第三章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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__やりすごせ。目を瞑って、耳を塞いで、何が起きても……すぐ終わるはずだから__!!
「夕陽!」
と、竜崎の声が自分の名前を叫んだ。
はっとして、私は現実に立ち返る。
__今、私は何をしようとしていた?
弾かれたように顔をあげる。
竜崎の座るソファから片手が伸びて、「ここに来い」というような動きをした。しかし、すぐにその思考は目の前のテレビ画面に戻ったようだ。
「…………キラめ」
苛立ちをあらわに爪を噛むその姿を見て。
こんなときでも竜崎は自分のことを気にかけてくれるんだ、なんて愕然として
「っ………?」
途端に、閃光が迸ったかのように、すべての音という音が耳に刺さり、景色が鮮明に映し出された。
周囲を見渡す。皆、各々、自分のできることに対峙していた。
__……いや、竜崎に「こんなとき」なんてないんだ。 いつだって、目の前の存在を見捨てはしない。
__あぁ、本当に自分は何をしようとしていたのだろう。何も見ないで、やりすごすなんて、
__“ここにいる”意味がないじゃないか
__自分で竜崎に言ったじゃないか、「手が届くところにいたい」って__!
「竜崎!!」
関を切ったように、身体が動いた。私は竜崎に駆け寄る。こちらを見てくれなくてもいいと思った。ただ、聞いてくれればいい。傍らに立ってその肩に手を添えた。
「私の言うこと___信じてくれる?」
小声で、素早く、竜崎にしか聞こえない音量でつぶやく。でも、添えた手にはぎゅっと力を込めた。結局考えるよりも先に体が動いたのだけれど、これは賭けだった。
「当然です。」
竜崎の返答は、私の言葉を待っていたような返事だった。彼にとっては賭けでもなんでもなかったようだった。視線はテレビに向けられたまま、しかし、胸の奥底に響く声だった。
私はその耳元まで屈んで、願うように言う。
「パトカーから警察官が二人降りて、倒れる場面が__“視えました”。あそこにいくと殺されます。」
言い終わって離れると、竜崎は、前髪に隠れて見えない表情で、なにかを囁いたように見えた。
しかし1秒と待たずに、振り返って部屋中に響く声をあげた。
「___皆さん!その場から動かないでください。……いまから北村次長に連絡を取り、警察全体の協力を仰ぎます。」
「な、なんだと…俺が直接行こうと…!」
竜崎の声に皆が注目する中、今にもドアに手を掛けそうな宇生田さんが声を荒げた。すんでのところで間に合っただろうか。それでもなお行こうとする宇生田さんを、相沢さんが制止した。
「落ち着け宇生田!」
「うるせぇ、指示が行き渡るまで待てるか!」
宇生田さんのその言い分に、相沢さんも一刻の猶予もないと感じたのか、制止する腕を緩めた。やっぱりだめか、私も宇生田さんを制止すべきかとそちらに向かいかけたところで、ひたすら携帯電話で連絡を試みていた松田さんが叫んだ。
「あ、あれは!!竜崎!!」
「……バイクですね」
テレビ画面の一つに、黒いバイクが映し出される。バイクは勢いよくさくらテレビ前でブレーキをかけると、細くて黒いシルエットの人間がヘルメットをつけたままエントランスへ駆け出した。
__あれは、あの格好は…
「まさか…ナオミさん?」
信じがたい光景だった。
捜査員の誰もが単身、バイクで乗り込む豪快な誰かの行動に目を奪われていた。
「……相沢さん 北村次長の携帯番号知ってましたよね?電話をして繋がったら私にください」
その隙に、竜崎は相沢さんに北村次長に連絡するように指示を出していた。私は宇生田さんをみやる。もう自分で飛び出す意思はなさそうに見えた。
「__Lです。お願いがあります。この報道を見て自己の正義感で動く警察関係者が出てきます。上に統制をとって頂かないと惨事になりかねません。」
一方で竜崎は、手際よく北村次長と警察への指示を進める。その視線が画面のナオミさんらしき人物に映った。ヘルメットをしたままの彼女が無事であることを確認し、一瞬だけ、私と目を合わせた。
「……そうです、はい。顔が見えない様に……」
__どうにか。警察のほうも顔が見えない様に統制が取れそうだった。
女性は数回、エントランスをこじ開けようとするが、やがて開かないと分かったのか、バイクに戻り、大きな金属バットのような長い棒を手にエントランスに向き直った。松田さんと宇生田さんはすっかり見入ってしまっている。
「ま、まさか…」
声を漏らす松田さんの予想通り、ヘルメットの女性はその金属の棒を振りかぶると、大きな動作でエントランスに投げつけ__ガラスを割って見せた。そして一人分のスペースを確保すると、何の躊躇もなくその棒をもって局内に這入っていった。数秒遅れて警備員が局外に逃げだした。
「………すげぇな」
「我々だけじゃない……一般人にもまだ立ち上がる人がいるんだ…!」
ビルの中に消えた女性に圧倒されている暇もなく、今度は別の中継カメラの映像を背景に、女性リポーターの声が響いた。
『ああ!と…突入です!さくらTVに車が突入しました!警察車両の様です!護送車でしょうか…』
__今度は夜神さんだ…!
大きな護送車がさくらテレビのエントランスに突入する。ナオミさんはもういないだろうか。万が一、轢かれたりしていないだろうか、とだけ一瞬不安になる。
「まぁ…」
電話を終えた竜崎が落ち着いた口調でテレビに注視する。
「ヘルメットの女性もですが……外からは姿を見られずにテレビ局内に入れますね。」
「そ それより誰が?我々の味方なのか?」
相沢さんがテレビを見つめる。竜崎も、警察への指示を終えて、ただ見守るばかりとなっている。
『この件に関して警察からはまだ何も発表されておらず…あっ…今 やっと一台のパトカーがさくらTV前に到着しました!』
__間に合わなかったか。
キャスターが護送車に続く警察対応のように解説する中、私は次に起きる光景を前に目を逸らす。
『あぁ!…駆け付けた警官二人が倒れました!わ…私達もこれから避難します。カメラは残し離れたところで実況を……』
「……っ」
助けられたものと、助けられなかったものと。
その犠牲はキラが顔だけで殺せるという事実を証明した。
ぐっとこらえ立ち尽くす私に、「この未来が視える」といって信じてくれた竜崎が手を握ってくれた。
勇気づけるようなその手も小刻みに震えていた。負けじと、私も握り返した。
しばらくそんな様子で騒がしく、そして淡々とキラの音声が流れるテレビを見守っていた。
すると
「夜神さんだ。」
と、ワタリさんが竜崎に携帯を手渡す。
「………やはりあなたが…」
と、驚いたような顔で夜神さんと通話をする竜崎だった。もう、大丈夫だろう。
振り返ると、相沢さん、松田さん、それから宇生田さんが夜神さんを心配し言葉を交わしていた。
__大丈夫。だいじょうぶだ。もう、誰も死なない。
ひとまずは安心だと、全身の力が抜けて、私はその場にへたり込みそうになる。いや、へたり込んだ。まだ皆忙しくて、誰もこちらには気づかないが、それでよかった。私は近くのソファに寄り掛かるようにした。
「……そうですか。ええ、代わってください。あぁ、やはり貴方でしたか。」
竜崎がこちらにぺたぺたと歩いて来た。なんだろう?と顔をあげると、すっかり緊張感のなくなった表情で目をおおきく見開き、「ナオミさんです」と私に携帯を差し出した。
”もしもし、夕陽さん?”
絶好調といっても差し支えないくらい、張りのある声だった。
「ナオミさん!やっぱり!どうしたんですか!?」
”……いえ、とくに用はないのだけれど、なんとなくね。私もやってやったわ!て言いたかっただけかな…”
はは、とハイな笑い声が続いて聞こえた。ふと横を見ると、興味深そうに竜崎が指を咥えてこちらを見つめていた。その至近距離に私は若干びっくりしつつも、ナオミさんに返事をした。
「私は、あります、ナオミさん……」
言わなければいけないことがあった。
さくらテレビに乗り込み、ビデオを押収したのはきっと夜神さんだ。だけれど、あの時のバイクの突入がなければ__あのとき宇生田さんは、飛び出していたかもしれない。竜崎の警察への指示は、時間がかかって、正義感によってもっと多くの警察官が駆け付けていたかもしれない。
__宇生田さんの命を救ったのはナオミさんだと思います。……とは言えなかったけれど。
「ありがとうございます……!」
最近涙もろくなったようだ。
ぼろぼろに泣きながら、ただ「ありがとう」としか言えなかった。
「夕陽、貴方が居てくれてよかった」
電話を切ると、竜崎の手が頭に置かれて、優しく撫でてくれた。
「辛い未来を、よく勇気を出して教えてくれました。次に何が視えても、一人にならないでください。私だっています。」
結局、さっき竜崎は何て言おうとしたのだろう?
でも、もうそれはどうでもいい事だった。
勝手に体が動いて竜崎に未来を一部伝えてしまったこと、
それを信じてくれたこと、
ナオミさんが突入し、宇生田さんが助かったこと。
全部、わたしの知らないストーリーだった。
答えはひとつじゃない、と私は大好きな竜崎に笑いかけた。