第三章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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◆月に桜
4月の終わり頃にもなれば、もうキャンパスには「日常」という言葉が訪れる。
「じゃあ、また3限にね」
「あ、ごめん!私、もう帰るんだわ!」
「えー。じゃあ私も帰ろうかなぁ。」
仮にも日本一、と言われる大学であるのに。日常が訪れてしまえば学生にとっては講義の優先度は高くなく。自分の苦労を忘れてしまったのだろうか、それとも「頭がいい」というプライドにもならない安心を得てしまったためか、自分が国の一端を担える立場であることを、皆が忘れている。
天才だ、優秀だ、ともてはやされることには慣れているが、それらを差し置いても、本質的に自分と彼らはそこまで変わらないはずだとも思う。自分の能力を伸ばすことができる、それを証明しているというのに。
だからこそ、違う。
自分は“あんな奴ら”とは違う。
自分の能力を心得ている。使える武器を心得ている。心得ているけれど、それを限界とはしていない。必要な労力も努力も自分で測って実践している。物事の善悪は自分で考えるし、人の良心も、家族の愛も決してないがしろにしたことはない。周囲の期待にも応えているし、それを自分の重荷とするほど背負うのが愚かなことも分かっている。
そのどれか一つでも、“彼ら”は実践しているだろうか。
嫌になっても、それが正しいことだからと、続けているだろうか。
否。していない。
でも、それも仕方のないことだ。彼らには可能性はあっても、強さがないのだ。
誰ひとり、それらに立ち向かう強さを、もっていないのだから。
僕がもっているように。
だから僕が__キラなのだ。
「こないだのキラのビデオ、昨日初めて見たんだよね」
「あー私も。バイトしてたからネットでみたよ。」
いつも通り。いつも通りだ。
耳に入る会話は悲しいことに“神ではない”キラのことだったが。
世間の認識なんて、所詮はそのようなものだ。人々はキラを色物のように扱う。一部の人間のみが、ひそかに「キラこそ正しい」と真に主張する。だが、今はそれでいい。キラはこの先もずっと、世界のために悪を裁いていく。誰が何と言おうと、その事実は変わらない。遅かれ早かれ、キラこそ正義だと、誰もがいずれ分かることなのだ。
“ライト、ご機嫌斜めだなー?”
「そんなことないよ。絶好調さ。リンゴ買ってやろうか?」
“おーっ!”
決して許すことのできない、あの偽キラのことは放っておけないが、それでキラの調子が崩れるようでは元も子もない。
あの騒動を受けて、今日あたりあの流河がひょっこり現れるかとも思ったが、どうやらキャンパスまでは出てきていないようだ。久々に普通に帰宅しよう。
足早に帰路につく。
春を終えようとするキャンパスの風景が流れていく。
そこかしこに掲げられていた「新入生」という文字はすべて取り払われ、足元にビラが散乱していることもない。新緑が生い茂り始めた木々と茶色ともクリーム色ともつかない、セピア調の講義棟が並んでいるだけだ。
「…?」
通りに出たところで、正面の道路に、ひとりの女が立っていた。
ぼんやりと視線を宙に投げながら。ただ、立っていた。
いくら車の通りが少ないからといって、信号の真ん中で立ち止まるのはいかがなものか。車が通る前に近寄って声でも掛けてやるか、と一歩踏み出したとき。人の気配に気づいたのだろうか、彼女は振り返った。
風が吹いて、青いワンピースがスローモーションのようにはためいた。今更ながら、見覚えがあると思った。
「あ、月君。」
道路に溜まった桜の花びらが渦のように舞い上がり、その隙間から顔を出したのは___あの夕陽だった。
流河のことを考えるとこいつに出くわすのか。しかも一人で。ため息が出た。
「そんなところに立ってると危ないよ。」
「ん?あ、そうだね。……ここだけ桜すごくて。」
そんな流河がするようなとぼけた返答をする。
どこか上の空でぼんやりと宙をみているような彼女の視線を追う。その先には分離帯に植えられた桜並木があった。たしかにそこだけ他の桜よりも遅咲きだった。風が吹くたびに、ピンク色の雨が降るようだった。なんだ、それだけのことか。
「それにしても、一人でどうしたの?あいつと待ち合わせでもしてた?」
彼女_夕陽__は、ことあるごとに流河の横にいる。数回、病院で会うこともあったが、それも竜河からの差し入れを届けるというおつかいの名目だった。それに、1月に警視庁の前で彼女が「Lの代理」などと書かれた付箋を落として、焦っていたことも気がかりだった。
リュークが見えていそうに感じたのは、ここまでくれば意味のない推測だ。もしリュークが見えていたとしたらもうとっくに僕は捕まっているはずだ。
とにかく、彼女が何者か。
ごく普通の、多少不思議さを漂わせる、しかし平凡な人間に見える。どうしてLなんかと接点を持つ?
もちろん欲しいのは__“Lの恋人”なんて答えではない。
「そんなところだよ、月君。」
あぁそう。ならもう講義の時間割からしてあいつは来ないと思うよ、と言おうとした。
「でもね、竜河君じゃなくて」
小さな鞄一つすら持つことなく。手ぶらの彼女は両腕を後ろ手に組みながらにっこりと笑った。
「月君を待ってた。」
風が、足元の桜を大きく舞い上げた。一瞬真っ白になる視界が開けると、夕陽はこちらを指さして不敵に__大胆不敵に微笑んだ。