色彩/うたかた
あなたの名前は?
この物語について*短編
*連載関係ない短編も含まれます
*基本恋愛要素ありor 悲哀あり
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** うたかた/色彩 **
8月末。
湿った空気に、リンゴ飴や綿あめを手に持った鮮やかな人々。当然のように気温は高く、日差しもないのに、汗が止まらない夜。
そんな色とりどりの人々でにぎわうのは、去年も来た夏祭り。
私は浴衣を着て、ちゃんと下駄も履いて、準備万端だ。慣れない足取りは、人混みの中でもからんころん、とおぼつかない音を立てる。
行き交う背中たちの中に、私は白い服の面影を探す。きっと君のことだから、浴衣なんて着ていないんだろうな。そして何もなかったみたいに、ふらっとあらわれて、リンゴ飴をかじっていたりするんでしょう?
「………やめた。」
言い聞かせるように口にして、歩き疲れた私は道端の生け垣に腰を下ろした。
お腹がすいてきたのに、ひとりでは何も買う気になれなかった。そろそろメインのイベントの時間だ。空っぽの花火が遠くでどん、どん、と空気を揺らした。
あの夏の私たちは、花火の時間を間違えていて、こうして人ごみから離れた遠くからみることになっちゃったんだったっけ。そうしてこっそり君の横顔を盗み見たんだったな。……だめだ。せめて思い出さないようにしていたのに。こんな日にはやっぱり思い出してしまう。
「…ううん、もう今更か。」
綺麗に着飾った髪も、浴衣も、下駄も。あの夏と同じ。そんなことをしても、君がいてくれる訳じゃないのに。思い出をなぞっている。ほんとうに馬鹿だな、と思う。
だったら、せめてここで思い出してみよう。
___君といたあの夏の日を。