第二章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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◆生存
随分と長い間、放心してしまっていたようで、顔を上げると、空と名乗った彼女は跡形もなく消えていた。
脳裏に最後に言い残された、南空ナオミ、という名前が浮かぶ。
まさか、とページを探ると、物語にはしっかりと南空ナオミが夜神月と対峙するシーンがあり、その数ページ後に、南空ナオミの両親が捜査本部の窓口に連絡を入れるシーンがあった。
__そういうことか。
ほんのささいなきっかけだが、南空ナオミ自身は何もしていないが、彼女を心配した彼女の両親からの電話一本で物語は進むのだった。
頭のなかで記憶を手繰り寄せるだけでは、こういった細かい点に気づけなかっただろう。
彼女、空は、助けてくれたのだろうか。
「いや、でも…」
ひとつ、思うことがあった。
「ナオミさんは竜崎に会っても、”大丈夫”なのでは……?」
私が知るストーリー。
そこに至るきっかけは「レイ=ペンバーの恋人である南空ナオミの失踪から、12人のFBI捜査官のなかでもレイ=ペンバーの追っていた北村家・夜神家にターゲットが絞られる」という流れだ。それに、読む限りではLは、すでに夜神月にフォーカスして監視をしている。
であれば、ここでナオミさんが失踪しなくとも、「Lに会いたい。伝えたい情報がある」との訴えは、「レイ=ペンバーの恋人が動いた、彼の行動範囲に不審な事件があった」という形で、同じピースとして嵌まるはずだ。
「情報も……決め手にはならない…ってことは。」
ナオミさんのもたらす情報は夜神月=キラだと断定する説得力は持つが、証拠にはなりえないのである。
・レイ=ペンバーがバスジャックに遭ったこと
・キラは心臓麻痺以外でも人を殺せること
これらはナオミさんがLに伝えたところで、現時点でそれを証明するものは何もない。バスジャックの件はたとえ夜神月が認めたとしても、「恥ずかしかった」とか「それがどうした」と言い逃れをされれば証拠とはならない。心臓麻痺以外、という事実も、証明され得ない限りは同じである。
もちろん、本来私が知るよりもキラとしての疑いは濃くなる。
しかしLの勝利条件は、竜崎が言うように「キラですと言わせ、目の前で殺しをさせる」に尽きるのだ。現に竜崎は、一度も手を緩めていない。一貫して、「証拠」を求めている。
今、夜神月の疑惑が濃くなったとしても、次の行動はやはり変わらないはずだ。
「それに、このままだと、どっちにしても…」
ナオミさんへの警察の捜索は入るのだ。中途半端な時期に見つかってしまえば、「レイ=ペンバーの恋人が生きている」と夜神月に伝わってしまいかねない。それこそ顔写真を探すことも容易であろうナオミさんは危険かもしれない。であれば尚更、早めにL__竜崎に会うべきだ。
__言わなきゃ、いますぐ、いますぐ竜崎に…
「…………!!!」
水面に上がってきたように、私は目を覚ました。自分が眠っていたこと、夢の中で延々と思考をしていたことを改めて思い出した。
長いこと息を止めていたように、呼吸するごとに「あぁ、戻ってきたんだ」という妙な現実感がある。
真っ暗な自室は静かで、机の上のノートパソコンは夜中の2時を表示していた。あんなに鮮明に会話をして、触った感触も、自分とそっくりの少女の声も、考えていたこともまだ思い出せる…自分は、本当に眠っていたのだろうか。
しずかな部屋の中で、息だけがあがる。
「……ん……」
身体をよじると、金属がすれる音がした。ひんやりとしした空気を感じながら、首だけ傾けると、布団の上に銀色のチェーンが横たわっていた。きらきらと光沢を放つそれを、私は目の高さまで掲げてみる。やっぱり小さな本のような、薄いノートのような形の銀のプレートだ。
「これ……”ページをめくる”……?」
夢の中でしたように、試しにに声に出してみるが、なにも起こらない。あのぼんやりとした本が浮かび上がる現象は起きなかった。まぁ、夢の中でないと意味がないようだった。
……不思議な現象にはいまさら驚きはなかったが、不可解さだけが日を追うごとに重みをましている気がする。
いけない。はやく行動を起こさなければならない。
そこまで考えてから私ははっとして、上着を着て部屋を飛び出した。
「竜崎、竜崎!」
「どうしたんですか、こんな時間に。」
捜査の部屋に入ると、寝間着も着替えずに声を掛けた私に、竜崎が大きな目で振り返った。
「……寝ちゃった。大事な話があったのに…。」
一刻も早く、という思いで走ってきた私は、大した距離でもないのに息が上がっている。お茶を片手に背中を丸めてモニターに向かっていた竜崎は、ただならぬ様子の私に、目を細めるようにした。
「今日、Lに会いたいっていう人に会ったの。」
私は息を整えながら、竜崎に訴えた。久々に、また”おかしなこと”を言わなければいけない。
初めて会った日、「あなたのことを知っています」と明かしたように。
「私、その人を知ってた。」
「…………詳しく聞かせてください。」
前のめりに、途端に厳しい表情になった竜崎に呼ばれ、私は向かいの小さな椅子にちょこんと座った。詳しく。という事だったが、そのまま話すわけないはいかないだろう。ゆっくりと話し出した。
「私は、竜崎を知っていたように、その人のことも知っていました。」
まだ、こういう真面目なでは私は言葉をうまく崩せない。敬語になってしまう。隠し事をしているからだと言えば、それまでだ。
「名前は、南空ナオミさんといいます。」
「……みそらなおみ…どこかで…」
「過去、竜崎と事件を解決したと。確か、その事件の名前はロサンゼルス……」
「ロサンゼルスBB殺人事件、です。……そんな記録まで知っていたとは……驚きました。」
キーボードを数回叩き、過去の記録を参照しながら竜崎が正式名称を答えた。その名前に、私は大きく頷いた。竜崎は両手を膝に乗せてこちらを注視する。
「そうです!あ、でも……事件の全貌は知りません、分かるのは、南空ナオミさんが過去にその事件をLとともに解決したということ、それからFBI捜査官レイ=ペンバーの恋人だったという事だけです。」
「そうですか……彼女が日本に…そして夕陽は、貴方はそのあと」
「警視庁に向かうようだったので、声を掛けました。……こちらから連絡すると伝え、電話番号をもらいました。」
小さな紙きれを竜崎に差し出した。どうやって彼女を信用させたか、それについては竜崎は聞いては来なかったが、大方検討はついているのだろう。FBIでも日本警察でもなく、頭脳戦もできない私にとっては、「言い当てて信用させる」、結局のところ、それしか手立てはないのだから。
竜崎は私の差し出した紙をじっと見つめるようにした後、ゆっくりとした動作で受け取った。
「………まぁ、危険な賭けだったことは確かですが……結果としては英断だったと言えます。」
竜崎にしては珍しく、自分を納得させるように呟くと、指先でその紙を目の高さで開いた。疑いというよりはお咎めの気配を感じた私はびくびくしていたが、その言葉にひとまずは安心、とほっと胸をなでおろす。
「この携帯電話でかけてください。繋がったら私に。」
「はい」
同じく指先でつまみ上げられように雑に携帯電話が差しだされた。受け取ると、上目遣いのようにじーっと竜崎がこちらの一挙一動を観察しているのを感じた。私はそれを逃れるように手早くメモ上の番号を押していく。
ツー、と、アナログな音がして。ワンコール、
”もしもし、夕陽さん?”
ナオミさんはワンコールすら鳴り終わる前に出てくれた。それに、何故分かったのだろう?「なんで分かったんですか?」と私が言うより先に、携帯電話はいつの間にか立ち上がっていた竜崎にひょいと摘まみあげられてしまった。
「南空ナオミさん」
"____"
「Lです。」
”____”
「あなたにお会いしようと考えています。」
”___”
「ええ。彼女の言うことは本当です。」
”___”
「はい。それではそのまま待機していてください。」
手際よくと言うか、簡潔に、さらりと、あっという間に電話は切られた。そのやりとりをただ眺めるだけの私の横で、感動の再開のような会話もまったく聞こえてこなかった。元FBI捜査官とLとの会話だ。そのスピード感や慣れた仕事ぶりに一般人の自分の出る幕はない。
「夕陽、南空ナオミがここに来ます。同席できますか?」
「う、うん!」
そっと後ろに下がって、蚊帳の外になりかけていた私はまさかの申し出に驚いたが、しかし、言われてみれば声を掛けたのが自分なのだから、それは当然だった。竜崎はパソコンの前にまた戻っていった。
なにをしようか。せめて自分にできる、お茶でも淹れようかなと、眠気の残る頭でキッチンへ向かおうとする。
「……とりあえず身支度整えなきゃ…」
そういえば寝起きだった。髪もぼさぼさ、ゆるいシャツにスリッパという、とても人前に出られる格好ではないことに気付く。お茶を淹れるよりもシャワーを浴びなければ、失礼だ。私は冷静になり切れないまま、小走りで自室に向かった。