Chapter 2
夢小説設定
この小説の夢小説設定Guardianの設定を引き継ぎます。
◇Lより主→Guardian主人公。元死神の人間。
◇ワイミーズより主→Guardianの間、夢を見ていた人間。記憶喪失の為、詳細設定はなし。
色々(本編)あって二人はまったく同じ外見です。
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Afterwards -Chapter 2-
◇Prologue: 傍観する者
『なぁ、あの手紙、結局どうなったんだろうな?』
白い死神は、静かな部屋でのんびりと話し出した。
「……一般人の僕には、あの手紙がその後どうなったのか知る術はない」
少しの間を置いて、思慮深そうな青年の声がそれに答えた。
乱雑に本が積み重なった部屋に、作業机が一つ。ワンルームの和室を無理矢理、書斎に仕立て上げたような酔狂な空間だった。声を発したはずの青年の姿は本の山に隠れていて、死神からは全く見えない。
『えー、せっかく頑張って計画立ててたのにな』
「……はは」
がっかりした様子で間延びした声を上げた包帯のような白い死神に、彼は少しだけ本の山の影から笑ったようだった。
「でも、問題はないよ。【あの警察官】が大学構内で聞き込みしているのは実際にこの目で見かけたし、知り合いのミーハーな奴が『なんだか目立つ行動してるやつがいる』って言ってたし……ノートの操りはちゃんと効いてる。彼が死ねば流石の警察もLも気づくだろうし、たしかその期日も……あぁ、今日だったな」
そのあまりにつまらなそうな物言いに、死神は興味を持って彼の表情を覗き見た。
本の塔を迂回し、青年の作業机の傍らにゆらりと立つ。
「…………」
予想通りだった、と死神は人間がするようにため息をつくフリをしてみた。
ぼさぼさの茶髪に、若干オーバーサイズに見える眼鏡。思慮深い、あるいは神経質、または気弱そうな青年は机に噛り付くように頭を伏せていた。その奥の瞳には意志も光もなく、ただ、デスノートとも死神とも、ましてや正義とも全く関係のない作業に没頭していた。
彼の頭の上にふらふらと漂う名前は__桜葉愛蔵。
没頭している作業の表題には東応大学二年、との文字がある。
「何、レポートの内容が気になるの、アーマ」
『いや、そうじゃないが……』
どうやら自分との会話は片手間の作業だったらしい、と死神は気付く。
初めてデスノートでの殺人で【人が死ぬ】日だというのに、それすらもまるでたった今気が付いたように、どうでもよさそうじゃないか。
白い死神は、今度は疑問に思う。
青年____桜葉愛蔵とは友人として長い付き合いだ。その性格は熟知している。だが、彼だって人間だ。人間はなんというか、こう……命に関して小うるさく拘りを持つものではないのだろうか。
『なぁ愛蔵』
「………ん、何、アーマ」
『愛蔵は普通の人間か?』
「……僕は一度だって自分のことを特別だと思ったことはないよ。もっとも、客観的に見れば現在は【簡単に人を殺せる】能力は有しているし、まぁ、いくら普通だと言い張ったところで、それは謙遜のように聞こえてしまうんだろうけどな」
持って回った言い回し。
要するに、「僕は普通の人間です」という意味でいいのだろうか、とアーマと呼ばれた死神は首を傾げつつも理解することにした。
『じゃあ、愛蔵は人間のことをどう思ってるんだ?』
もぞりと、桜葉愛蔵は顔を上げた。
作業を中断する程度には答えづらい質問だったらしい。
「……それは難しいし、僕にとっては真に迫る、本質的な議題だよ。易々と思い付きの戯言で答えることはできない……だからこそ僕はそれを【これから確かめようとしている】んだ。焦らないでくれ、友よ」
『確かめる……でも、愛蔵にだって感情があるだろう。そこのところぶっちゃけさ、愛蔵は人間のこと好きなのか?それとも、嫌いなのか?』
桜葉愛蔵は椅子に大きくもたれ掛かり、オーバーサイズの眼鏡の位置を正した。ぐしゃぐしゃの茶髪と長い前髪に隠れ、端正なはずの顔は気難しそうに歪んでいた。
「僕に『お前は人間か』と質問したうえでそれを聞くのかい、アーマ」
『友達だから気になっちゃうんだ』
「……なら、嫌いだよ。死神の君が唯一の友だってはっきり言えるくらいにね」
軽く肯定しながら、桜葉愛蔵は心の中で訂正する。
人間そのものは嫌いではない。ただ、彼らの持つ【攻撃性】は心から醜く、悲しくて哀れだと思う。
人間は攻撃的だ。さらに、自覚がない人間の多いこと多いこと。ことに正義が絡むと目も当てられない。人はその攻撃性故に正義と暴力を混同し、正当化し、やがて風化させ、忘却する。……なんて議論自体が既に攻撃性を帯びていて、嫌気がさすというものだ。
だから嫌いと言うよりは__好きになれないのだ。そして殺したいとは思わないが、死んでも構わないと思っている。それは自分とて例外ではない。
『うふふふ』
アーマは木の枝のような両手を顔の前にかざして笑った。
『__唯一の友、唯一の友、つまり愛蔵の友達はアーマだけか。嬉しいな。うふふ、なんたってアーマは忠実な友、だからね。その辺の死神とは違うよ』
「分かってるさ」
こともなげに答えた桜葉愛蔵に、アーマは向き直った。
蝶や蛾を思わせる複眼、そこに浮かぶ人間らしい表情は無い。しかし彼は真剣だった。
『だからアーマはこう思うんだ。__【愛蔵は普通の人間とは違う】__だって、あのキラ事件を、【ノートを持っていながら傍観に徹していた】のだから。人間は命にはうるさい。奪うも守るも、どっちもうるさい。それなのに君は全くノートを使おうとしなかった。使いたくないんじゃなくて、どうでもいい。そう言ってた君はとても静かで、つまらなそうで、死神みたいだった……』
東応大学二年。文学部。
桜葉愛蔵(おうばあいぞう)
彼がノートの所有者となった時期が夜神月と同時期だったのか、それともより早かったのかは定かではない。しかし彼はキラ事件において全く動かなかった。キラによる裁き__それが死神のノートによる仕業だと分かっていながらだ。
彼はデスノートを手にしながらもそれを一度も使うことなく、ぼんやりと、輪の外から、メディアによって報じられる情報の片鱗だけを無感動に、むしろ関わりたくないと願いながら俯瞰していた。
『……愛蔵。【これ】は君らしくない。何故今になって__』
「__アーマ」
愛蔵はがたりと椅子を鳴らした。
「…………あまり僕を煽らないでくれ。お喋りはここまでにしよう、僕は今レポートの執筆に忙しいんだよ」
彼は乱れた茶髪をぐしゃりと握ると、再び頭を抱えるようにして机にかじりついた。レポートの作成、と言ったのに、彼が手にしているのはパソコンではなく万年筆、そして紙のレポート用紙だった。アナログな持ち物を用いる彼もまた、周囲からは浮きそうな簡素な着物を着用していた。
アーマは寂し気に背中を丸くした。
『愛蔵』
「…………」
『あいぞーう』
「……何」
『あの緑色の果実、食べてもいいか?』
彼が積み上げた本の山、それの一番高いところに、白い皿とマスカットが一房、水滴をきらきらと光らせて乗っていた。
「……勝手に食べていいっていつも言ってるだろ」
愛蔵はもう顔を上げない。
『__ふん、なら食べちゃうもんね』
いじけたような気分で、白い死神のアーマは小枝のような腕を伸ばし、瑞々しいマスカットを一粒、探偵のLがするように大げさな仕草で飲み込んだ。
『いただきます』
__おかしい。
『僕は何もしない』ってあれだけ言ってたのに、何が君を動かしたんだ、愛蔵。一体、君は何がしたいんだ。
変わってしまった愛蔵に、忠実な友を自称する死神のアーマは少しだけ寂しさを抱えていた。
__だって、下手にノートを使って逮捕でもされたらもう一緒にいられなくなるじゃないか!