色彩/うたかた
あなたの名前は?
この物語について*短編
*連載関係ない短編も含まれます
*基本恋愛要素ありor 悲哀あり
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは、ある夏の日のこと。
「竜崎、花火って見たことある?」
夏の日、昼も夜も暑い中、捜査本部はいつでも変わらず冷房の中。私も竜崎も、まったく季節感のない服装で平常運転だった。ロールケーキをまるごとフォークにさす竜崎に、私は何気なく尋ねた。
「ありますよ。年末、ニューヨークで派手なのを見ました。」
隣でモニターを眺めながら、こともなげに竜崎が答えた。
まぁ、そうか、と思う。花火は今では日本だけってこともないし、夏だけってこともない。しかも竜崎はアメリカで見たんだ。すごいな、なんだかいろいろな意味で遠い。
「そっかぁ。すごいな、アメリカ。」
なんとなく残念な思いで、私は納得して話を終える。手元のスイーツ雑誌に、大々的に取り上げらていた花火カレンダーを私は隠すように閉じた。今日はもう8月も終わりかけている。カレンダーの上では夏はとっくに終わっているし、この花火カレンダーでも、もう残る日程はほとんどない。
「駅前の人たち、浴衣着てたから気になったんだ。」
「あぁなるほど。あまり気に留めていませんでしたが、今日は花火でしたか。」
「うん、そうみたい。というか、夏まつりの一部って書いてあった!」
私はデパ地下の入り口で見た大きなポスターの映像を想い浮かべる。おみこしとか、浴衣の女の人とか、金魚を背景に、大きな炎の花が開いているポスターだ。
「でもみんな、花火とか怖くないのかな?」
「………。」
世間話のように話していると、ふと不思議なものを見るように竜崎がこちらを見ながら沈黙する。あれ、なにか考えさせるようなこと言っちゃったかな、と私はじっとその言葉を待つ。
「あ、ごめん、仕事の邪魔だった…かな?」
「花火、見たことないんですか。」
「えっ」
「シアン、花火をみた経験は?」
「な、ないけれど……写真と映像でどういうものかはよく知ってるよ?」
「…………。」
「わっ!」
また黙ったかと思うと、竜崎は突然ガタッと、前のデスクを揺らしながらソファから飛び降りた。もとい、立ち上がった。
「シアン、このあと、予定は?」
「…?これといって無いよ?いつも通り片付けしたり…です。」
どうやら竜崎が何かを思いついたらしいことは感じ取りつつ、それでも追いつけない私はきょとんと答える。
私が予定がないと答えるなり、竜崎はポケットから携帯を摘み上げた。
「ワタリ…そうです。はい、お任せします。では。」
いつものことながら、竜崎の方から電話をしたはずなのに、目の前の私に用件が全く推測できないのはどういう仕組みなのだろう?私は予定を聞かれた手前、その様子をふわふわと見守るしかない。
「シアン、ワタリがすぐ来ますので、自室で待っていてください」
機嫌良さそうに、竜崎が電話を切る。すると、本人はまたパソコンモニターの前に戻って座り込んでしまった。本当に、なんなのだろう?
いっそ何なんですか?と聞いてしまえばよかったのだけれど、なんとなく竜崎が楽しそうだったので、私は大人しく言われた通りに自室に戻ることにした。