第三章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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◆理想
「父さんからだ」
ポケットから携帯を取り上げて、月君は私に伝えるように、発信者の名前を読み上げた。
今日、月君は捜査本部に呼ばれるのだろう。
「あぁ、いや大学だけど、いま終わって友達といたところだよ。」
明るい声で話す月君を背後に、私は背を向けて、交差点の遅咲きの桜を眺めた。
ひらひらと、白い花びらが袖をかすめていった。
「……もちろん、今から向かうよ。」
遠くから聞こえる月君の声に、
一人で歩きだした覚束ない”嘘”に、私は耳を澄ます。
こんなにも、心を演じるのが難しいなんて。
嘘も駆け引きも、つくづく向いていないと思う。
二冊目のノートが欲しかったわけじゃない。
弥海砂を先に見つけてしまいたかったわけでもない。
大事なのは、月君のなかでの私の存在を、ある程度位置付けてしまうことだった。
「………捜査本部に呼ばれた。」
背後でぱたりと携帯を閉じる音が聞こえて、振り返ると月君が険しい顔でこちらを見つめていた。
なにかを確かめるような目つき、きっと私の伝えたことの真偽を吟味しているのだろう。
「さっそくだね。」
私はにこりと笑って見せた。精一杯、なんでもないように虚勢をはって、竜崎のように背伸びしてみたけれど、私にできるのは笑顔を浮かべることだけだった。月君にはどう見えているのだろう?
「ここまでは……空の言った通りということか」
「まだまだ。私の情報が正しいかどうか判断するのは捜査本部に行ってからでいいよ。」
「あぁ、せいぜい楽しみにしてるよ。」
「さすが!月君は余裕だね。」
“ケケケ!かっこつけてるんじゃないの?”
「………。」
元旦でのことや、夜神さんが倒れた日のように。
幾度もキラの前でミスを犯してしまった私は、「何者かわからない」という形のない警戒心を持たれることが一番危惧すべき点だった。
“私の知らないストーリー”で行動されてしまったら対処できない……それだけは避ける必要があった。
まずは敵意がないと認識してもらう必要があった。信用までは得られなくともよい。
キラを納得させる理由と証明を、行動で示す必要があった。
「月君!さっき話した通りだよ。あの日のさくらテレビのビデオを見てもらって、月君が第二のキラの可能性を言及するかどうか…っていうのが流河君の考え。キラなら放っておけばLが死ぬから、その可能性は推理しないだろうって。」
「まぁ、筋は通るな。」
「えへへ、それはもちろん、Lである流河君の考えだもん。私ができるのは、そのまま伝えることだけ。」
私にできることは一つしかない。
相手がキラであろうとも、同じだ。ナオミさんに信じてもらった時のように、「言い当てて信用させる」、その一手しかないのだ。
それを、ちょっと言い換えただけだ。
__“Lからの情報を流してあげるよ”、と。
物語の中で、月君が自力で潜り抜ける竜崎のトラップを、「情報を流してあげる」フリで、あらかじめ伝えるだけだ。物語の展開上は、私がそれを伝えても、伝えなくとも、変わらない。
竜崎を裏切らない形で、協力する姿勢を見せる。利害関係も、本音でなくたっていい。とにかく「事実を伝える」ための建前が必要だった。
キラ側に伝えた情報に偽りさえなければ、信頼まではいかなくとも、形だけの協力関係でいられるだろう。
「じゃあ、行こっか。」
歩き出した私を置いて、月君が戸惑うように腕を組んだ。
「ん?空もこのまま捜査本部に向かうのか?流河もいるんだろ。」
「うん、さっき近くのケーキ屋さんに用事があったから、大丈夫。」
「あぁ、スイーツ係……。」
__“竜崎が死なないならキラの協力をしてもいい”というのも
死神、キラ、目、ノート、という、ワードでキラを縛り、耳を傾けさせるのには必要だった。
そして、この表明が駆け引きとして何の抑止にもならないことも分かっていた。キラはどの局面においてもLを殺すチャンスをうかがっている。私の言葉ひとつで方針を変えるはずがない。だから私も、物語の展開を変えない程度の"協力するフリ"しかしないと決めていた。
「うん、スイーツ係の仕事中、たまたま近くで会ったっていえば大丈夫だよ。」
「……でもあいつの彼女なんだろ?」
「あ、うん、そうそう!だけど、捜査本部では秘密だからね。」
だけれど、心の奥底では願ってしまう。
__”竜崎が死なないのなら”
ここだけは、私の本心だった。
私はやっぱりキラを死刑台に送りたいとは、思えない。記憶を無くして竜崎と協力し合う月君を、私は知っている。
__だから、自分勝手な理想を描いてしまう。夜神月がキラをやめて、ノートがこの世界から完全に消え去って、竜崎とこの先の未来も友達として生きてくれないかな、と。
「………。」
__二人とも……。
__いや、そんなことができるのか……?
形にならない思考が形成されつつあるのを感じ、私は頭を振った。顔を上げると月君がおどけた様子で肩をすくめた。
「あぁそう。じゃあ僕と友達っていうのも秘密?」
「……いえ、せっかくなので普通に仲良くしましょう。」
「それ流河の真似か?」
それに、月君ともっと話してみたいと、友達になりたいと思ったのは本当だ。月君をキラであり、Lの敵として見たくない。ちゃんと向き合いたい。……「友達になって」というのは、あれは多少、竜崎を意識してみたところはあるけれど。
「あ、そうだ。流河君には私の本名、黙っててね!」
「………。」
こうして月君に空と呼んでもらっているのは、実のところ深い意味はなかったりする。ただ、竜崎に着けてもらった夕陽という名前で、竜崎の知らないところで活動するのがなんとなく嫌だと思ったのだ。
本名、という単語で言葉を失った月君にあははと笑いかけた。
「深い意味はないよ?」
「……空を殺したら、それこそ僕がキラだと流河に伝えるようなものじゃないか。」
「流石です。夜神君。」
「………やめてくれ。あれは一人で十分だ。」
月君をからかいながら、二人で捜査本部へと向かった。
ほとんど散ってしまった桜を見送って、私は春が終わりつつあるのを感じていた。季節が一つ過ぎていく。私がここに来てから、しばらく経つ。
記憶喪失で夕陽と名付けられた日のこと
竜崎に「そこにいてください」と言われた日のこと
ナオミさんを助けた日のこと
竜崎と観覧車に乗って決意した日のこと
自分の過去を知った日のこと
粧裕ちゃんやナオミさんと正義について話したこと
宇生田さんが死なずに助かったこと
……日が暮れてしまいそうなほど、いつでも思い出せる。
もう少し、もう少しできっと物語は変えられる。
月君や、まだ会わない弥海砂、それから死神のレムともこれからは一人で関わっていくだろう。
死神に近いものとして、精一杯やりきってやろう。
……ちょっぴり秘密と嘘が多くなってしまうかもしれないけれど、そこは大目に見てほしい。
「もうすぐだよ、空。」
空はまるで、君のように青く澄んでいた。
______Guardian 三章 -End-