第三章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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◆秘密と嘘
「月君を待ってた。」
桜のなかに立つ彼女は、不敵な笑みを浮かべてにこちらを指さした。
「えへへ。」
両腕を後ろ手に組み、楽しそうに体を傾ける夕陽は、いっそ演技がかっていると言ってもいいほどに柔らかく笑った。どうしてもこの女が笑うと、背後には流河がいるように感じる。警戒は緩められない。
「そうなんだ、僕に何か用?」
「うん、ちょっとお話したくて。」
夕陽は周囲を見回し、大きく深呼吸をした。そして再び、__僕の背後を__指をさした。
「私、死神が見えるんだ。」
__何だと?
血の気が引くのを感じた。
“ケケケッ”
____待て。次の言葉を待て。
流河のやつが、はったりを掛けるためにこの夕陽をひとりで送り出した可能性は考えられる。
この女はまだ「死神」という言葉しか口にしていない。キラの殺しの手段を特定するためのあてずっぽうかもしれない。刑務所の囚人を通じて警察に死神という単語は伝わっているじゃないか。
「……というところから話を始めようと思うんだけど、いい?」
なんの確認だ。
だがこの夕陽という女に関しては、少々状況が違う。
元旦に、警視庁の前で偶然出くわした。そして、彼女は突然目の前で躓いた。不自然な躓き方は、印象に残っている。リュークが見えることを隠そうとして、咄嗟に自分で躓き、「変な動きはよろけたから」と誤魔化そうとしていたのだとしたら…?
それに、父さんが倒れた日。
あの流河でさえ「キラか?」と穏やかでなかった状況で、妙に落ち着き払っていた。あれはもしかすると、キラのせいではないと知っていたからとも考えられないか…?
「……月君、大丈夫?」
なんか元気ないよ?とでも聞くような口振りだ。
………いや、どちらにしてもまだ早計だ。流河の近くにいて、死神やノートのことを知っているわけがないじゃないか。
「……いや、大丈夫だよ。それにしてもいきなり死神って、夕陽さんこそどうしたの?」
とりあえず心配するように聞き返す。様子見だ。
桜の散り切らない交差点で、信号が青になった。車は通らない。人気もない。風だけが強く吹くなか、一匹の死神だけが愉快そうにケケケと笑っていた。
夕陽は、今更自分が言葉足らずであったことに気づいたように目を見開いた。
「あ、ごめんね。つまり、月君の後ろにいる死神のことだよ。ね、リューク?」
“ケケケ……あれ?いいのか隠さなくて?”
「うん、もう大丈夫だよ、ありがとね。」
"んあ?……そうか!ケケケ!"
「ちなみに、ノートのことも知ってるので、月君がキラなんじゃないかなーとも思ってます。」
と、今度はわざとらしく敬語で首を傾げた。流河の真似でもしているつもりなのだろうか。こちらが話を聞かざるを得ないことを分かっているのか、随分と余裕そうじゃないか。それとも演技か?
それに、「キラなんじゃないかと思ってる」だと?
流河とは関係なく、自分の意見で物を話しているのか?この二人は、繋がっていないとでも言うのか?
しかし、それで納得する点もある。例の元旦、彼女が落とした「Lの代理です」と書かれた付箋、本当にLの命令で動いていたならば、あんな稚拙な手段は使わないはずだ。彼女は、流河とは別に動いているのか。そして、彼女はそれを流河に知られたくない?
だとすれば、この場で、キラであると疑う人物に話しかける目的は……。
「…………さくらテレビにビデオを送ったのは、君?」
「えーっ、違い違う!私ならあのとき流河君と一緒にいたし、キラなら死神が一緒にいるはずだし、大体、いつも一緒にいる私が今更Lを表に出せって要求するわけないでしょ?あのキラは別の、死神の目を持ってるキラ!」
「………………」
それはそうなのだが。
「月君はもっと賢いと思ってたよ……」
あからさまに落胆する。嘘だ。冗談じみた仕草に、思わず口が滑りそうになるところだが、まだこちらから情報は出せない。
どうやらこの女は、死神とノートと、目のことを全て知っている。
それにしても、喋りすぎだ。
警戒心がなさすぎる。馬鹿なのか?それとも……
「……いや、まったくもってその通りだ。僕もそう思うよ。」
__それともまさか、Lが全て知っているとでも言うのか?
死神がこの場に居ないだけで、この女がデスノートを持っていて警察に殺しを見せたとでも?
いや、それこそ早計だ。
Lは一刻でも早くキラを止めたいはずだ。
そう考えると、この女はLに、少なくとも流河にはなにも言っていないことになるが……
何を考えている?
「………それで何を言いたいんだ。」
どちらにせよ、僕がキラだという前提で話を進めるのはまだ早い。
「あはは、月君、今色々考えてるでしょ?情報は何一つ出さないぞって顔に出てるよ。」
挑発だ。
僕の表情が分かりやすいというなら、そちらも同じだと思った。「いま、どうしても話をきいてほしい」という焦りを隠しきれていない。さっきから口調やテンションが変わりっぱなしで、明らかにこちらの注意を引き付けようとしている。
僕の態度がつれないとでも感じたのか、夕陽はゆるりと笑っていた表情を幾分か引き締めた。
「提案。まずは警戒心を解いてほしい。私は、流河君になにも月君の情報を与えたことはないよ。死神やノートのことも。何一つ。むしろ隠してきた。これは個人的な問題なの。」
ずいっと近づきながら、攻めるように夕陽はまくしたてる。関係ないと言っているが、やはり流河の動きに近いものを感じる。
「仮に僕がキラだとして、その話、にわかには信じられないな。そもそも個人的な問題ってなんなんだ?夕陽さんはどう考えても流河の近くにいすぎる。」
夕陽は桜を見つめるように思案した。さすがに指を咥えたりしなかったが、ぼんやりとした仕草だった。
「理由……私が死神やノートのことを黙っている理由なら、3つあります。聞いてくれますか?」
言い切り、足元を見るようにして俯いた。今度はまた敬語か。
その必死さに呆れそうになるが、焦らずとももう僕はこいつの話を聞くほかないのだ。こちらが折れるような形になってしまうが仕方ない。両手を広げて、笑顔を作って見せた。
「……まぁ、リュークが見えているということは、僕もおいそれと立ち去れないからね。聞くよ。」
ありがとう、と呟きながら、夕陽は顔を上げた。そしてさっき指をさしたときのようにわざとらしく、指を三本立てて見せた。
「①言いたくない②月君がつかまっちゃったら困る③言って信じてもらえると思う?」
これは……なんなんだ?味方だ、とでも言いたいのか?
「はは、言って信じてもらえない。というのは頷ける。君がノートで実証でもしない限りは、この状況では君がキラ容疑者になりかねないし、流河の恋人や助手でいることも危うそうだ。」
「助手じゃなくてスイーツ係です!」
「あぁそう…」
それにしても、言いたくない、僕がつかまったら困る、だと?まだこいつの目的をはっきりと聞いていない。夕陽は、はじめからその話が本題として用意されていたかのように、ゆっくりとこちらを覗き込んだ。
「私の目的は、流河君を守ること。キラを捕まえる事じゃない。……この意味、分かる?」
__正気か?
しかし細められた両目は、本性を現したかのように、鋭くこちらを射抜こうとしていた。
”でたでた!ケケケ!こえー!”
「あぁつまり……夕陽という人間は、キラの敵ではないけれど、流河を殺そうとするならば……」
そこまで言って思った。
敵対するものは、どうする?彼女はそもそもノートを持っているのか?僕を殺すことができるのか?
死神やノートといった情報をLや警察に伝えることも「したくない」とさっき言っていた。
彼女は一体、何で僕を脅そうとしている?
「まってまって!脅そうとしているわけじゃないんだよ!」
思考を呼んだように、あるいは自分の話の運びが間違っていたことに気づいたかのように、彼女はあわてて両腕を顔の前で振って否定して見せた。
「だって、」
__それこそ脅しのように。
「正義感の強い月君がまさか、Lを殺そうなんて思わないでしょ?」
空気が凍るような声で、彼女は笑って見せた。
「今日までに解決された事件数約3000件……」
唐突に、淡々と夕陽の声が数字を述べた。
「そして検挙人数はその3倍。それは世界一の犯罪の抑止力と言っても過言ではない。」
「………」
「そんなLという存在を、まさか平和な世界を作ろうとしている月君が殺そうなんて、思ってないでしょ?」
顔は笑っていたが。いや、笑うことでしか人と話す術を持たないというかのように。
彼女は請うように、あるいは怒りや願い、悲しむように瞳を震わせていた。拳を強く握っている。無意識なのだろう。
「あぁ、そうだな。Lという存在は、自分勝手なようだが、それでも世の中に必要だ。」
「月君ならそう言ってくれると思った。」
そう、にっこりと、夕陽は満足げに頷いた。
「むしろ、いま月君がつかまっちゃったら、恐るべきもう一人の脅威の行方をつかめなくなってしまう。それは困る。」
夕陽は立ち上がり、背伸びしながら僕を真正面から見つめた。
「私たちは敵対しない。流河君の前でも私は何も知らないふり。一緒にもう一人のキラを探し出そう。」
話はまとまった、とでもいうようにすっきりと夕陽は言い切る。
いや、聞き間違いでなければ、”一緒にもう一人のキラを探す”と言ったか?
「ち、ちょっと待ってくれ。その話はまだ聞いてない。」
そもそも一緒にとは一体誰と誰を指すのか。僕が捜査本部に行くことなのか。
「私と、月君とでだよ?協力して、流河君や警察より先に見つけちゃおうよ。私ならノートに障らなくても死神が見えるし、簡単だと思うよ」
「僕に協力するだと?それこそ何故だ。」
流河を守るというのなら、キラ側に協力する必要は基本的にはないはずだ。こちらとしても、L陣営である人間をそばに置くことになるのは避けたい。
「あのキラは月君の指示になら従いそうだし、だったら私も繋がっていたほうが安心だからね。あとは……そうだなぁ、協力して成功したら、報酬が欲しい。」
「報酬……?」
「うん。二冊目のノートを、私に頂戴。まぁ、もしも”捨てるくらいなら”って話だけど。」
「………約束はできない、大体ノートをどうするんだ?」
「排除する。……説得次第ではキラ役やってもいいけど?」
また嘘だ。彼女はそんなことができる環境にいないはずだ。そして証拠として警察に提出する可能性は否定できない。
「だめだ。今、ここでは約束できないな。」
首を振ると、諦めたように夕陽は息をふーっと吐いた。はじめからそれほど期待していなかったのだろうか。彼女は「まぁしょうがないっか」とぼんやり言った。
「じゃあ、どちらにしても…私から一方的に協力させてもらうよ。……いま、この間のもう一人のキラのビデオへのLと捜査本部の見解と、流河君が近々どうやって月君を試そうとしてるか情報を流してあげる。本当かどうかは流河君やほかの捜査員の人を見ればわかると思うよ。」
「………」
本当に一方的に彼女から情報を得るだけならば。
聞く限り、こちらに損はないように思えた。彼女が虚偽の情報を流そうと、その場での判断に影響はしない。本当だったときは役立つだけだ。リスクを背負うのは夕陽のほうだ。
「ね、どうかな?」
「……あぁ、それだけなら良いだろう。」
「ありがとう!もし私が嘘をついていないって分かったら、引き続き協力させて。そして私と……」
なぜか高揚し、そして言いづらいことであるように声を落とした夕陽の声が、風に遮られた。道路の桜が舞い上がり、再び視界を一瞬だけ白く染め上げる。ばらばらと顔にかかった髪をどけると、彼女はもう一度こちらを見据えて、今度ははっきりと宣言した。
「私と友達になって。」
「………………」
"うおひょー!"
「……友達?」
聞き返すと、恥ずかしそうに、彼女は両腕を組んだ。しかしまた、いろいろな考えを誤魔化すように、へらへらと力の抜けるような笑顔を浮かべた。
「うん、だめかな?……正直、月君は流河君の敵だと思っていたんだけれど、実際に会ってみて思ったのは、興味、好奇心……それにキラの考え、正義って何?……いろいろ聞いてみたいなって思って。それに私、友達いないから。」
こいつもおかしなことを言う、と思った。親睦を深めるテニスといい、唐突な友達になってください、といい、流河と同じじゃないか。であれば、同じだ。友情を求めるなら、返すまでだ。
夕陽と流河が一緒にいて、恋人だと公言する一方で、二人がこうも別に動いているというのは、良い弱点になりうる。この夕陽の狙いが何であれ、まずは手を貸そう、協力しようという姿勢を示すのは悪くない。
「……じゃあ、夕陽って呼び捨ていいかな?」
すると、夕陽は口元に指をあて、なにかを考えるそぶりを見せた。
「うーん、流河君の前以外では、空って呼んでくれるかな?」
白々しい偽名の竜河はともかく、こいつも偽名なのか?Lの陣営はやたらと名前を使い分ける。
「……わかったよ。空。」
「…!うん!よろしく月君!」
「はは、流河が妬きそうだな。」
そう返すと、何が嬉しいのか満面の笑みを浮かべられた。