cry
あなたの名前は?
この物語について*短編
*連載関係ない短編も含まれます
*基本恋愛要素ありor 悲哀あり
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「シアン」
私を呼ぶ声は、いつだって一歩先から。
大好きなあの白いシャツの後ろ姿が、どんどん遠くなっていく。
「すぐ戻ります」と言って、私の頭を一回だけ撫でて、
背伸びをすれば高いところに、一歩追いつけばあなたの姿はもう見えない。
「L…、また会えるよね…?」
いつか一緒に歩きたいと願う私を、いとも簡単に置いて行ってしまって、
無理に見送って笑顔を浮かべる私に「シアンは笑顔が似合います」なんてありきたりなことを言って。「ええもちろん」と背中を丸めて歩いていく。
決して追いつくことはなく、
「シアン」
____「シアン、ここでお別れです。」
__それは、夢ですらない、私のおそれ。
「おはようございますシアン。といっても、夜中ですが。私以外みんな寝てますよ。」
「……」
「シアン?」
__ほら。ちゃんとLはここにいる。いつもみたいに大きく目をあけて、親指を口元にあてて、「ぬぼーっと」てな感じに猫背で振り返ってるよ。大丈夫、大丈夫。
心の中でもう一人の私が言葉を紡ぐ。
「…そっか。じゃあ私も、戻るね。」
姿が見られただけで十分だ。もう寝よう、と思った。今夜はもう笑えない。
遅くまで仕事をしていたLと、早々と寝て、子供のように嫌な夢を見ただけの自分。
…情けないし、手が届かない。存在が、あまりに違いすぎる。
それなのに、このままここにいたら、Lの手を取って「一緒に逃げよう」なんて言い出しかねないくらい、頭の中は複雑で、論理的じゃなくて、変なんだ。今夜は。
「待ってください。」
ぺたぺたと、ドアに向かう私をLが通せんぼする。問い詰めたいのか、心配してくれているのか。優しさのつもりなのか。…そういうところがあるから、貴方はたくさんの人の信頼を集めるんだ、と思った。アイバーとか、ウェディとか、ニアとかメロだって…きっともっといるのだろう。
__笑ってふざけることしか取り柄のない私に、かまわなくてもいいのに__
「どいてL、私、寝なきゃ…」
正面に立たれて、視界がその白いシャツでいっぱいになるほどに、私の退路は断たれていた。
喉の奥が締め付けられるように痛んで、私はもう顔を上げられなかった。
見せたくない。見られたくない。こんなことで甘えて心配かけさせるのなんて、望まない。
「泣きそうなら…今ここで泣いてください」
涙なんて見えていないはずなのに。
私の誤魔化しも強がりもずべて「聞こえません」とでも言うように、頭の後に手が回る。大きく包むような力で押されて、Lのシャツと私の額がぎゅっと触れた。
「どうせ私だけです。」
上から降ってくるような言葉は、声は、私の胸の奥を揺らす。
その声は優しすぎて、さらにさらに涙を誘う振動になっていく。
「…泣き終わるまでずっとこうしてます。」とLは言った。
訳も聞かずにLは、いつだって私を救い上げてしまう。
相も変わらずそれは私にとって光のようで遠い。
決して近づくことのない、平行線を横になぞるような憧れ。
泣いても泣いても頬を伝う涙は、Lの言葉を聞いて息を吸うごとに引いていった。
「…シアンを一人にしたくありません。」
規則的に肩を動かし始めた私に、Lはぼそりと言った。
私の肩をゆっくりを引き離すと、その両手をポケットにしまいこんで、私と同じ目線になる。
「シアンは一人でいたらだめです。なぜでしょう?…どうしてかとても、気になってしょうがないんです。」
憧れたはずの探偵、Lは、不思議そうにそう言った。
いま思い返せば、その不思議に、その問いに、私は答えてあげなきゃいけなかったのだろう。
「ねぇ、L、まだ、遠くに行かないでね。」
____L、私は、貴方が居なくなることがこわくて、恐ろしくて、それくらい大好きで、泣いていたんだよって。
___それが叶わなくても、せめて、好きだよって……。
「はい。必ずシアンに会いに戻ってきます。」
そんな約束のもと、小さなアラームのような機械を置いて、Lは消えてしまった。
「あなたが戻ってくるまで、泣かないよ」
私はそれを抱きしめる。
赤い光の点滅は、Lの鼓動。