色彩/うたかた
あなたの名前は?
この物語について*短編
*連載関係ない短編も含まれます
*基本恋愛要素ありor 悲哀あり
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
__あぁ、結局叶わなかったな。ああやって竜崎を元気づけようとしたけれど、やっぱり悲しいよ。
去年と同じ場所、同じタイミングで座ったのはいいけれど、隣にいてほしい人がいないのが、こんなに寂しいなんてびっくりだ。
__「花火がひとつ開くたび、そして消えるたびに思い出すの。去年はこうだったな、そして今はこうだな、みんなは今どうしているんだろう、会えない人は元気かなーって。」
と、想像でしたためた言葉を思い出した。
その問いに答えを出すならば__“去年は竜崎が一緒にいたな、今年は一人だな、会えない人は、元気じゃない。” になるのだろう。
「あーあ、こんな気持ち、知らなきゃよかった。」
そう口にするも、正直、忘れたいなんて思ってはいない。
時間が優しく掬っていってくれる思い出は、いつか美しくなったり、痛みを消してくれるはずなのに、君の姿が焼き付いて離れない。
もう二度と会えることはないのに、やっぱり会いたい、会いたいんだ。
__「来年は、私も浴衣を着てくると約束します。」か。
「ずるいよ竜崎。やっぱり嘘。……って私も嘘か。だって、こんな花火なんか、ちっとも綺麗じゃないし、楽しくないし……」
悲しい気持ちを受け入れたところで、大きな金色の花火がひとつはじけて消えた。光は最後に何度かきらきらと瞬いて、名残惜しそうに煙を残した。胸がちくりと痛んだ。
「花火が嫌い。夏が嫌い。浴衣も嫌いだし、何やってるんだろう、私…」。」
耐え切れなくなって、私は浴衣もいとわず、ベンチに丸くなって、2つの膝に顔をうめて、ただ蹲った。耳を塞いでも花火の音が手のひら越しに聞こえてくる。にぎやかな歓声も時折伝わってくる。
「シアン、花火見ないんですか。」
と、聞き覚えのある声が聞こえた。__ような気がした。大体、打ち上げの音に交じって、良く聞こえない。本当にに竜崎の声なわけがない。私は、一人で、ずっとあの日から竜崎に会えていないんだ。
「シアン」
今度は名前を呼ばれた。蹲ったまま、涙があふれてきた。もう駄目だ、もう、忘れよう。
「……」
こつん、と頭のてっぺんに何かが当たった。…枝でも落ちてきたかな。虫だったら怖いな…と、そう思って泣き顔をかばいながら顔を上げた。
「………うそ…」
「シアン、どうして泣いているんですか。甘いものが必要ですか?」
と、浴衣姿で綿あめをこちらに差し出す竜崎がそこにいた。
「え……ほんと、本物?…りゅう…」
立ち上がり、手を伸ばし__勢い余って躓いたところで、手が触れた。それは夢の中で繰り返しおいかけた白色のシャツではなかったけれど。熱を帯び、ちゃんとそこにいる…
「本物です。もうシアンに嘘はつきません。貴方はいろいろと気にするでしょうが……積もる話はあとにしましょう。__今年も一回きりの花火です。せっかくですから。」
竜崎は立ち上がった私を座らせると、自らも浴衣のまま、当たり前のように隣に座り込んだ。微笑まれても、呆気にとられたままの私は、きっと涙も拭わずにいたのだろう。ふわりと風が吹いて、頬がひんやりとした。ぱん、と軽い音とともに小さなあ花火が色とりどりに空を染めた。
「今年も綺麗です。シアンの言う通りですね。」
花火を見上げながら、竜崎は涼しげに口角を上げた。浴衣を着た姿でも、まるで変わらない。精悍な瞳は、鏡のように花火を映し出す。
「花火が一つ消えるたび、過去や現在に思いを馳せます。そこに隣に大切な人がいると嬉しい。そう思います。そして未来にも。本当にその通りでした。」
「………っ」
その言葉に、空想ではなくなった物語に、思わず胸が詰まるような心地で、私はただ肩を上下させた。まだ、言葉が形にならなかった。
私に向かって竜崎はふと口元を緩めると、綿あめを差し出してきた。えいっと強引に押し付けるような雑な手つきだった。背後で、滝のような音の光が溢れ落ちた。
「なのに嫌いなんですか?」
片手に綿あめ、もう一方の手を口元に充てて、不満そうに、どこか試すような口ぶりだった。もう私の視界はたくさんの光と、竜崎の姿を収めるのに精一杯で、モザイクのように霞んでいた。
じーっと、いつものように表現するならじとーっと、一年経っても変わらないその視線で私の反応を待っているようだった。私達の後ろで で大きな花火を思わせる笛のような細い音がした瞬間、私はたまらなくなって言葉を紡いだ。
「……嫌いじゃない!……好き、……暑くて、ちょっと息苦しいような夏の空気も、花火の音も……みんなが同じ空を見上げて同じ色に染まる風景が大好き。私は……竜崎が大好き。」
一度は闇に消えながら、華やかに空に花開いた錦冠。金色の光が空一面に今年の音色を刻んだ。竜崎はその音が止むのを見届けると、私の頬に手を伸ばした。
「はい。私もシアンが__大好きです。」
逃げたくなってしまうほどに嬉しくて恥ずかしい言葉の後ろで、冗談みたいにハートの花火が二つ、打ちあがった。竜崎が横目でそれをみる。なんだあれは、といった表情で。ハートは逆さまだった。
「っ……あはは」
「シアン」
可笑しくなって笑うと。
__視界が塞がれて、言葉も遮られた。溶けた綿菓子が甘い吐息になっていた。浴衣のざらりとした触感、夏の空気で微熱を帯びた体温、そして自分の名前を呼ぶ大好きな人の声。
そうだ、私は、その声と瞳に恋してたんだ。あの夏も、そして。今も。きっとずっとずっと先も。
「また来年、約束ですね。」
君とみていた、空の光。夏の色彩。それは、うたかた花火。
いまでも思う。夏の日を。
たとえ薄れても、何度でも、鮮やかに。