヒルに笑っているんじゃないかと、そんな気がした。
メロは信号待ちで停車していた車体を勢いよく発進させる。
「わっ」
「____ふん、このまま向かうぞ、空」
「……りょーかい」
このまま向かう__それならそれでいいだろう。
ニアが静なら、メロは動。
ニアが事件とLの動きを把握している間に、メロが実地に足を運び、何か一つでも手がかりを見つけるというやり方は、悪くない。ちなみに、私はただのフォローだ。ほぼ空き巣のような潜入捜査をしようとしているメロには、周囲の警戒などを行う、助手役が欠かせないはずだ。
「それにしてもお前、取り乱さないんだな」
メロの意外な指摘に、一瞬、自分にかけられた言葉だと気が付かなかった。
「えっと、私?」
「……ほかに誰が居るんだよ。まぁイギリスに戻ればお前みたいに緊張感のないマットって奴がいるけどな」
「ふーん……マットかぁ」
姿は見たけれど、実際に言葉を交わしはしなかった。なんとなくメロと仲がいいという話は何度か聞いた気もするけれど。
「あいつは自分も含めて世界をまるごと全部ゲームかなにかと思ってるクチだけどな。……お前には世界はどう見えてるんだ、空」
それはメロのジョークか軽口かもしれなかったけれど。
不思議と心に響く問いかけだった。未だに現実を現実とは思えない、私への問いかけ。
「……物語の世界に飛び込んだような気分かな」
「物語ねえ……」
現実とゲームを混同しているらしいマットとの会話に慣れているせいなのか、メロはさほど大げさには捉えなかった。それとも、ワイミーズハウスには多少、不思議な言動を取ったからといって珍しくもないのかもしれない。どちらにしても、それが心地いいと思った。
「だから、これが現実でも物語でも、きっと悲しい展開にはしたくないなって思う!……まだ、間に合うよね?」
はん、とメロが得意げに笑う。
「まぁ。俺にはどうでもいいことだけどな」
「わっ」
そのままスピードを上げたので、私は急いでその背にしがみついた。
「ちょっ、メロ!」
「うるせー。急ぐぞ」
『…………』
通信機の向こうでニアは呆れていた。__のではなく、Lのいる部屋へと戻ったのだろう。代わりに複数の足音がして、やがて『皆さん揃いましたか』というLの声が聞こえてた。
◇
「月君……この事件のこと、もう竜崎から聞いてたの?」
「……あぁ、つい昨日」
電話を受けたきり、口数少なくなってしまった月君だった。
「月君、さっきの話さ……」
「…………」
当然、私達はその後の講義に出席することもく、キャンパスの前でタクシーを呼び、Lの待つ旧捜査本部ビルへと向かった。月君にとっては久しぶりでも、きっと懐かしいという気持ちは起きないのかもしれない。エレベーターに乗って薄暗い廊下を進む間も彼は終始無言だった。
「夕陽、月君。お待ちしていました」
自動ドアが開くと、すぐそこにLが立っていた。
片手に緑色の棒キャンディーを持って、ぎょろりと月君を見た。
「あ、夜神さん達も来てる……」
「ええ。急な呼び出しで全員とはいきませんでしたが」
部屋の奥を覗き込むと、夜神さんと、相沢さんと、松田さんが緊張した面持ちで座っていた。松田さんは困ったような表情のままひらりと手を降り返してくれた。
「竜崎、僕は……」
「月君、いきなりですがまずは紹介したい人がいます」
「紹介?」
俯きがちな月君は、Lの突飛な言葉に眉をひそめる。Lは指を咥え、道を開けるような仕草で大きく振り返った。
「はじめまして夜神月。ニアです」
Lの後ろで椅子から立ちあがり、こちらへ歩いてきたのはニアだった。ちらりと周囲を見るも、メロは来ていない様子だった。
「ニア……?」
未だ表情の曇った月君は、説明を求めるように、自分よりも一回り以上身長の低く、そして幼いニアとLを見比べた。ニアは白いパジャマのまま大きなロボットを片脇に抱え、Lは無表情で指を咥えている。
「ええ。ニア、ところでメロは?」
「さぁ、知りません。別行動です」
「…………まぁ、いいでしょう」
指を咥えたLは、甲斐甲斐しくニアの肩に手を置いた。嫌がるそぶりを見せるニアを見て、少しだけ楽しそうだった。
「ニアのことはワタリと同じく『Lの仲間』と思っていただければ結構です。見ての通りまだ幼さの残る年齢ですが、彼は優秀ですから」
「Lの……仲間……?」
「……よろしくお願いします」
ニアがす、と無表情に腕を差し出す。
長い袖に手が隠れていたため、それが一瞬何の仕草かと迷いそうになるが、おそらく握手を求めているつもりなのだろう。月君もすこしだけ躊躇って、右手を差し出した。
「記憶がなくとも、旧キラの貴方の意見は参考になるでしょう。互いに協力し合いましょう」
警戒しているのか、そこに子供らしい感情が混ざっているのか、ニアの言葉はL以上に冷めた物言いだった。
がたりと、椅子を鳴らして松田さんが立ち上がった。
「っおい、ニア、月君にそんな言い方は__」
「やめないか、松田。そういうのはもう……沢山だろう」
「……局長」
夜神さんがそれを制した。
松田さんは納得しきれないように眉を下げ、ニアと月君を見比べる。
「……局長の言うことは分かりますが……」
キラの記憶、キラの罪の所在。
それは解決した事件であっても未だデリケートな問題であることに変わりはない。不必要に刺激したニアを、月君の肩を持つ松田さんは許せなかったのだろう。
月君が力なく松田さんに歩み寄った。
「いいんだ、松田さん。父さんもありがとう」
「月君……」
「……皆、僕は自分のしてきたことを分かっているつもりだ。Lが僕を許し、法に裁かれなくとも、【夜神月がキラだった】ことを知っている者が僕を許さないというのなら、それは当然の報いだ。僕もそれを受け入れるべきなんだ」
月君は周囲を見回した。
L、ニア、松田さん、夜神さん、相沢さん、そして私も。
「でも、だからこそ……許せない。怒りでも正義でもなく、僕の責任として……僕は、この事件を解決しなければならない」
ぐるりと一周、冷静にまっすぐ一人一人に訴えかけるようにした。
「当然です」
静寂の中、じとりと視線を上げ、平淡に言い放ったのはLだった。
月君はその言葉に目を見開く。
「私は月君なしで捜査するつもりはありません。嫌だというのならまた手錠をしてでも捜査に引き込むつもりでしたが。やる気があるようで安心しました。……ということで皆さん、そろそろ座ってください」
不敵で無敵な、毅然としたLの言葉。
いっそのこと冗談に聞こえてくるほどに当たり前のように言う表情に、月君ですら言葉を失った。