第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -第四章-
◆Prologue___Sound of bells
雨の中に立つ、一人の青年を遠くから眺めていた。傘もささずに、風で斜めに吹き付ける雨を全身に受けて、それでも微動だにせずに、遠く遠く、その視線は彼にしか見えない彼方の景色を見ているようだった。
「竜崎!」
遠くからその名前を叫んだ。反応はなく、気づいてすらもらえない。
「L!!こんなところでどうしたの?」
「………」
ゆっくりと彼は振り返った。だけれど、その瞳の中にいつもの彼はいないように思えた。
「鐘の音が聞こえるんです。」
大きな黒い瞳はゆっくりと私の姿を確認すると、すぐにまた私の知らないどこか遠くを眺めてしまう。どこか知らない場所。遠い場所。
鐘の音、鐘の音、鐘の音……それは何の音?
「鐘の音?」
「ええ……もう、今朝はひっきりなしで。」
「そんなに……呼んでるの?」
「……” ”…」
「え、なに…」
「…………” ”」
竜崎の口が何か、私の知らない言葉を。
雨の音と、風の音で、聞き取る事すらできない。
___…………。
大きな音はやがて耳鳴りのように風景を追いつくし、色のない空が落ちてくるように、視界が暗転した。遠く小さくなっていく雨の中の竜崎を置いて、意識が引っ張られた。また、夢が覚める。
___………。
「まだ……こんな夢……」
やるせなさを枕に叩きつけた。ここまで来て、まだ私はこの夢に捕らわれるんだ。それは竜崎もその運命から逃れ切れていないということでもある。安心してはいけない、それこそ警鐘を鳴らされているようでもあった。時刻はまだそう遅くなかった。午後23時30分。寝るつもりでなく、寝てしまったらしい。
私はパジャマの上下のままスリッパをはいて、椅子に掛けて置いたカーディガンを羽織った。そうしてぱたぱたと響く足音を意識しながら二つ隣の客室へと向かった。この時間なら、誰かしらまだ、残っているだろう。とくに用事があるわけではなかった。ただ、誰かの声が聞きたかった。冷たい夢から、現実に引き戻して欲しかった。
カードキーを施錠し、広く明るい捜査本部が開かれるはずだった。しかし、あれ、と私は開けたままのドアの前で立ち止まる。部屋が暗い。こんなの初めてだ。
「おや。夕陽さん。」
部屋の隅の電気がかろうじて一つ付いていて、そこから顔を見せたのはワタリさんだった。
「ワタリさん、だけ?」
「はい。皆さん帰られまして。竜崎も今夜は早めに休息をとっていますよ。」
「休息……そうですか、よかった。」
つまりは捜査にあたっている人は誰もいないという事だった。ワタリさんも、小脇にトレンチコートを用意していて、そろそろ帰るのだろうか。皆が休めているようで良かった、と穏やかな気持ちになった。
「ワタリさんももう帰るんですか?」
「いえ。私は竜崎が起きてくるまで待機しなければ。」
「……。」
そっか。と私はなんとなく、ワタリさんの椅子の近くに会った簡易なスツールに腰を下ろした。キラ事件の捜査に当たっているとはいえ、Lは常にいろいろな事件の捜査にあたっていて、常に情報が入ってくる。Lが何時から何時まで返事ができない、などという状態は、それすらも脆弱性になるとかなんとか……隣で竜崎に聞いた気がする。そうした弱点をカバーしてくれるのはワタリさんなんだ。私は、夢の内容を思い出してぐっと喉の奥が痛んだ。
「夕陽さん、どうしました。」
座って、竜崎のように丸くなってカーディガンにくるまっていると、ワタリさんが心配するような声を掛けてくれた。心配かけたかな、戻って寝よう。
「すみません。邪魔するつもりはなかったんですが…。」
おかしいな。私はキラ事件のことは知っているけれど、Lとワタリさんの関係性なんて対して知らないのに。こんなに知った風に、ワタリさんをみただけで苦しくなるのはどうしてだろう。
「……夕陽さんは過去や未来が視えるのでしたね。」
「……はい。」
「竜崎のことが、なにか気がかりですか。」
びっくりして、私は大げさに膝に埋めていた顔を上げた。見上げると、ワタリさんが笑うような、見透かすような、それでいて遠くを見るような青い瞳でこちらを見ていた。ワタリさん。心配はかけられない、迷惑はかけられない、と沈黙しようとしていた思考は、あっさりその瞳に折れてしまった。
私は小さくなりながら、聞いてみることにした。
「鐘の音……って、なんですか。」
小さな吐息で、ワタリさんが息を飲むようなそぶりを見せた。
「それは、どこで聞いたのですか。」
「夢……です。くだらない……夢です。夢の中で、いつも竜崎が言うんです。」
「……」
「あんなの、未来じゃない。……させたくないです。」
蹲って、布に声が消えるように言葉にする。ワタリさんは立ち上がりどこかに歩いていくと、すぐに引き返してきてまた私の近くの椅子に座った。足音と一緒に、かさかさとした軽い音が近くに聞こえた。
「チョコレートをどうぞ。悪い夢には甘いものがいいですよ。」
顔を上げると、目の前に小さく包まれたキャンディーのようなチョコレートの包みがいくつか置かれていた。ワタリさんは子供を見るようなに穏やかに視線を落として私にそれをひとつ食べるよう促した。言われたとおりに小さな赤い包みを解き口に入れる。びっくりするほど甘くて、優しい味がした。
「……甘い。」
「Lも大好きです。」
「L……」
ワタリさんは、竜崎、と言わずにLと呼んだ。
私が思わず微笑んだところで、彼はこっそりと教えてくれた。
「こんなことをお話しすると夕陽さんは余計心配してしまうかもしれませんが……Lは、昔からそうなのですよ。よく”鐘の音が聞こえる”と言うことがあるんです。」
「昔から……」
「ええ。こんなに小さかった時からです。」
まるで孫の話のように、目じりにしわを寄せながら、ワタリさんは椅子から片手を伸ばして、幼い日のLの身長を示して見せた。私もつられて頬を緩めてしまう。だけれど、その意味はなんなんだろう、と私が疑問に思うよりも早く、ワタリさんは寂しそうにぽつりぽつりと話し始めた。
「あれは、Lが初めて私と一緒に捜査した事件でした。当時のLは7歳、出会ってから事件の途中で8歳の誕生日を迎えた男の子でした。身寄りのない子でしたが、それを気にも留めず、今と変わらない調子で、大人を驚かせてばかりいました。」
ワタリさんの目の前には、当時のLがいるようだった。愛おしそうに、懐かしむように、それでいて寂しそうに、ワタリさんは話し続けた。
「私は、小さなLに頼まれて事件に関連する施設を調べるうちに、Lの両親に関する記録を見つけてしまいました。それは、イギリスの歴史ある大きな病院の記録でした。彼らが生前どのような人たちであったかという記録ではありません、ただ、Lの生まれたその日に、他の犠牲者と同じく爆発に巻き込まれ、命を落としたこと__それだけが病院の面会記録上、名簿として残っていたのです。それはある看護師からの手紙に添えられていました。」
L=ローライトの誕生日。10月31日。ハロウィン。
その日に彼は生まれ、また、両親が命を奪われた。「父親の名前がLから始まっていたので、生まれた男の子にはイニシャルを付け、あとから本当に名前をつけるはずだったのでしょうか。それとも記録に残すために病院側でイニシャルだけでも付したのでしょうか。私にはわかりません。」、とその看護師からの手紙には書いてあったらしい。
「それは事件の解決に必要な情報ではありませんでした。私はその手紙をLから隠しておくつもりでした。ですが、Lは私の様子からなにか隠し事をしていると感じ取ったのか、ロックを解き、その手紙を読んでしまったのです。」
「…………」
「一瞬、私が席を立って部屋に戻ると、Lはその手紙を読んでいました。その時の彼はひどく落ち着いた声で私に尋ねました。『この手紙にある”the boy"って僕のこと?』と。私は嘘をつくべきでしたが、一瞬返答が遅れ、Lは、部屋を飛び出して行ってしまいました。」
「…………」
「雪の中で、裸足で、一人でどこかに行ってしまったLを、私は必死に探し回りました。そして、意外と近くに見つけました。それはすぐ隣にあった教会の中でした。祭壇の影に隠れるようにして、Lは小さく丸まって__泣いていました。彼が泣いているのを見るのは、それが初めてでした。」
____どうして、どうして、何も知らないはずの自分が苦しくなるのだろう。きっと竜崎は過去をもう振り切って今を生きているはずで、私がいまさら悲しんだって大きなお世話なのに、胸が、胸が、痛くてしょうがなかった。
「Lは私と目を合わせると、泣きながら、怒ったように、私に質問してきました。『どうして?僕は彼らを知らない。会ったこともない。なのになんで、”どうやって死んだか”、それだけのことでこんなに悲しくなるの?』と。………その時です。教会では鐘がずっと鳴っていたように思います。あの教会には、鐘が7つも付いていました。……今でも思い出すたびに、鐘の音が聞こえるような気がします。」
___鐘の音、鐘の音が聞こえるよ。ずっと鳴ってるよ。ワイミーさん。
泣き止んだLは、何事もなかったかのようにそう言ったらしい。
___ええ。もどりましょう。ずぶ濡れです。
「………どうして……」
「私には『それが普通なんだよ』と返すことしかできませんでした。………Lの考えは分かりません。それで犯人をより憎んだのか、それとも、本当に両親を他人と思っていて不思議だっただけなのか……ただ、そのあと一緒に帰るときほど、強く手を握ってくれたことはありません。そのあとは、雪でびしょぬれの服を着替え、冷えた体を暖炉の前で温めました。」
___ワイミーさん、鐘の音が聞こえる。鐘の音が、今日もすごくうるさいんだ。
その日以来、たまにLはそんなことを言うのだという。毎回それを一笑に付して、ワタリさんはお菓子をあげたそうだ。
______ワタリ、鐘の音が……今日もずっと聞こえます。
事件の終わりが近づくと、ふと思い出したようにそう言うらしかった。それはいつも、ワタリさんと二人だけの時だけだったという。
「昔はチョコレートをあげ、よしよしとハグしてあげたものです。ですが、もう私たちはいい大人になってしまいましたからね。」
自分の手のひらを見つめながら、愁いを湛えてワタリさんは頬を緩めた。
暖炉と本棚のある部屋で、ワタリさんが大きな椅子で本を読み、そのまえでLは床に沢山の資料を広げ、夢中になって謎を解く。いつのまにかワタリさんだけ寝てしまい、「見てください!」とLに揺り起こされる。自室で捜査をする以外にも、そんな日々があったらしい。
ワタリさんは遠くを、過去を見つめていた。
その視線の先に、小さなLと、ぱちぱちと弾ける暖炉の火が見えるような気がした。
「私も……どうして……ごめんなさい。関係ないのに、悲しくて……ごめんなさい。ワタリさん。」
泣きながら、情けなくなって私は顔を両手で拭った。
「いえ、大事なのは理由ではありません。気負わず、チョコレートをどうぞ。」
今度は金色の包みを解いた。中身はホワイトチョコレートだった。もごもごと食べると、やっぱり甘さが優しかった。……ちょっとばかり、竜崎の過去を覗きすぎてしまった気がする。できるだけ変わりなく過ごそう、鐘のことも、夢のことも、全部、今夜限りにしよう、と思った。
私が食べ終わるのを届けると、安心したようにワタリさんはパソコンの画面に向き直った。しかし、思い出したように、こちらに指をさして言った。
「あぁ、歯はちゃんと磨いたほうがいいかと。」
「はは……ありがとうございます。あの……Lはどの部屋に?」
なんとなく、思い付きで聞いてみた。するとワタリさんは驚いたように口をぽかんと開けたが、すぐにいたずらっぽく笑って教えてくれた。
「ここから西側に3つ先の部屋ですよ。」
「ありがとうございます。これ……ちょっともらっていきますね!」
こっそりと、音を立てない様に竜崎が寝ているという部屋に移動した。決して広くはない標準的な客室だった。部屋は真っ暗で、カーテンの向こうの東京の街灯りの方が明るいくらいだった。静かな部屋には寝息すら聞こえなく、初めは本当に竜崎がいるのか分からなかった。
だけれど、二つ並んだシングルベッドに近づいたら、ちゃんと布団にくるまって丸まるようにして竜崎は眠っていた。ちゃんと見るのは初めてだったのもあって、休めているその姿に安堵の気持ちを覚えた。
私はワタリさんからもらった赤、金、緑の小さなチョコレートの包みを、できるだけ音を立てない様に彼の枕元に置いた。かさり、と乾いた音がしたが、竜崎は起きる気配がなかった。
そうして、なんとなく名残惜しくなって、私も隣のシングルベッドにもぐりこんだ。布団の中でひんやりとした空気を感じながら、ようやく竜崎の規則的な寝息も聞こえてきた。
「おやすみ、L」
聞こえないように、唇だけを動かすようにその背中に声を掛けてみた。そして目覚めた竜崎がどうかチョコレートに気づきますように、とわくわくしながら目を閉じた。